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災害には災害をぶつけんだよ

この街サッカロには、魔物避けの結界も常時展開している。そのため魔物が襲ってくること自体が年に数回ある程度なのだ。


さらにこの町の兵士たちは皆、優秀な魔術師や霊能術師。彼らが長く持たないほどの規模の襲撃となると過去に例のない規模であることは間違いなかった。


まさに異常自体。しかし目の前で不安そうな顔をしている悪霊、こいつの封印が解けたことが関係していることは容易に想像がつく。


次から次に舞い込む厄介事に、軽く込み上げてくる吐き気を飲み込む。メイエンは領主として、また霊能術師としての役目を果たすため、意識を集中する。


「了解です。私が出ます。詳しいことは移動しながら聴きます。」


それと。後ろを振り返り、緊張した面持ちの二人に指示をだす。


「ドグマ。あなたは住民の避難に協力してください。」


「かしこまりました。すぐに向かいます。」


「勇者様は…すみません、一緒に来ていただきます。」


「わ、わかりました。」


勇者(悪霊)を置いて行くわけにはいかない。厳しい状況だが、他に監督できる人間がいないのだから連れて行くしかない。


「では急ぎましょう!そちらの馬車に乗ってください!」



移動中。兵士の報告によると、襲ってきたのはフクロウの魔物らしい。死人は出ていないが、住民及び兵士合わせて数十人が重軽傷。避難はある程度進んでいるものの、農作物や家畜への被害も広まりつつあるとのことだ。



「なるほど…話を聞く限り、クプルムアウルのようですね。大した魔術は打てませんが、金属でできた羽を飛ばしてきます。数が多いと厄介な魔物です。」


兵士の報告を聞いたメイエンはそう分析した。


元々、霊能術師としてのメイエンの専門は魔物の討伐である。


飛び級で学園を卒業し、国の軍事機関である術師団に最年少で所属してからは、魔物の討伐で武勲を上げてきた。


今回予想される魔物、クプルムアウルは何度も倒したことがある。1対多の状況も経験している。


「大丈夫。どれほど大規模な群れでも十分対処できますよ。まかせてください。」


同じ馬車の中で真っ青になりながら報告している兵士に対して、安心させるよう優しく微笑みながら返す。


しかし兵士は青ざめた顔を引き攣らせるばかりで…いや、引き攣りすぎではないだろうか。恐怖を通り越して死を覚悟したような表情に…


「ぼ、僕もできることがあれば、お手伝いします!」


「は、はひっ!?す、すみません!!!」


勇者(悪霊)の存在を忘れていた。


本人の自覚はなくとも、とんでもない悪霊である。


見た目こそ10歳の少女と間違えそうな華奢な男の子だが、放つ邪気は本物。ドグマが先走って攻撃してしまうほどの邪気なのだ。


この若い兵士は魔術師。当然、悪霊の放つ邪気を肌で感じている。


兵士からすれば「領主に魔物襲撃の報告をしに行ったら、魔物の数百倍はヤバい化け物と同じ馬車に乗せられてしまった」状態なのであった。


「…えーっと、兵士さん?」


若い兵士はこちらを見て、目で助けを訴えている。よくよく思えば、報告中も同じ表情をしていた。


狭い馬車。悪霊にバレずに説明することもできない。「諦めて?」のアイコンタクトを送ると、兵士の表情はさらに深い絶望に包まれた。


せめてもの気休めに、兵士の周りに薄く結界を張ってあげた。多少はマシなはずである。




——— 東農村区域 ———


メイエンは絶句していた。


襲撃があった東農村区域に近づくにつれ、想定より魔物の反応が多いことには気がついていた。しかし、クプルムアウルならたとえ数十の群れでも、自分なら住民を守りつつ追い返すことは可能だとメイエンは思っていた。


あとは結界を張ってしまえばいいと。



到着し、探知の霊術で数えたクプルムアウルの反応は、数百を超えていた。



「….いや、嘘でしょ?」


「うわ…こ、こいつ、この世界に来た時会ったやつだ….」


勇者(悪霊)もびびっている。目覚めた時、終わりの森で最初に会った魔物はまさにこの魔物、クプルムアウルだったのだ。


まだ村まで少し距離はあるが、空をびっしりと埋め尽くすほどに、巨大なフクロウが飛び回っている。村に降り立ち、家畜を襲っているものも数えきれないほどだ。


見た目は普通のフクロウに似ているが、複数の瞳孔を並べた気持ちの悪い目。その大きさは、羽を畳んだ状態で大型犬の数倍はありそうだ。時折、嘴から薄い緑色にも見える淡青色の炎をこぼしている。


「(…これは、私の手にも負えないわね…)」


人間自体に興味はないようなので、今は家畜や畑を荒らしている。しかしこちらから攻撃すれば、一斉に襲ってくることは明らかだった。


流石に、この数で一気に攻撃されてはメイエンといえども分が悪い。だとすると、この状況を打破するには…


「す、すごい数ですね… 僕、怖くて少し震えてます…」


災害には災害をぶつけるしかない。メイエンは覚悟を決めた。

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