戦いの終わり
「な、なんとか、耐えきった……」
メイエンは、攻撃の余波から避難所と街を守り抜き、肩で息をしつつも安堵の表情を浮かべていた。
「メイエンさん、大丈夫ですか?」
「え、ええ。勇者様こそ、お疲れ様でした。お見事なニードルで驚きました(本音)」
「いやぁ、メイエンさんのバフのおかげですよ!やっぱりメイエンさんはすごいなぁ……」
こちらもうまく誤魔化せたらしい。悪霊は自らの力に気づくことはなく、メイエンのサポート()によって強力な攻撃ができたと思い込んでいた。
「はは、それほどでも…… さて魔物が全滅したか確認……はしなくてよさそうですね。」
もはや、原型をとどめているものは一匹もいない。残っている部分よりも、貫かれて消え失せた部分の方が明らかに多いくらいである。
弾幕とも言えるほどの槍が降り注いだのだから無理もないが。
「そういえば、結構派手に壊しちゃったみたいだけど大丈夫でしょうか……?」
「ああ、そこは安心してください。霊能術師たちは、壊れた家屋などの修復をすることもできるので。」
「へー!それはすごいですね。」
これは半分嘘で、半分本当である。
霊能術師は修復を得意とするが、これほどの規模で破壊されたものを直す力はない。
ただ、今回は悪霊が生み出した霊力の塊(槍)が無数に刺さっている。これを分解し、霊力の供給源とすれば大規模な修復術を発動できる、というのが本当のところであった。
まあ、元々はクプルムアウルたちが針だらけになってそのまま落ちてくる…くらいの規模を想定していたので、無数の槍によって一帯が破壊され尽くしたこの状況は、完全に予想外なのだが。
終わりよければ全てよし、とメイエンは自分を納得させた。
ふっと息をつき振り返ると、避難所の方から護衛の兵士たちがぞろぞろと出てくるところだった。
いち早く住民を避難させ、被害を防いでくれた彼らを労わないと。メイエンが右手を挙げようとする。
兵士の一人が叫んだ。
「りょ、領主様!!!早くこちらに!急いでください!!!」
何を慌てて……もう魔物は全て殲滅したというのに。
そう思うと同時に、メイエンは自分が同じ失敗をまた繰り返していることに気がついた。
「領主様!!そ、そいつは危険です!!早く離れて!!!」
クプルムアウル数百匹を一瞬で屠った悪霊は、その脅威を正しく認識されていた。もちろん、邪気は全開で振り撒いている。
「(し、しまった……)」
ここまで兵士たちに説明するタイミングがなかったとはいえ、この状況は自分の落ち度である。
兵士たちに説明したいが、悪霊の元を離れれば、彼らは悪霊に対して今にも攻撃を仕掛けてきそうな勢いだ。
そうなれば悪霊は自分の正体に気がつく。世界の終わりである。
「(ど、どうすればいい!? この子から離れず、かつ兵士たちに説明を…?)」
一応、通信の霊術は存在する。しかしそばにいるのはあの悪霊。本人の意思がなくとも、通信傍受されてしまうことは明確だった。
「(兵士たちだけに伝わる言い回しで…… いや、無理!さすがにどう説明しても気づかれる。)」
いや、まてよ。
一つだけあった。兵士と悪霊、両方に聞かれても良い説明が。
メイエンはニヤリと笑い、窮地を脱出可能とした自分の頭脳に酔いしれた。
「落ち着いてください、みなさん。この子は私が『喚んだ』のです。一緒に戦ってくれます。」
勇者(悪霊)からは、当然「勇者召喚」のことだと伝わったであろう。
さらに、兵士たちからは霊能術による「式神召喚」だと認識されるはずだ。式神にも色々ある。魔物や妖の類を使役するのが、私の得意分野であることは周知の事実だ。
実際には、こんな凶悪なものを使役することはあり得ないのだけれど…
「りょ、領主様が?」
「ええ。その通りです。なので落ち着いてください。魔物の襲撃という脅威は去りました。これから修復作業に入りましょう。」
最初は戸惑っていた兵士たちも、なんとか納得したようだ。
なんと言っても状況証拠がある。私がこの子と一緒に登場し、魔物を全滅させたという事実は変わらない。何より今のこの子に、他人を害する意思は微塵も無い。
こうして、魔物の襲撃という災害は、完全に決着を迎えたのだった。
— おまけ: メイエンの受難再び —
メイエンは兵士に混ざり、自らも修復作業を開始した。手を動かしながら、これからのことについて思考を巡らせる。
「(悪霊を式神として紹介したのは我ながら良かったかも。一般兵士たちに真実を話すわけにはいかないし…。あとは、屋敷に戻ったら、邪気が漏れないよう封魔の呪具を持たせて、あとは勇者という設定の式神なのだと周りには説明しよう。)」
一時はどうなるかと思ったが、終わってみれば今回は最小限の被害で済んだ。
ちなみに当の悪霊は、避難所に来ていたドグマに回収してもらい、先にお屋敷へと送ってもらっている。
もうひと段落したら自分も屋敷に向かおう。そう思っていると、兵士たちから話しかけられた。
「いやはや、さすが領主様です。あのような強力な式神を使役するなんて……」
「ほんとですよ!自分なんか、もっとやばい魔物が現れたんじゃ無いかってびびっちゃって。」
むしろそちらが正解であるが、メイエンは作り笑いで受け流した。
「ところで、領主様。一つ不思議なんですが。」
「はい、何かありました?」
なんだろう。一応、矛盾なく説明できたし、みんな納得したと思ったのだが……何か不自然な部分があっただろうか。
「いや、式神って、妖や魔物をそのままの姿にするか、大きさを単純に小さくして使役するのが普通じゃ無いですか」
……こ、この流れはまさか……
「なんで、あんなかわいらしい女の子の姿で使役してるんですかい?」
……
「おいおい、ありゃいうて男の子じゃなかったか? 服装とか喋り方は男っぽかったぞ。」
「ん?そうか。まあ、どっちにしろ、小さい子供の姿にしたのは不思議だな。」
「領主様、何か理由があるので?」
もう真実を語ってもいいのでは? 悪霊は屋敷に行ってるし、大丈夫じゃないか?
ここで無理をしなくてもいいじゃ無いか。兵士数人に、「終わりの森の悪霊が解放されちゃって…… てへ。」って暴露してもいいじゃ無いか。
心の中の悪魔が囁く。
しかし、そこはメイエンである。セレビ領の誇り高き領主は、どう答えるのが最も安全かを理性的に判断できていた。
「….だからです」
「え?なんですって?」
「わたしが、ショタコンだからです!!!!」
「華奢な見た目でめっちゃ強い少年(早口) と一緒じゃないと、戦場に立つモチベが上がらないんです!!!」
今日も、召喚士(偽)は嘘に嘘を重ねてゆく。世界の平和を守るために。
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