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小さい男の子は好きですか

——— side: 勇者(悪霊) ———


「もうすぐ森を抜けますね。このままお屋敷に向かいますが、その前にそちらの詰所で着替えていただきましょうか。」


「ありがとうございます。」


やっと森を抜けた。こちらに召喚されてから数時間だろうか。僕はほっと一息をついた。


メイエンさんと会ってから気になることが一つあった。


彼女、とても背が高いのだ。成人男性である自分と比べても、僕の目線が彼女の肩よりも下にくるくらいだ。190以上あるんじゃないだろうか。


「えっと、失礼だったらすみません。ちょっとした質問なのですが…こちらの方ってみんなメイエンさんみたいに背が高いのでしょうか…」


「えっ、わたしですか?わたしは女性の中でも低い方ですが…」


なんだって?!そうすると、男性なら2メートル以上も普通か…


異世界から来た訳だし、外国に行くよりも身体的な特徴に違いがあっても仕方がない。それはわかってるけど、男としては少し自信をなくすというか、気後れする情報だった。


「そ、そうですか…うーん、そうすると僕は結構小さいって感じ、ですかね。変に思われちゃうかな…」


「えっと、失礼だったらすみません。勇者様のご年齢でしたら、別に普通ではないかと思いますよ。」


年齢…?成人男性の僕に対して何を…と思っていると、メイエンさんからとんでもない一言が放たれた。


「失礼ですが、勇者様は10歳ほどかとお見受けします。…あと、大変失礼ですが勇者様の性別って女の子で合っていますよね…?」



思考が停止する。5秒ほど意識が宇宙の彼方に飛んでいたが、なんとか戻って来た。


ここに来て初めて自分の体をよく確認する。


手…手が小さい??色々あって気が付かなかったが、なんだこの柔らかい手は…。


その手で自分の体をペタペタと触る。髪は肩につくほどの長さ。顔も柔らかく、体全体も妙にぷにぷにしている。


森の木々の大きさに感覚が狂っていたのもあるが、よく見ると僕自身も相当背が低くなっていた。なぜ今まで気が付かなかったのだろう。


ま、まさか息子…は無事だった。いや、正確には無事ではない。すっかり控えめな大きさになり、殻に閉じこもってしまっていた。


「…あ、あの…僕、成人した男だったはずで…いや、今も男ではあるのですが…なぜか子供に…」


「…え、えっとですね、勇者様」


「あの、メイエンさんが僕を召喚したんですよね。この体ってメイエンさんが、その、この様にしたってことですよね…?何か理由があってのことだと思うのですが、できれば戻していただけると…」


さっきはとぼけていたが、僕をここに召喚したのはメイエンさん。この体の異常は疑うべくもなく、彼女の仕業としか考えられなかった。


ひょっとして、召喚する時の条件というか、何か制約があるのかな…?真面目そうな彼女が、なんの意味もなくこんなことをするとは思えないけど…


メイエンさんはうつむき、少しの時間を置いて小さな声をだした。


「…だからです。」


「え?」


メイエンさんに正面から見つめられる。目の奥まで見通す様な、凛とした表情を向けられて少し照れる。


森の中に、ハキハキとした鈴のようによく通る声が、朗々と響き渡った。



「すみません!わたしが大のショタコンでして!!!その姿でないと、テンションが上がらず勇者様をこの世界に呼ぶことができなかったのです!!!!!!変更する気はないので、受け入れてください!!!」



