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防衛戦!

詰所で着替えを済ませ、二人は街にやってきた。


セレビ領にある最大の街、サッカロ。


王国全体でも最重要拠点となっている大きな街である。領主となったメイエンが住む屋敷もここにある。


「この当たりは魔物も多いのですが、鉱物や木材などの資源も国内有数なのです。魔物自体も、解体することで素材が手に入ります。国にとって本当に大事な土地なのです。」


「へー!そんな土地を任されているメイエンさんってすごいんですね。尊敬しちゃうな…」


素直な賞賛を受け、悪い気はしなかった。


しかし最重要拠点となっている理由が、太古の悪霊が封印された”終わりの森”を有しているからであることは、悪霊本人には口が裂けても言えないメイエンだった。


「旅立ちの前に準備や訓練が必要ですからね。わたしの屋敷でしばらく過ごしてもらうことになります。」


「はい!お世話になります!」


そして二人は、このまま何事もなく屋敷へ…とはいかなかった。


「お、お嬢様?!下がってください!ソレはいったいなんですかなっ?」


血相を変えた老執事が二人の間に割り込んだ。


「うわっ?!」


「ちょ、ちょっと待ちなさいドグマ!大丈夫だから!」


「な、なにが大丈夫なものですかな!こんな邪気を放つ化け物、問題しかないですぞ!」


聞かれたか?メイエンは青褪めたが、ドグマの出現に恐怖した悪霊は、離れた馬車の影にヘッドスライディングで避難していた。半泣きになっている。


「いいからちょっと待ちなさい、ドグマ!」


メイエンはドグマを制止し、悪霊の元に向かう。


「ご、ごめんなさい勇者様。お怪我はありませんか…?」


そもそも悪霊に物理攻撃は効かない。怪我なんてあるはずないが、一応確認する。


「は、はい。大丈夫…です。メイエンさん。あの方は…?」


唐突に老執事から攻撃を受け、悪霊はすっかり怯えてしまっていた。


戦意喪失した今なら封印できる…?と一瞬脳裏によぎったが、すぐに頭を振って諦めた。


「すみません勇者様。少々誤解がありまして…。彼に説明してきますので、お待ちください。」


地面に伏せていた悪霊に手を貸し、近くに木箱に座らせた。


目を潤ませる悪霊に、メイエンの罪悪感が刺激される。


見た目だけは、女の子と見間違えるほど可憐で華奢な少年なのだ。


最凶の悪霊とはいえ、記憶も悪気も無くした彼を単純に扱えるほど、メイエンは器用ではない。


待っててくださいねと声をかけ、砂糖菓子を一つ渡してから老執事ドグマの元へと戻った。


「…お嬢様。このおぞましい邪気を放つ化け物はなんですかな…見た目は子供の様ですが、まさか…」


「そのまさか…太古の悪霊、本人。」


「…何があったかお聞きしても?」



— メイエン説明中… :loading: —



「まさか、前任者がそんな杜撰な管理を…これは大問題ですぞ。すぐに王へと使いを出し、しかるべき手続を取らせていただきます。」


「うん。お願いする。」


「それより、そちらの悪霊…いえ、”勇者殿”でしたな。常にお嬢様の監視下に置くしかないでしょうな。」


「そうだよね…実力的に、わたし以外の霊能術師じゃ対処できない。しばらくは領主としての仕事も、彼を連れてゆくつもり。」


「しかたないでしょうな。とはいえ、かなり危険なお役目。この爺にできることがあればなんでも相談してくだされ。」


「ありがとう。頼りにしてる。」



危険とは言えこの悪霊の力は世界規模。メイエンも、地球の裏側にいる子供ですらも、身の危険という意味ではほとんど同じだ。


要は、記憶を取り戻されたら世界はおしまいなのである。


ドグマとの話し合いが終わり、メイエンは悪霊に向き直る。渡した砂糖菓子を食べ、ご機嫌なようだ。


本人の自覚は元成人男性とのことだが、行動や表情を観察する限り、外見相応の10歳程度の子供という方がしっくりくる。


やはり悪霊は子供で、その精神年齢がそのまま外見となっているのではないだろうか? とメイエンは考察した。


(…子供なら、多少無理のある説明でもいけるんじゃないか?)


「お待たせしました。勇者様。勇者様のあまりに大きな潜在能力に、当家の執事が反応してしまいまして…」


潜在能力が大きいだけで初対面の人間を攻撃するなど無茶苦茶だが、勇者(悪霊)の反応は上々だった。


「ぼ、僕ってそんなに力があるんだ…やっぱり異世界転移チート能力ってすごいんですね。」


イセカイテンイチートノウリョクとはなんなのか。メイエンは理解できなかったが、召喚士ならきっと熟知しているはず。聞き返すことはできない。


適当に「ええ、そうですとも」と相槌を打つしかなかった。




何はともあれ話はついたので、ドグマを呼び、三人で話すことにした。


「勇者どの、先ほどは失礼いたしました。」


「いえいえ!大丈夫です。誤解が解けてよかったです。」


むしろ勇者()の誤解は深まっている。


「ドグマは元々凄腕の霊能術師ですから。強者の気配には敏感なのです。」


「ほ、ほっほっ!そうなのですぞ。いやぁ、勇者どのがあまりに強そうなのでつい腕だめしをしたくなってしまい。すみませんでしたな。」


強いやつを見ると殴りかかってしまう戦闘民族のような立ち位置にされ、平和を愛する老執事は心の中で涙を流した。


悪霊は悪霊で、「術を極めた凄腕老人キャラ…!」とか「戦場を離れることのできない老兵…カッコイイ…」など、見た目だけは天使のような笑顔を浮かべている。実際は悪魔だが。


ともかくドグマの強襲を誤魔化せて良かった、と一安心したメイエンだったが。



「そ、それじゃドグマさん。一度手合わせとか、お願いしてもいいですか?」



場の空気が凍りついた。



我を取り戻したドグマとメイエンが小声で相談する。


「(お嬢様?!どうするのですかな?! あ、あんなのと手合わせしたら、爺は死んでしまいます!!)」


「(ちょ、ちょっと落ち着きなさい!というかあんた攻撃喰らわせてたでしょうが!)」


「(太古の悪霊と知ってたら、お嬢様を連れて即逃げてましたぞ!!!)」


ちらりと悪霊の方を見ると、少し困った顔で恥ずかしそうにしている。見た目はかわいい。


メイエンは冷静に思考した。


「(うーん。“勇者”として呼んだという設定だし、訓練は必要かもね。)」


「(そ、それはそうですな…。では、体力作り等と称し、基礎訓練をさせる方針ですかな。)」


「(…ドグマ。我が家に伝わる防具を特別に貸し出すね。あと救護班の手配をしておくから。)」


「(な、お、お嬢様!!そこは手合わせを避ける方向で作戦を練ってほしいですぞ!!!)」


二人が小声であたふたと話している間、悪霊は少し離れて微笑みながらその様子を見ている。


穏やかな空気は、慌てて走ってきた兵士の男によって突如破られた。


「りょ、領主様!すみません緊急の報告です!」


「了解です。報告お願いします。」


メイエンのまとう空気が変わる。


一瞬にして、王国最大の領を治める領主として相応しい雰囲気となった。


だが兵士の報告に、メイエンは動揺させられることとなる。


「は、はい。東の農村区域が魔物の襲撃を受けています!兵士が対応していますが、長く持ちそうにありません!」


「…なんですって?」

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