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83.特色全開!

 四風祭で盛り上がる街を歩く。

 広間の一区画を全て貸切っても混雑する賑わいだ。

 夜になってしばらく経ち、落ち着いてきても人ごみに流されそうになる。


「っと、大丈夫か?」

「うん。ごめんね。あんまり人混みって慣れてなくて」

「じゃあこうしようか」

「え――」

 

 エアル君の左手が、私の右手に触れる。

 そのままぎゅっと握ってくれた。


「これならはぐれる心配はないだろ?」

「うん。ありがとう」


 エアル君の優しさが伝わってくるようで、手を握るだけで安心する。

 それに、胸が温かくなるような。


「じゃあ私が反対の手だね!」


 今度は私の左手に、レンテちゃんの小さくてかわいい手が捕まる。

 エアル君とは違う安心感がある。

 仲良しで素敵な兄妹に挟まれて、私はとても幸せな気分だ。

 私たちは歩く。


「あ……」

「どうした?」

「ううん、なんでもない」


 通り過ぎた人が、私のペンダントを付けてくれていた。

 それが嬉しくて、つい声が漏れてしまっただけだ。

 今の人だけじゃない。

 他にもたくさん、私たちの屋台に足を運んでくれた人の姿がある。

 ポーションが売れた時とは違った嬉しさだ。

 アクセサリーは目に見えるおしゃれで、日常的に使われる。

 今日も明日も、誰かの日常に、当り前のように寄り添える。

 なんて光栄なことだろうか。


「あっちは夏風のエリアだな。行ってみるか?」

「うん!」

 

 春風のエリアを抜けて、夏風へと入る。

 祭りの雰囲気はそのままで、かすかに磯の香りが漂う。

 目に映る屋台のほとんどが海の幸を使った料理だった。

 他にも海でとれる珍しい貝殻とか、海を渡る夏風らしい露店が多い。


「リエータさんだ!」

「お、なんだ来たのかい?」

「俺は休憩の合間に、二人は品が完売したので自由行動です」

「へぇ~ この短時間で完売したの? すごい人気じゃないか。それはあたしらも負けてられないねー。ほらあんたたち! 呼びかけはもっと声張んな!」

「オッス!」


 リエータさんの掛け声で一層賑やかになる。

 夏風のみんなと初めて出会った時のことを思い出すよ。


「そういえば、ファラちゃんはどこに……」

「ウチならここっすよ!」


 元気いっぱいのよく通る声が後ろから聞こえる。

 振り返ると右手を大きく振っていた。


「兄さんと姉さん! レンテもお久しぶりっすね!」

「ファラちゃんだぁ!」

「こんばんは、ファラちゃん」

「相変わらず元気そうだな」

「ウチはいつでも元気いっぱいっすよ!」


 ファラちゃんは見ているだけでこっちも元気になる。

 レンテちゃんと二人で一緒にいると、より一層可愛らしさが増す。

 微笑ましい光景にほっこりする。


「みんなでお祭り回ってるんすか? 羨ましいっすけど……ちら」

「あんたはダメだよ。まだ仕事残ってるでしょ?」

「うぅ……そうっすよね~ というわけなんで、みんなで楽しんできてくださいっす」


 残念だけどファラちゃんは忙しくて一緒には回れそうになかった。

 もし早く終わったら合流すると言っていたから、少し期待して待っていようと思う。

 続けて私たちが向かったのは――


「ここはわかりやすいな」

「秋風って感じがするよねー」


 鼻に抜ける料理の香り。


「いい匂い」


 秋風のエリアでは、様々な屋台料理が売られている。

 棒にさして歩きながら食べられる物から、どんぶりに入っているメニューまで。

 すべて食べ物の屋台だ。

 その中心にいるのは、もちろん彼女。


「システィー、次の注文が入ったよ」

「はーい、どんどん作りますよ」


 大きな鉄板の上で野菜やお肉を焼いているのは、秋風の料理人にして団長の妻になったシスティーナさんだ。

 ヘルフストさんが隣でサポートしている。

 

「あらいらっしゃい皆さん」

「エアルたちは休憩中か?」

「まぁな。相変わらず美味そうなもんばっかり作ってるな」

「当然だよ。それがうちの売りだからね」


 夏風の特徴が海を中心に活動していることなら、秋風の特徴は料理に重きを置いていること。

 ヘルフストさんは元々美食家で、世界中の様々な料理を食べてきた。

 そこに凄腕の料理人であるシスティーナさんが加わって、秋風は世界各地で料理を振舞う一団として有名になっているそうだ。


「せっかくだ。みんなも食べていくといい」

「わーい!」

「助かるよ。ちょうどお腹がすいてきたんだ。ユリアは?」

「私もだよ」


 立ち仕事の後に歩き続けて疲れていたし。

 この辺りで休憩しよう。

 私たちは食事をとるスペースに座り、システィーナさんの料理を口にする。


「美味しい!」

「安心する味だね」


 一口食べるだけで疲れも癒されるような、そんな味がする。

 屋台では今も、ヘルフストさんとシスティーナさんが一緒に働いている様子が見えた。

 団長と料理人……そして 、夫婦。


「ヘルフ君、そこの調味料を」

「これだな?」

「ええ、ありがとう」

「やっぱりお似合いの二人だね」

「そうだな」


 私とエアル君は顔を見合わせ笑う。

 この後はとっておきのサプライズが待っている。

 きっと驚くし、喜んでくれるはずだ。

 その光景にはまだ少し時間がある。

 食べ終わった私たちは二人に挨拶をして、次のエリアに向かうことにした。

 去り際、エアル君がヘルフストさんに耳打ちをする。


「時間になったらちゃんと連れ出せよ?」

「ああ、頑張るよ」


 ヘルフストさんの横顔からは緊張が伝わる。

 上手くいってくれることを願いながら、私たちは分かれる。

 春、夏、秋ときて最後は……。


「冬風」


 私がまだ知らない旅団。

 冬風はどんな人たちの集まりなのだろう?

 祭りとは異なるワクワクを胸に、私はエアル君たちと歩く。

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