84.服飾師
冬風のエリアに入る。
これまでの三つの旅団とも違った雰囲気が漂う。
一言で表すなら、そう。
「おしゃれだ」
露店の色あいや店番の人たちの装い。
みんな特徴的で目立つ服装をしていて、どれもこれも目をひくよさがある。
冬風の露店で売っているものは衣類が多い。
シャツ、ワンピース、ズボン、スカート、コート……。
他にも靴やカバンといった小物も揃っているみたいだ。
以前、みんなと水着を買いにお店へ行った時のことを思い返す。
なんとなく雰囲気は服屋さんの店内に似ている。
「冬風は衣類の販売が最も盛んなんだ。旅をしている場所が山奥だったり雪国だったり、厚着をしないといけない地域が多いのもあって、防寒具なんかも人気なんだよ」
歩きながらエアル君が説明してくれた。
なるほど、だから衣類も長袖や厚着のものが多いのか。
オータムは過ごしやすい気候だけど、夜や朝方になるとぐっと冷え込む。
そう言った時間に出かける人にとっては、袖の長い服やコートは役に立ちそうだ。
もちろんそれ以外に、夏用の衣類もちゃんと販売している。
「服にもいろんな種類があるんだね。見たことない形の服もいっぱいある」
「ああ、それは特別そうだろうな」
「え? どういう意味?」
「冬風のイヴェールさんが服飾師なんですよぉ!」
私の反対の手を引っ張りながら、レンテちゃんがぴょこっと飛び跳ねて教えてくれた。
冬風の旅団の団長さん。
四風会議で私に質問を投げかけた男の人。
第一印象は真面目そうな人で、ちょっぴり怖そうというか……。
私は露店に並ぶ服たちを右から左へ見渡す。
どれも素敵なデザインの服ばかりだ。
おしゃれにさほど興味がなかった私でも、思わず着ている自分を想像するような……。
男女問わず、おしゃれを追求した衣類が並んでいる。
「この中に、イヴェールさんがデザインした服もあるのかな?」
「結構多いぞ。デザインだけ担当して、作るのを他の人に任せた服も合わせたらかなり。ちなみに、小さい頃は俺たちの服も作ってもらっていたんだ」
「そうだったの!?」
子供の服まで作れちゃうんだ。
あまり詳しくないから、どれだけ難しいのかわからないけど。
性別や年齢も関係なく素敵な服を作れるって、とてもすごいことなのだろう。
「この服もイヴェールさんのお手製なんだよ!」
「え、二人が普段来てる服?」
「ああ。ボスの服とかもそうだな。あの人、服にあんまり関心がないからさ。その辺りはイヴェールさんに任せてるんだよ」
「そうだったんだ」
改めて二人の服装をじっと見つめる。
もう見慣れてしまったけど、二人の特徴とよさをしっかりとらえ、より際立たせるデザインになっている。
商売に於いて、見た目はとても重要な要素だ。
いくら中身、置いてある商品がいいものでも、売る人が嫌われたら誰も買ってくれない。
特に私たちは旅する商人。
基本的にどこへ行っても部外者で、顔なじみもいるわけじゃない。
そういう時に相手を判断する材料って、第一印象の服装や顔だけだから。
文字通り、この旅団を支えてくれている。
「ぬいぐるみとかも作ってくれてたんだよ!」
「ぬ、ぬいぐるみ……」
「クマのぬいぐるみとかな」
イヴェールさんがクマのぬいぐるみを作っている……。
よく知らないからだね。
まったく想像できそうにない。
「交代の時間だ。君は裏へ、表は彼女に任せよう」
「あ! イヴェールさんだ!」
「レンテ? エアルも一緒か」
団員に指示を出しているイヴェールさんを発見する。
私たちに気付いた彼は、他の団員に断りを入れて私たちのほうへ歩み寄ってくれた。
「休憩中かな?」
「ええ、俺はそうです。二人はもう仕事が終わったので祭りを回っています」
「へぇ、ということはすでに完売したのか? 確か君たちは、ユリアさんが作った装飾品の販売だったかな?」
「そうです! とーっても大人気だったんですよ!」
ニコニコ顔でいうレンテちゃんに、イヴェールさんは優しく微笑む。
見た目は厳格な人みたいだけど、レンテちゃんも懐いているし、実際はそうじゃないのかもしれない。
少なくとも彼女に見せた笑顔は、とても温かくて安心させられた。
イヴェールさんが私と目を合わせる。
「会議の日以来だね、ユリアさん。あの時は意地悪な質問をしてすまなかった」
「いえそんな、私は大丈夫でしたから」
難しい質問ではなかった。
私は、自分の気持ちをそのまま伝えただけだ。
「どうしてもあの場で、君がどういう思いを抱いているか知っておきたかったんだ」
「はい」
わかっている。
イヴェールさんも錬金術師だから、余計にわかるのだろう。
私たちが持つ力は特別で、使い方次第で誰かを幸せにも不幸にもする。
だからこそ、使う者の意志が大事なんだ。
あの日、イヴェールさんが私に問いかけてくれたおかげで、私は自分の気持ちを再認識することができた。
むしろ感謝しているくらいだ。
「ユリアさん、君とはまた話す機会を設けたい。少し相談もあるんだ」
「はい。私でよければぜひ」
「ありがとう。だが今は、この祭りを思う存分楽しんでいくといい。花火の時間までもうすぐだ。それに、今回は特別だからね」
「そうですね」
イヴェールさんもすでに知っている。
私たちが仕掛けるサプライズ。
予定時刻までもう少し。
「行くか、ユリア」
「うん。レンテちゃんも」
「はーい!」
「それじゃ、また後で合流しよう」
こうしてすべて旅団の露店を回った。
最後に向かうのは、祭りの中心から少し外れた場所にある小さな教会だ。






