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21話 俺は

 「フォルティア、どこ行っちゃったんだろう」

 

 「そんなに遠くには行ってないと思うけど……」

 

 

 私の呟きにベリタスが答える。

 

 レオが教室から出て行った後、私達は普通に授業を受けた。

 

 そのさ中も、レオとフォルティアが帰ってくる事はなく。

 放課後、心配になった私達は彼等を探す事にしたのだ。

 

 

 「でも、こんなに探しても見つからないのよ?きっと、私達が思いつかないような場所に行ってしまったのよ」

 「思いつかない場所……」


 

 セルフィアの言葉に、私は考える。普通なら行こうと思わない場所。


 考えてすぐに「あ」と声を漏らした。

 入学してすぐ後に、ドクトリーナが校内を案内してくれていた時の記憶を思い出したのだ。


 

 『ここ、魔使いっていう、魔人にしか懐かないこわぁ~い動物がいるの。普段は入れないようにしてあるけど、もし入れそうでも、入ったらダメよ?』


 

 こちらを脅かすように説明したドクトリーナに、私は苦笑しながら頷いたのを覚えている。

 もしかして、フォルティアはそこに行ったのだろうか?

 

 

 「もしかして、魔使いの森かもしれない」

 

 「え?でも、あそこって入れないんじゃ……」

 

 「そうだけど、これだけ探してもいないんじゃ、そこにいる可能性も考えないと」


 

 私の提案にセルフィアとベリタスは顔を見合わせて、頷いた。

 それを見届けて「行こう」と声を掛ければ、力強い返事が返ってきた。




 



 

 「何、これ」


 

 魔使いの森。

 その森の入り口でもある扉は、普段蔓延っている植物の蔦は消え失せていた。


 試しに押してみれば、扉は音を立てて簡単に開く。

 その事実に、セルフィアが小さく悲鳴を上げた。


 

 「リ、リリア。もしかして、フォルティアは本当に……」

 

 「……急ごう」


 

 顔を真っ青にして言葉を詰まらせたセルフィアへ、私は答える。

 何かがあってからでは遅い。

 

 私達は駆け足で森の中へ入った。

 悲鳴が聞こえるまで、時間はかからなかった。


 

 ――きゃあああああ!


 

 「っ、今の悲鳴……!」

 

 「フォルティアの声だわ!」

 

 

 フォルティアの身に、何かが起きている。

 私達は急いで悲鳴が聞こえた方向へ走り出した。

 

 二度目の悲鳴がすぐ聞こえて、私達は足を走らせた。

 そして、目の前に広がる光景に、ベリタスが叫んだ。


 

 「レ……レオ!」


 

 そこには震えて座り込むフォルティアと、それを庇うようにして角の生えた狼に噛み付かれているレオの姿があった。

 

 アレは、魔使いだ。

 サクラとは違う、黒い禍々しい見た目をしていても、すぐに分かる。

 

 私は手を差し出し、意識を魔使いに集中させた。

 対人戦でイレックスが使っていた風魔法の様に、鋭い風を出すんだ、レオに当たらないように。

 


 「おい、そこの魔使い!お前の相手はこっちだ!」

 


 注意を引き付ける様に言いかければ、魔使いは簡単に標的をこちらに変えた。

 レオから離れ、血を蹴り上げてこちらに襲い掛かる。


 セルフィアが悲鳴を上げている。

 でも、私はこいつに負けたりなんてしない。


 

 「――ありがとう、二人から離れてくれて」

 


 思わず上がった口角。


 魔使いというのは本当に知能が高いらしい。

 こちらの余裕な態度に気付いた様子を見せるが、もう遅い。


 私の手からは、刀の様に鋭い風が吹き出し、魔使いの体を真っ二つにした。

 その体は宙を舞い、グチャリと嫌な音を立てて地面に墜落した。


 

 「や、やっつけたの……?」

 


 恐る恐る、真っ二つになった魔使いへ近づくセルフィアに「御覧の通りね」と返して、私とベリタスはレオ達の所へ駆け寄った。


 泣きながらレオの上半身を抱きしめているフォルティアと目が合い、私の存在を確認した彼女はその顔をくしゃりと歪ませた。

 


 「リ、リリアちゃん!どうしよう、わ、私のせいで、レベリオ君が……!」

 

 「フォルティア、落ち着いて。大丈夫、すぐ治せるよ」


 

 私はフォルティアからレオの体を奪うように抱えた。

 

 肩から首にかけての肉がえぐれている。出血量も多い。

 このまま放置してしまえば、確実に死ぬだろう。


 すぐ側でレオの声を呼ぶ悲痛な声が聞こえるが、今は治療する事に専念しなくてはいけない。


 私は血が流れ続ける傷口に手を当て、魔力の流れを意識する。

 手からは光が溢れ出し、傷口に吸収されるようにレオの体に溶け込んでいく。


 確実に治ってはいる。いるのだが、アロウが治癒魔法を使っていた時よりも確実に遅いその治りに、私は舌打ちをする。


 

 「クッソ……治癒魔法、そんなに得意じゃないんだよ……!」


 

