凸凹パーティ
友情ものを書いてみました。
ロビン「ついにここまで来たな……魔王城はもう目と鼻の先 だ」
エクター「あぁ、とうとうここまで来たな」
2人は魔王を討伐する為にパーティを組んだ。冒険者である。
片方はドワーフのエクター 小麦色の肌に重厚感が感じられる毛皮付きの鎧を纏っている。精悍な顔つきもドワーフらしいモサっとした大きな髭が口周りを覆い台無しな感じが否めない。しかし、強靭な肉体とその技量で幾つもの偉業を成し遂げてきた男であり巷では勇者とも呼ばれている。
もう片方の金の刺繍が入った緑のローブに純白のマントを纏ったエルフはロビン 美の女神に愛された様な美しい銀髪に森の魔力を宿したような翡翠の瞳をしており幾つかの国でお姫様に求婚されたこともある。そんな彼だが闘いになれば強力な魔法と豊富な知識で幾つもの町や村の危機を救ってきた男であり巷では賢者とも呼ばれている。
2人は辺り一面に広がる純白の雪景色とその向こうに聳え立つ1000年以上前から人類の恐怖の象徴として存在し続ける魔王が住む城を眼に捉える。
それは、2人がここにたどり着くまで目にしてきたあらゆるも建造物とは違った。まず城の全体像が逆三角形のような形をしておりどうやって支えているのかわからない意味不明な設計であったそして城の中層部分から四方に16本伸びる巨大な鎖が大地に深く突き刺さっている。そして極めつけには普段魔力が見えないエクターが視認できるほどの膨大な魔力が城の頂上から立ち上っている。
絶望そのもの様に感じる魔王城に歴戦の戦士である2人にも冷汗が出る。しかし、2人の選択肢に引き返すというコマンドはない。
ロビン「エクター今日はこの辺で野宿するぞ、明朝と共に魔王城に攻め入る」
エクター「わかった。焚き火の準備をするからお前はいつも通り結界を張ってくれ」
ロビン「いいだろう」
2人は慣れた手つきで各々野営の準備を始める長年やってきたことを坦々こなす。
そして西日が完全に落ちる頃に夕餉の準備が整った。
焚火を2人で囲いながらエクターが作った料理を2人で食べる。いつもより2人の会話が少ないのは明日の戦闘に集中しているのが半分恐怖が半分といったところだった。
エクター「まずいか?食事が進んでいないようだが」
ロビン「まぁな、だがいい加減このドワーフ料理にも慣れてきた」
エクター「14年も食い続けておいてまだそんなことを言うか」
ロビン「当たり前だ!私はエルフだぞ!14年そこらで故郷で150年間食べ続けたエルフ料理の数々を忘れる物か!!」
エクター「相変わらずだなロビン。出会った頃と何一つ変わっておらん」
ロビン「エクターそういうお前は少しむさ苦しくなったな」
エクター「お前らエルフと一緒にするなこちとら引退を考える年ごろだ」
ロビン「人類の希望、勇者であろう者がなにをいう」
エクター「賢者と呼ばれているくせに寿命の存在をしらんのか?」
ロビン「......」
2人は何気ない会話をしながらいつも通りお互いを煽りながら食事を再開する。今までの経験をはるかに上回る敵に挑む前は大体こんな感じでありいつも通りと言えばそれまでなのだが......
ロビン「なぁ、エクター今度料理を教えてくれないか?」
エクター「どうしたいきなり?変なものを鍋に入れたつもりはないが......」
ロビン「別に異常をきたしたわけでもないわっ!!あとごちそうさま!!」
ナチュラルに煽ってくるエクターに腹を立てつつも律義にご馳走様をすると照れて赤みがかった顔を伏せる。そして言い訳するかのように言葉を続ける。
ロビン「そのだな......お前が死んだ後もまた食いたくなったら困るからな」
エクター「そうか...それならこれをやる俺の料理のレシピ一通りだ。明日生き残ったら勉強するといい」
ロビン「お前さ......フラグとか気にしないの?」
エクター「そんなもの今更なんだというんだ。今まで何百と切り抜けてきただろ?」
ロビン「そうだけどさーお前今回は魔王だぞ?!1000年間不敗の化け物だ」
ロビンの言葉にエクターは押し黙る。魔王それは2人が産まれるずっと前から存在しエルフ、獣人、ドワーフ、ヒューマン、からなる人類につい数年前まで互角以上の戦いを繰り広げていた、魔族の絶対的王。
ロビンとエクターの活躍があり今は優勢であるが、魔王がいる限り人類に勝利はないだろう。
エクター「......そうだな、お前の弱気な態度には腹が立つが言いたいこともわかる。だが俺達は絶対負けん」
ロビン「なんで言い切れるんだ?」
エクター「俺には最高の後衛がいるからだ」
ロビン「エクター......ふぅー、エクター」
エクター「なんだ?」
ロビン「一度しか言わないぞ。お前は私が今まであった前衛の中で最高の前衛だ」
エクター「......明日は雹が降るかもな」
ロビン「おいっ!!失礼が限界突破しているぞ?!」
柄にもなくお互いの顔を見つめ合う。そのまま10秒の時が立つとどちらから先に噴き出しただろうかエクターは天に向けて呵々大笑の笑いを上げロビンはお腹を抱えるようにして笑い出す。
暫くの間笑い続けた後、たわいない昔話をしながら洗い物の片付と装備の確認を行う。そしていつもより早く寝袋を纏うが、緊張が抜けない2人はなかなか寝つけづにいた。そこでエクターが提案を持ちかける。
エクター「ロビン久々に振り返らないか?」
2人がどうしようもない強敵に挑む際によくやることであり最早お互い無自覚であるがルーティン化していると言って良い。
ロビン「......いいだろう。前にやったのは一年前だったか?なんだか久しぶりだな」
それから夜天を眺めながら初めてパーティーを組む時のお互いの印象や初めて真面に連携が出来たクエスト、ダンジョンで偶々拾ったアイテムが実は国宝級の価値があったこと、伝説の銘酒を求め霧の深い森の奥に探索しに行き2人そろって遭難して死にかけたことなんかを振り返りながら語らう。
人々が語り継ぐであろう華々しい伝説や偉業などではないなんてことないしょうもない冒険の数々を
体のこわばりが解けていく明日に迫っている決戦に向けて神経が研ぎ澄まされていく。
もう2人に一抹の不安もない
エクター「ロビン......勝つぞ」
ロビン「当たり前だ。魔王を討ち果たし私の輝きを世界中の人に称えさせてやろう」
エクター「お前は、相変わらずだな......」
ーこれは伝説の1ページにも乗らないドワーフの勇者とエルフの賢者の魔王討伐前の前日譚ー
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