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87.祭りの終わり

 四風祭が終わり、私たちは出発前の休暇を楽しんでいた。


「ふぁー、疲れましたー!」

「あんまりもたれ掛かると倒れるぞ」

「大丈夫だよ~」


 レンテちゃんが大きく背伸びをして椅子の背もたれに体重をかける。

 椅子の前足が浮いてゆらゆらと揺らす。

 私たちは明日の朝にはオータムを出発する。

 出発のための準備は昨日から午前中にかけて済ませて、今は昼食もとって一段落しているところだった。

 明日でちょうど十五日目。

 四風祭があっても、滞在期間は普段と変わらない。


「でも、なんだかずっといた気がするのは不思議だね」

「それだけ濃い時間を過ごしたってことだ。ユリアにとっては初めての四風祭だったからな」

「うん。それに今年はみんなにとっても特別だったよね?」

「ああ、そうだな」


 エアル君は笑いながら頷く。

 ヘルフストさんとシスティーナさん、二人の結婚式に参列して、幸せな瞬間を共有した。

 四風祭の裏でこっそり式の準備をしたり、大変だったけど楽しかったなぁ。

 それに……。


「花火も綺麗だったね」

「ああ」

「二人とも花火との時どこにいたの? 一緒に見ようと思てたのに!」


 レンテちゃんがプンプン怒る。

 エアル君がポンと頭に手を置き撫でながら慰める。


「悪かったよ。来年は三人で見よう」

「絶対だよ! 嘘ついたらお兄ちゃんとは話してあげないんだからね!」

「それは悲しいな。じゃあ忘れないようにしておくよ」


 私とエアル君は二人きりで花火を見た。

 彼が案内してくれた特等席。

 幸せいっぱいの教会の上で、満開の花びらを眺めた。

 レンテちゃんには内緒だったらしく、彼女はファラちゃんたちと一緒に見たらしい。

 申し訳ないことをしたと反省する気持ちが半分。

 もう半分は、彼と二人きりで見られたことへの幸福感だった。

 肩が触れ合うほど近くに座り、同じ方向を見上げる。

 綺麗な花火と、その光に照らされたエアル君の横顔を、私は生涯忘れないだろう。

 本当に、最高の思い出が作れた気がするよ。


「さて、午後はどうするかな」

「はいはい! 最後に街を回りたい!」

「そうだな。ユリアは?」

「私もそうしたい」


 ここは私にとっても思い出深い場所になった。

 できれば細かく鮮明に、この地の光景を脳裏に焼き付けておきたい。

 私たちは宿屋の食堂を出る。

 祭りが終わった後の風景は、少しだけ寂しさが残る。

 賑やかだった時間との差を感じる。

 人々は日常に戻り、遠方からやってきた人たちも、それぞれの家へと帰る。

 私たち以外の旅団もまだ残ってはいる。

 みんな同じように明日には出発する予定だった。

 方角は違う。

 またしばらくお別れだ。

 私たちは特に行先を決めるわけでもなく、自然とみんなが滞在する場所へ足を運ぶ。

 海辺の漁港には夏風のみんながいた。


「あ、レンテたちがいるっすよ!」

「ん? ああ、三人でお散歩かい? 相変わらず仲がいいね」

「こんにちは、リエータさん、ファラちゃん」

「こんにちわっす姉さん!」


 彼女たちの後ろには大きな船がある。

 夏風が所有するブラックアイランド号だ。

 以前、この船に一緒に乗ってクラーケンと対峙した時のことを思い返す。

 今は穏やかに、積み荷を乗せている最中だった。

 エアル君が尋ねる。


「出港の準備ですか?」

「そうだよ。あたしらは明日の早朝、朝日が昇る前には出港するからね」


 四つの旅団の中で一番先に出発するそうだ。

 航路と陸路が交わるのは港のみ。

 道を進んでいてばったり遭遇、なんてことは起きないだろう。


「次に会うとしたら四風会議になりそうだね」

「ですね。気を付けてくださいよ」

「こっちのセリフだよ。あんまりユリアちゃんに頼りすぎるんじゃないよ? エアル」

「わかってますよ」


 エアル君とリエータさんが話している。

 その隣ではファラちゃんがレンテちゃんに抱き着いていた。


「元気にしてるっすよ! 寂しくなったらいつでもウチのこと呼んでくれていいっすからね!」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるから」

「レンテが大人になったすう~」


 この二人のやり取りは見ていてほっこりする。

 しばらく見納めなのは寂しいけど、次に会えた時の喜びを感じたいから我慢しよう。

 今生の別れというわけでもないんだ。

 

 夏風と別れた私たちは商店街のほうへ向かう。

 ちょうど秋風が滞在している宿屋の近くを通りかかった。

 なんとなく足を遅くする。

 するとタイミングを合わせたように、宿屋から仲睦まじい夫婦が顔を出す。


「よぉ、ヘルフスト」

「エアル、それにみんなも」

「こんにちは、ヘルフストさん、システィーナさん」

「こんにちはユリアさん。三人でお散歩?」

「はい。そんなところです」


 二人は手をつないで歩み寄る。

 とても自然で、どこにでもいる夫婦のように見える。

 実際二人は夫婦になった。

 これだけ馴染んで見えるのは、二人がお似合いだと言う証拠だろう。


「お二人はお出かけですか?」

「ええ。出発の準備も終わったから、二人でお茶しに行こうと思ったの」

「エアルたちもどうだ?」

「いや、遠慮しておくよ。せっかくの夫婦の時間を邪魔しちゃ悪いだろ?」


 エアル君は意地悪な笑顔でそう言った。

 ヘルフストさんがぴくっと反応して、恥ずかしそうな顔をする。

 手は自然に繋げても、意識するとまだ恥ずかしいのかな?

 そんな二人のやり取りを眺めていると、こそっとシスティーナさんが私の肩を叩く。


「ユリアさん、これ受け取ってください」

「これは?」


 手渡されたのは一冊のノートだった。


「私が得意なお料理のレシピです。よかったら参考にしてください。気になるレシピがあったら、今度会った時に教えますから」

「いいんですか?」

「ええ。あなたにはお世話になったもの。こんなものでしか返せないけど」

「十分です。ありがとうございます」


 私は頂いたレシピ本を大事に抱え込む。

 システィーナさんのように上手くはいかないだろうけど、今度挑戦してみよう。

 素敵なプレゼントを貰って二人と別れる。

 ちょうど入れ違いになるように、一人の長身な男性が私たちの視界に入る。


「イヴェールさん?」


 目が合う。

 

「ああ、やっと見つけたよ。君たちを探していたんだ」

「俺たちをですか?」


 彼はこくりと頷く。

 その視線はエアル君だけではなく、私にも向けられていて。


「君たちに相談があるんだ」

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