 ――治れ。早く、治れ。

 そう願いながら治療を続けていると、掠れた小さな声が耳に入った。


 驚いてレオの顔を見ると、薄っすらとだが目が開いている。意識が戻ったのだ。

 それに気付いたベリタスも彼の名前を呼び、顔を覗き込んだ。

 


 「レベリオ君、大丈夫!?しっかりして、今、治してるから!」

 

 「魔使いは、どうなった?」

 

 「そんなのとっと殺した!そんな事より、今は喋らないで大人しくしてて!」

 

 「とっとと、か。……ハハッ、お前、本当に強いんだな。さすが、伝説の魔法使いの弟子」

 

 「ねえ、ちゃんと聞いてた?こんな時くらい、私の言う事、聞いてよ!」

 

 「……ごめん。俺、お前に酷い事、言った」

 

 「は?何言って――」


 

 何言ってんの、と言いかけて、私は言葉に詰まった。

 レオの瞳に、涙が溜まっていたからだ。

 

 

 「俺、さ。優秀な兄貴がいたんだ。その人は何をやっても完璧で、出来損ないの俺にも優しくて。俺の憧れで、自慢で……劣等感を感じる相手、だったんだ」



 レオは、弱弱しい声で語りだした。

 

 きっと、彼にとってとても大切な話なのだろう。

 私は聞いているという意思を伝えるため「うん」と相槌を打って続きを促した。


 

 「兄貴に、言われたんだ。お前は、人を助ける人間になれ、って。……怯えてるアイツを見た時、それを思い出して。そしたら、体が勝手に動いてて。……なんにもできないくせに、何やってんだろうな」


 

 レオの瞳から、涙が溢れ出した。

 その涙は重力に逆らって、地面へと落ちてシミを作っていく。


 

 「俺、ずっと思ってたんだ。死ぬのが兄さんじゃなくて、俺だったら良かったのにって。そしたら、きっと、兄さんはたくさんの人を救ってた。出来損ないの俺とは違って」


 

 彼の過去になにがあったのか、詳しくは分からない。

 けれど、涙と共に言葉が、思いが私の胸に突き刺さっていく。


 

 「なあ、俺は……俺は、アイツを、救えたのかなあ?」


 

 鼻水を垂らして、ぐしゃぐしゃになった顔で、レオは笑った。

 

 ――なんて不器用な笑顔だろう。

 でも、その笑顔は、今まで見てきたレオの顔の中で、一番格好よく見えた。

 だから、私も笑顔を浮かべて、口を開いた。


 

 「うん。フォルティアは、君のお陰で生きている。君のお兄さんじゃない、君が救ったんだ。……ありがとう、レオ」


 

 そう言って笑った私に、「そっか」と呟いて、彼は目を閉じた。

 ベリタスが慌てて彼の名前を呼ぶが、私が「気を失っただけだよ、生きてるから大丈夫」と伝えると、彼は安堵の溜息を吐いた。




 *




 「さあ、ちゃんと説明してもらいましょうか」

 

 「あ、いや、その。……すみませんでした」

 

 「説明」

 

 「あ、はい」


 

 今現在、私は保健室で正座をさせられている。

 レオの傷は治癒魔法で治したが、心配なので念のため運び込んだのだ。

 

 セルフィアとベリタスにはドクトリーナに連絡するよう頼み、私は校医の美女に事情を説明していた。


 そうしていると、いきなり保健室の扉が勢いよく開いた。

 驚いてそちらに目を向ければ、息を切らしたドクトリーナがいた。

 ……そして、今現在に至っている訳だ。

 

 目の前には、仁王立ちをしたドクトリーナ。

 彼女の額には青筋が立っていて、誰がどう見ても怒っているように見えるだろう。


 私はドクトリーナに事の経緯を説明した。

 フォルティアとレオが自分のせいで喧嘩してしまった事、放課後になっても二人が戻ってこなかったので探しに出た事、二人は魔使いの森で魔使いに襲われていたので助けに入った事……。

 

 説明を進める程に、ドクトリーナの顔は怒りから呆れの表情になっていく。

 それを見ている私は段々申し訳ない気持ちになっていき、最後の方はぼそぼそとした小声になってしまっていた。


 

 「……事情は分かったわ。でもね、リリア。貴女が強い事は分かるけど、まずは教師への連絡を最優先にしてちょうだい。貴女達に何かあったら、担任の私の責任になるんだから」

 

 「仰る通りで」

 

 「子供が何ババ臭い事言ってんの、まったく……」

 

 

 はあと溜息を吐いて、彼女は眉尻を下げて微笑んだ。

 そうして私の頭に手を乗せると、優しい手つきで撫で始めた。


 

 「貴女達が生きていて、本当に良かった」

 

 「……はい。ありがとう、ございます」

 

 

 子供扱いされる事に少しのむず痒さを覚えて、ぼそりと呟くように言えば、彼女は笑ってその手つきを乱暴なものにした。


 頭がぐらんぐらん揺らされる感覚に情けない声を出せば、彼女は「うりゃうりゃ~」と調子に乗った声を出した。

 これ多分、楽しんでるな。

最後まで読んでくださりありがとうございます!


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