9.新しい居場所
エアル君は何気なく、当たり前みたいな顔で口にした。
「うちでって……旅団で?」
「そう」
聞き間違えでもない。
彼は続けて言う。
「話聞いた限り、これから行く当てもないんだよな?」
「う、うん」
「だったらうちで働くのはどうかなって。働けばお金も手に入るし、住む所だって提供できるぞ?」
「そ、それはそうだけど……」
私はレンテちゃんのほうを見る。
ニコニコした顔からは、受け入れる気しか感じられない。
良いのか、なんて聞かなくても答えはわかる。
それでも私は不安だから、声に出して聞いてしまう。
「良いの?」
「ああ、人員は常に募集しているしな! 決定権も俺にあるし、俺が決めたならみんなも納得する! というか錬金術師いないし、即戦力になると思うんだよ」
「私もそう思います! ユリアさんのポーションって他より効き目が良いと思うんです! きっと大人気商品になりますよ!」
べた褒めするレンテちゃん。
目がキラキラしていて宝石のように輝いてる。
「そ、そうかな?」
「はい!」
「俺も錬金術に詳しいわけじゃないけどさ? 別の団にも錬金術師がいて、そいつから聞いてた話と全然違うんだよな。ハッキリ言って、ユリアは普通じゃないと思うよ」
「え、え?」
そ、そうなの?
私は普通……じゃないのか。
そんなこと思ったこともないけど。
王宮じゃ一度も言われたことなかったし。
「だから入ってくれると嬉しい、っていうのが団長としての意見だ。まぁでも、ユリアの腕ならどこでも大歓迎だろ。他が良いならそっちに行けば良いよ」
「うー、それはちょっと寂しいですけど。うちの旅団って女の子あんまりいないから、ユリアさんが入ってくれると私が嬉しいんです!」
またキラキラとした目で私を見てくる。
そういう理由でレンテちゃんは、期待の眼差しを向けているわけか。
確かにお店にいた人たちは、七割以上が男性だったかも?
レンテちゃんくらいの女の子は他にいなかった気もする。
「俺たちは旅団だからな。一か所に留まる期間は短いし、友人が出来てもすぐにさよならしなきゃならない」
「そうなんです。だからあまりお友達もできなくて……」
レンテちゃんが悲しそうな目をしてションボリする。
断ったらもっと悲しい顔になりそうだ。
「そういうのが嫌なら無理にとは言わないよ。でも出来れば、俺個人としても入ってほしくはある」
「個人って、エアル君も友達がほしいとか?」
「それはどっちでも良いんだが、なんというか……気に入ったんだ」
「へ?」
エアル君が私を見つめる。
まっすぐに。
「ユリアのことが気に入った。だから団に入ってほしい」
「え、えっと」
それってどういう……
「ユリアみたいなお人好しは少ないからな。仲良くしていきたいんだ」
「あ、ああ、そういうこと」
ビックリした。
告白でもされるんじゃないかって……
「お兄ちゃん駄目だよ?」
「え?」
「そこはもっと情熱的な言葉を選ばないと!」
「じょ、情熱?」
「そうだよもお~ お兄ちゃん顔は良いのにそんなんだから全然もてないんだよ」
「う、うるさいな! 急になんでそんな話になるんだ?」
ヤイヤイと妹に指摘され、エアル君はタジタジだ。
二人とも見ていて仲が良いのが伝わってくる。
静かになっていたお店が少しだけ賑やかになった。
そこにちょうど――
ゴーン、ゴーン。
時計の鐘が鳴り響く。
日付が変わる時刻を告げている。
閉店の時間だ。
「もうこんな時間か。そろそろ出ないとな」
「そうだね! 私がお会計に行ってくるよ!」
「ああ頼んだ」
レンテちゃんがエアル君からお金を受け取り、店員さんのほうへとかけていく。
去り際に彼女は、私のほうをチラッと見た。
何を訴えたかったのかは、声に出さなくても伝わる。
「それでどうする? さっきの答えは」
「私は……」
数秒、考える時間を貰う。
今日までのことは散々発散して、気持ちが楽になった。
考えるべきはこれからのこと。
明日からの私は、何をしたいのかな?
そんなの、深く考える必要もないか。
「私でよければ、エアル君たちの仲間に入れてほしいです」
「そうこなくっちゃな!」
今日までの日々は思い返したくもない。
努力が報われなくて、成果が実っても横取りされて。
そんな日々が終わったなら、今度こそ幸せな未来を掴みたい。
彼が手を差し伸べてくれた。
その手は最初に見た時から、温かくて優しかった。
きっと彼に手を引かれて進んだ先なら、幸せだと思える。
明日の私が笑っていられる場所を手に入れられる。
そう信じてみよう。
裏切られっぱなしの人生だけど、最後に一度だけ。