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それぞれの戦い

「勇者様。お願いがあるのですが。」


「は、はい! 僕に手伝えることがあれば、なんでも言ってください!勇者として喚ばれたんだし…がんばります。」


「助かります。では、今回の討伐は勇者様にお任せしたいのです。」


「なるほど、僕が討伐を……って、ええええええっ?!」


当然の反応である。勇者(悪霊)の自覚としては、自分はこの世界に召喚されたばかりで、戦い方など教えてもらってない。


「ダメでしょうか……」


「い、いや、ダメとかじゃなくて。僕まだ修行も受けてませんし。それにいきなりあんな数、絶対勝負にならないじゃないですか!」


確かに勝負にはならない。そこは間違っていないが、まともに戦えば圧勝するのは悪霊の方である。アリが数百匹いても、象を倒せないのと同じように。


そもそも、クプルムアウルは金属の羽を飛ばす物理攻撃しかできない。またそれほど硬さもないため、悪霊の攻撃を喰らえば一瞬で絶命するだろう。


悪霊を戦わせる選択をした時点で、メイエンは既に、討伐に関しての心配は一切していなかった。


悪霊が自身の正体を思い出さないよう、どう誤魔化すか。また悪霊の攻撃の余波が避難した住民へ向かうことを防ぐ。この二点に腐心している。



「勇者様、大丈夫です。私がサポートします。どうやら今回の魔物はそこまで強くない様子です。勇者様の初勝利を飾る相手として、適切であると判断しました。」


「ええ…ほ、本当ですか…?」


まだ心配そうにはしているが、メイエンに持ち上げられて満更でもない表情である。メイエンは一気に畳み掛けることに決めた。


「もちろんです。まず私が勇者様を強化する術を掛けます。それで勇者様の力は1000倍くらいになります(嘘)」


「マジですか」


「マジです」


大嘘である。むしろデバフをかけたいくらいである。



「さらに、勇者だけに使える最強の攻撃霊能術をお伝えします。勇者専用なので、練習とかしなくてもいきなり使えます(嘘)」


「マジですか」


「マジです」


大嘘である。メイエンが教えようとしているのは、初歩以下の最弱霊能術である。3歳くらいの子供が練習のために覚えるやつである。


かくして、メイエンの綱渡りが幕を開けた。


一連のやり取りを聞いていた兵士は白目を剥いて気絶していた。




「では勇者様。まず強化の術を掛けさせていただきます。」


「お、お願いします」


「はい、ちんからほい(適当)」


適当な呪文を唱えた。無論、なんの効果もない。


「う、うおおおっ!?た、魂の底から力が無限に湧いてくるような感じがあります…!」


元々の潜在能力である。「無尽蔵の霊力」と言われた悪霊なら、当然の感覚だ。


しかしこれで、「自分の力はメイエンのサポートによるものだ」という刷り込みができた。多少大規模な術が発動してしまっても、誤魔化すことができるはず、というのがメイエンの作戦だ。



「では行きましょう。」


「は、はい!」


メイエンは勇者(悪霊)と二人で村の中に入る。


クプルムアウルたちがこちらを一斉に注視した。そこでメイエンは、悪霊の邪気を隠蔽するために張っていた結界を解く。


襲い掛かろうとしていたクプルムアウルたちは、一斉に動きを止めた。


スズオオカミほどの魔物ならともかく。悪霊が素で垂れ流している邪気は、クプルムアウルにとっては強すぎる。軽々しく襲い掛かれる相手ではない。



「あ、あれ?襲ってきませんね。」


「ご安心を、勇者様。私の力で魔物たちがこちらを攻撃しないようにしております(嘘)」


「さすがメイエンさん…!!これなら、本当に僕の攻撃だけでも倒せそうですね。」


「もちろんです。では、次に勇者専用の最強攻撃霊術(大嘘)を教えます。私の後に復唱してください。」


『針となって敵を刺せ: ニードル』


ニードルは、子供の霊能術師が初めて覚える霊能術である。


針で軽く刺したようなチクリとした痛みが走る、初歩中の初歩。血が出ることもなく、ダメージは0で、攻撃霊術ですらない。


いくら最凶の悪霊といえど、ちょうど良くクプルムアウルを倒せるはずだ。メイエンはそう考えた。また念には念を入れ、避難所方面に防護結界をはろうか……。


悪霊はメイエンに向かってこくりと頷いた。


「わかりました。『針となって敵を刺せ: ニードル』」


瞬間、何か大きなものが流れるような感覚をメイエンは感じた。ニードルの結果を確かめるべく、空を見上げる。


空に、鉛色に光る棒状のものが、無数に発現していた。


「….え。あれ、針かしら…。なんか大きさが…」


メイエンが目を凝らす。


「槍ね。……ってえぇぇぇえ?! や、槍?!」


無害な悪戯霊能術であるはずのニードルは、命を貫く無骨な金属の槍として顕現していた。


勇者(悪霊)は自身が発現させたそれを見て感動している。


「こ、これがメイエンさんのバフで強化された、勇者専用の技なんですね!初めてなのにこんなことができるなんて…よし!気合い入れて行きますよ!」


「ちょっおまっ」


「いけっ!魔物を倒せ!」


空から無数の槍が降る。


もちろん魔物へ向けてだが、その霊力の余波は避難所どころか街全体まで及ぶことが容易に想像できた。


「(ちょ、ま、まってええええ!)」


「(『防護結界ィ!!!!(小声)』)」



メイエンは袖から大量の札を取り出し、悪霊と街方面の間に全力の結界を張った。


「あれ、メイエンさん何してるんですか?」


「ゆ、勇者様の攻撃を強化してますうううう!!(嘘)」


「おお、さらにパワーアップできるんですね!召喚士ってすごいなぁ。」


大量の槍が村に降り注ぐ。魔物を次々と穴だらけにしていった。


メイエンはもはや、魔物のことなど微塵も意識していない。攻撃の余波から街を守ることに全力だった。


「(た、耐えろおおお!!!!この私の結界が、ニードル如き初級術に敗れるなんて、ありえないんだああああ!!!)」


「メイエンさん、すごい迫力だ….」


永遠にも感じられるほどの長い槍の雨が終わると、そこにはクプルムアウルの残骸が残るだけとなった。

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