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江成錫瑪と怪奇な話 ~のっぺらぼう~

作者: 三昧瑪瑙

のっぺらぼうとは関係なかったりする。

 のっぺらぼうという怪談を御存知だろうか?

 ある夜、商人が道端で蹲る女性に声をかけるとその女性には顔が無く、恐怖に慄いた商人が逃げた先の蕎麦屋台でそのことを話すと「こんな顔だったかい?」と言い振り向くその店主も顔が無かった。

 大まかな話の流れはこのような感じの怪談だ。

 化け狢の悪戯というオチがあるのだが、その部分は段々と省かれていき「再度の怪」としての恐ろしさだけが強く残っている。

 のっぺらぼうの恐怖とはどの部分に焦点を当てるべきだろうか?

 顔が無いという異常性?

 逃げた先で出会うという再度の怪という性質?

 或いはのっぺらぼうのことを話した相手の人がのっぺらぼうとなるという見方もあるかもしれない。

 解釈はそれぞれ。


 私、江成錫瑪は――。




 ある夏のこと。

 いつものようにバイトをしながら、本業の方への依頼に繋がる人は居ないかとアンテナを立てつつお茶を一杯。

 ここは寂れた喫茶店、場所は神社の向かい側で立地が良いのか悪いのか。

 祭りでもあれば人が来るのであろうが、本日は夏休みの頭。

 じりじりとした熱気をものともしない虫取り少年の声を外に、冷房の効いた店内でグラスの中に溶ける氷の音を聞く御老人。実に優雅。


 ――暇だ。


 夏場なのだから、怪異や霊障や怪談染みた何かしらで悩む人の一人や二人や三人四人五人十人十色で嬉しいな、とならないモノだろうか? いやなれ。

 あまりにも手が空きすぎたために昼食までとってしまう。

 本日のメニューはベーコンレタストマトサンド。

 近所のパン屋で今朝焼き上がった食パンのスライスにサッとバターを塗り、瑞々しいレタスにトマト、カリカリに焼いたベーコンをのせてサンドする。美味しくないはずがない。


 大口を開けて一齧り。


 ふっくらとしたパンはバターが水気を程よく弾いて柔らかな触感で迎え入れ、バターの塩気とパン特有の酵母の香りが先ず口に広がる。歯が柔らかな感触を引き裂いた先で待ち受けるのはシャキシャキとしたレタスの歯応え、続いてトマトの果汁が迸る。先ほどの塩気がレタス引き立て更にトマトの酸味と調和し、続くカリカリのベーコンの油分と混じり合い、まるで天然のケチャップと言わんばかりに完成された味わいが口中に広がる。無論、それはメインともいえるカリカリベーコンの肉肉しい味わいを何倍にも楽しく、美味しいものとするのは言うまでもない。



 ――完食。


 心地よい昼食に舌鼓を打つと「なんかもう今日はこれで終わりでいいんじゃないかな」という気持ちになってくる。実際バイトもそこそこに帰り支度を始めようとしていた。

 そのとき――。


 メールボックスに反応があった。依頼だ。

「恐ろしいことが起きているのでとにかく来てほしい」

 その件名と本文には住所だけの簡素なメール。

 悪戯の可能性はなんかすっごい霊的なアレソレなパゥワーで排除されているので本物だ。

 よほど切羽詰まっているのだろう。


 よし、とりあえず夜までこのままバイトしよう。


 理由はない、直感。強いて言うのなら緊急過ぎて怖ぇから。

 バイトが終わってからもしばらく依頼の場所周辺をうろうろ。なぜなら怖いので。


「夜道こえぇぇ。」思わず口に出る。


 仕方ないので観念して依頼者に連絡をし、住所の元に向かう。

 君子危うきに近寄らずしかしてお財布事情には勝てない。

 聞けば。

 家族の中に急に一人増えたのだがそれが誰なのか分からないのだという。


(とりあえずアルバム見たり役所にでも行って確認したらよいのではないだろうか?)


 依頼料を貰いつつもそんな疑問というかもはや答えを言ってしまう。

 どうやら何らかの干渉で依頼者家族にはその概念が消えている様だ。

 一気に面倒くさくなっちゃったな。


 先ほど依頼者宅付近をざっと見た感じで、これが私の手に負えるものではないことは察していた。

 なので簡易的に不安感や感情が負の方向へ振り切れるのを抑える御呪いだけしてその日は帰り、本部の方へこの件を回すことにした。5000円の仕事じゃない。

 しかし、昨今の災害で霊脈やら何やらが乱れに乱れまくったり、それで災害が起きたりと本部はいつも人手不足と一蹴された。5000円の仕事じゃないよ……。


 私には場や道を清浄化する道具も力も無い。どうにもできない。


 ――仕方ない。


 私はやりたくないことをすることにした。



 後日、私は反動なのか一層空気の悪くなった依頼者宅へと足を踏み入れた。

 そして浸かった、その不可思議な怪異に。

 段々と意識がぼやけていく、頭の中から自分を形作るナニかが剝がれていく。

 きっとこのままでは自分というものが分からなくなる、そう感じるまま、浸る。沈む。

 暗い、暗い、暗い、海底の様なそこから更に深く、深く、深く。

 身体の感覚も輪郭もなくなったころに、それが来た。

 それは赤子のようで、人が人になる前の、そんな代物。

 私も、わたし、ワタシ、私? あなた?

 差が無くなっていく、違いが消えていく。

 ひとつになる。わたしになる。あなたになる。


 ――アナタガダレ。


 ――ワタシガダレ。



 ベッドから起き上がるとまたいつもの日常が始まる。

 あたたかな家族に囲まれた平和で穏やかな日々。

 おとうさん、おかあさん、生んでくれてありがとう。


 そんな夢を見た気がした。

 私は、江成錫瑪。

 バイトで食いつなぐ、しがない拝み屋。

飯のシーンの後は全力で槍を投げました。

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