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星空の下でまた二人

作者: すいはんきー

 僕は生まれつき不思議な力を持っている。でもその力は、世界を壊したり、空を飛んだりすることはできない。


たった一つの小さな魔法。


そんな魔法でも誰かを笑顔にできたらな。


 僕は今まで沢山の人に会ってきた。


優しい人、ずるい人。

お金持ちの人、貧乏な人、、、


今日はどんな人に会えるのかな。

前方からは沢山の人。ここは賑やかな街だから、沢山の人が道を歩いていた。


その中にぽつんと小さな影。


危なっかしい動きをするもんで、目が離せなかった。とうとう転びそうになっていて、助けずにはいられなかった。そっと手を取って「大丈夫?」と声をかけるものの、その男の子はキョロキョロとあたりを見渡して「どこにいるの」と言うばかり。


仕方なくその男の子を抱えて、人のいない道の方に移動した。

僕は聞く。「僕はここだよ。もしかして君、僕のこと見えないのかい?」


話を聞いたところ、その男の子は生まれつき目が見えないと言う。どうしてあんなところにいたのかな……。聞きたいことは山々だが、この子も疲れていることだし、また今度にしよう。


 外が眩しい。いつの間にか自分も寝てしまっていたようだ。

「おはよう。」と、男の子の声。


「僕が起きたのよくわかったね」

僕は、今日男の子に聞きたいことがある。

男の子は目をこすった。

なんか不思議だな。目が見えないはずなのに僕たちと同じことをして、同じことを話す。

少しずつ男の子のこと、知りたいな。






男の子は、とても元気でものしりだった。もしかしたら僕よりもいろんなことを知っているのかもしれない「ところで君の名前は?」男の子は困った顔をして言った。

「僕ね、名前を忘れたんだよ。」

名前を忘れた?

「どうして?」

「うーんとね、僕、お母さんがわからないんだ。でもね、お父さんはいるよ。僕が生まれる前に死んだけどね…」

なんとなく、男の子の事情がわかってきた気がする。かわいそうに。

「それは悲しいだろうに…」

思わずそんなことをつぶやいた。男の子は明るい笑顔で答える。

「悲しくないよ!目も見えなくてお母さんたちもいないけどね。今はお兄さんが僕と話してくれているから、楽しいんだ!だからもっと僕お兄さんのこと知りたい!」



なんていい子なんだろう。前向きで明るい。だけど見ていて少し可哀想になってしまう。目の見えないあの子に僕の不思議な力のこと、全部話して、使ってあげたいと思った。「お兄さんのお名前は?」男の子の目は見えないはずだが、確かに好奇心で輝いていることがわかった。

「僕の名前かい?僕の名前はユータって言うんだ」そういえばあまり人から名前を聞かれたことはなかったな。「すごい素敵な名前だね!いいなぁ、僕にも名前つけてよ」

この子の名前?いくら色んな人に会ってきたとはいえ、人の名前をつけたことなんて一度もなかった。


真っ直ぐこちらの方を見据える瞳を見て言う。この子は真っ直ぐな瞳と心を持つ少年だ。

「じゃあ、…シンタ……とか?」

少し気恥しい気持ちを隠して目を伏せる。でも男の子は、「素敵な名前をありがとう!今日から僕の名前はシンタだね!」という。


ありがとうなんて、あんな笑顔で言われたら嬉しくって照れてしまう。こうしていくうちに、シンタと僕との距離は縮まっていった。でも僕はずっと悩んでいる。僕のこの力のことシンタに話してもいいのか。使ってあげてもいいのか。



そう。僕はこの力のことを誰にも話したことがない。話したってどうせ嘘でしょと言われるだけなのだから。シンタはそんな人ではないと知っている。だけど怖かった。

もし、嘘だと思われて初めての友達をなくしてしまったら?

バカにされてしまったら?

そんな考えが僕の中を駆け巡って言いたいことを言わせてくれない。





「…どうかしたの?」




空耳かと思った。だけど違った。

「言いたいことがあるなら何でも言って?」


この子は優しいから、きっといつもと違う僕の感じを、雰囲気を、わかってくれてたんだと思う。

シンタの優しさを受けて、僕は力のことを話した。


「それだけのことで悩んでたんだね」

シンタは笑った。少し恥ずかしくなる。

「でもね、僕は信じるよ。今日試してみてよ」


 僕はシンタと手を繋ぐ。ゆっくり目を閉じて、いつの間にか深い眠りについたようだ。その日の夢はとてもきれいだった。隣には目の見えるシンタがいて、涙で滲んだシンタの目は、しっかりと星を見据えていた。嬉しいような悲しいような声でシンタが話しだした。「実はね、僕、ユータの力の話を聞いたとき、手を繋ぐと同じ夢を見れるなんてちっぽけな力、どう使うんだろって思ったんだ。正直あまり人の役に立つものではないし。でもね、僕は大好きだよ。君のその力。毎日こんな景色見れるなんてズルいや。」

袖で涙を拭きながら君はまた星を見た。

なにか言ってあげたかった。でも僕は黙って星を見た。そろそろ朝が来てしまう。もう少しだけ話をさせて。


なんとなく思う。ブレックと話せるのは当分ないだろうから。ブレックが口を開く。

「僕ね、旅に出ようと思う。色んな人に会いたいんだ。君に会って、僕の世界が広がったんだよ。だから、…ありがとう。君といるとその力に頼ってしまいそうだから、、当分…会えないね。旅の途中、また君と出会えたら、出会えたのなら、また見せてよ。一緒に見ようあの星を。だから、いつかまた会おうね。星空の下でまた二人。」


シンタが繋いだ手を解く。夢の中にはもう僕一人。朝が来て、そしてまた旅を続けよう。沢山の人にあって。たくさんの景色を見て。この景色を見れる喜びを、幸せを感じさせてくれたのはシンタだった。だからまた、どこかで会おうよ。そして見ようあの景色を。

星空の下でまた二人。

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