僕は言葉を失った。



召喚士はショタコン士にジョブチェンジした。






————おまけ: メイエンの心の叫び ————


——— side: メイエン ———


「そ、そうですか…うーん、そうすると僕は結構小さいって感じ、ですかね。変に思われちゃうかな…」


悪霊との会話。色々と誤解は生まれた気はするが、順調だという印象だった。そのためか、少し楽観的になっていた。


気が緩んできたのには、もう一つ理由がある。


初めて見た時から思っていたが、この悪霊、見た目はけっこうかわいいのだ。


10歳くらいの少女、といった感じであろうか。


生前の個人的なエピソードは覚えていないようなので、なぜ悪霊になったのかはわからない。


霊は基本的に本人の心を反映した姿をとる。死んだ瞬間の見た目であることがほとんどだ。この少女も悪霊にはなってしまったが、若くして亡くなった可哀想な人間であることに変わりはないだろう。


あどけなく笑う姿にはつい警戒を解いてしまう。


今は自分の身長を気にしているようだ。一応、見た目の年齢は私の方がかなりお姉さんなので、安心する様言ってあげよう。


「えっと、失礼だったらすみません。勇者様のご年齢でしたら、別に普通ではないかと思いますよ。」


ところが悪霊のリアクションはおかしい。クエスチョンマークが頭の周りに浮いていると錯覚するような表情をしている。


あれ、ひょっとして見た目よりも大人だった…?


何せ5000年前だ。体格が現代と違っていてもおかしくはなかった。それに、服装はぶかぶかした布を纏っているような見た目なので性別も女の子…に見えるが、実際は違うのかもしれない。



「失礼ですが、勇者様は10歳ほどかとお見受けします。…あと、大変失礼ですが勇者様の性別って女の子で合っていますよね…?」



悪霊は固まった。そして沈黙の後、あまりに予想を外れた返答が返ってくる。



「…あ、あの…僕、成人した男だったはずで…いや、今も男ではあるのですが…なぜか子供に…」



今度はわたしが固まる番だった。


14歳くらいまではあり得ると思ったが…せ、成人男性?!どういうこと???


霊の見た目は心の姿なので、性別などが反転していることはあり得なくはない。

ただ、「自分は成人男性」という自覚がありつつこの外見になるのは霊能術師としても見たことがない例だった。


「…え、えっとですね、勇者様」


さらに、悪霊によって絶望とも言える追撃の言葉が放たれる。


「あの、メイエンさんが僕を召喚したんですよね。この体ってメイエンさんが、その、この様にしたってことですよね…?何か理由があってのことだと思うのですが、できれば戻していただけると…」



まずい。世界が終わってしまう。



わたしが召喚士でないとバレてしまえば、悪霊は「自分とは何か、どこから来たのか」を考え始める。


霊とはそういうものなのだ。疑問がない状態では比較的安定しているが、一度記憶を取り戻そうとし始めた時、一気に変質する。


何より、もともとこいつは最凶とまで呼ばれた大悪霊。自分が「勇者」であるという確固たる思いが揺らいでしまったとき、どうなるかは火を見るよりも明らかである。



演じるしかない。この状況を矛盾なく説明できる設定を。



自分は召喚士だ。勇者を異世界から呼んで、魔王を倒すんだ。でもその勇者を、10歳の少年の姿に変えて呼び寄せたんだ。これを矛盾なく説明するんだ。あと1秒くらいで。


不可能に思える設定。そもそも、異世界の人間を呼び出すだけでなく年齢も操作するとは…もう召喚士こそが魔王だろ…と思える中、しかし天才と呼ばれた頭脳は最適解(?)を叩き出すことに成功した。


「…だからです。」



わたしは世界を守る。霊能術師として、このセレビ領の領主として。終わりの森の管理者として。



「え?」


肺いっぱいに息を吸い込む。悪霊の目を真正面から見つめる。悪霊は少し赤くなっていた。

大丈夫だ、できる。わたしは天才霊能術師、メイエンだ!!!



「すみません!わたしが大のショタコンでして!!!その姿でないと、テンションが上がらず勇者様をこの世界に呼ぶことができなかったのです!!!!!!変更する気はないので、受け入れてください!!!」



天才なんだ。変態じゃないんだ。



世界はまた仮初の平和を守ることができた。一人の若者の尊厳を犠牲として。

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