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82.来年の楽しみ

「お? なんだなんだ? あの露店すごい盛り上がってるな?」

「あそこじゃない? さっき通りかかった人たちが噂してた」

「ああ! その場でアクセサリーを作ってくれる錬金術師がいるっていう」

「私たちも行ってみましょう!」


 次々に人が集まってきて、気づけば私たちの露店には行列ができていた。

 最初に来てくれたお客さんが友人に宣伝してくれて、そのからさらに噂が広まって。

 今の状態になるのはあっという間だったよ。


「並んでるアクセサリーも普通にいいな。こっちも買おう」

「ね、お土産にいいかも! お祭りの思い出にもなるしピッタリだね」


 嬉しい声があちこちから聞こえてくる。

 賑やかな声に耳を澄ませながら、私とレンテちゃんはせっせとお客さんの相手をする。


「こちらに記入してお待ちください。一人おひとつまでですよ!」

「できました。こんな感じでよかったでしょうか」

「バッチリ! ホントに凄いな錬金術って! 魔法より魔法みたいだったよ」

「ありがとうございます」

 

 お祭り気分で陽気なお客さんが多くて、普段より大げさに褒めてもらえる。

 それが嬉しくて、ついつい心にも熱が入る。


「お姉ちゃん大丈夫ですか?」

「全然平気だよ。レンテちゃんこそ平気? ずっとお客さんの相手をしてくれてるけど」

「私は慣れてるから!」


 全然へっちゃらですと言わんばかりに、自分の胸をポンと叩く。

 体力は私以上にあるレンテちゃんだ。

 私も賑やかな雰囲気で楽しくなって、疲れはちっとも感じない。

 ただ少々、材料の残りが心もとなくなってきた。


「その場で作れるのはあと二十……三、四個が限界だね」

「じゃあ二十個で一旦締切っちゃいましょう!」

「うん。そうしよっか」


 お祭りも始まって、まだ一時間半くらいだろうか。

 最低でも百人分は用意していた素材が、いつの間にかなくなっていた。

 多すぎるかなと思っていたのに、反対に足りなかったみたいだ。

 来年やるならもっと素材を用意しよう。

 ラストスパートをかけながら先のことを考え反省する。


「オーダーメイドは終了しました!」

「あー残念、間に合わなかった」

「また来年ね」

「だな。でもこっちのアクセサリーは残ってるし、普通にいいデザインだから買っていくか」


 並んでいた人たち全員分は作れなくて、少し申し訳ない気持ちになる。

 でもそれ以上に嬉しかった。

 こんなにも反響があるとは思っていなかったから。


「一先ず大成功、ですね!」

「……うん」


 初めて自分の作ったポーションが売れた時の感覚に似ている。

 新しいことに挑戦して、それが受け入れられる喜びは何にも代えがたい。

 お客さんも来年を期待してくれている。

 次はもっと期待に応えられるような案を考えておかなきゃ。


「あ、お兄ちゃんだ」

「エアル君」


 私たちの露店にエアル君が歩み寄ってくる。


「二人ともお疲れ。すごい人気だったな」

「お姉ちゃんの力だよ! みんなとーっても喜んでくれてたんだ!」

「みたいだな。もうオーダーメイドは売り切れか。まだ祭りも始まったばかりなのに、これは今から来年が楽しみだな」

「うん。来年はもっと頑張るよ」


 お客さん全員に届けられたら一番いい。

 難しいなら他の方法を考えよう。

 こういう楽しみって、考えるだけでワクワクしてくるね。

 

「エアル君のほうどうだった?」

「こっちは何の問題もないよ。今のところトラブルも起きてない。平和だ」

「そっか」


 彼の役割は見回りだ。

 これだけ大勢の人が集まれば、トラブルや怪我人が出たりする。

 そうならないように問題の種を事前に見つけて解消したり、問題が起こってしまった場合は仲裁に入る役割。

 団員たちを指揮して、彼は広間を監視してくれている。


「けが人も出てないし、このままいけばユリアに準備してもらったポーションの活躍はないかもな」

「それが一番だよ」

「ははっ、そうだな」


 エアル君は呆れたように微笑む。


「じゃあ、俺はまた見回りに戻るよ。あとで様子を見に来るからな」

「うん。頑張ってね」

「いってらっしゃーい!」


 レンテちゃんと私で手を振りエアル君を見送る。

 彼もしっかり働いているし、私もやれることをやらないと。


「こっちは終わったから手伝うね」

「ありがとうお姉ちゃん!」


 夕方に始まった四風祭。

 日が沈む頃には一層お客さんが増えた。

 月がくっきり明るく見える頃になると落ち着いて、私たちの露店の商品はついに売り切れまで到達した。


「全部なくなっちゃった」

「お姉ちゃんのアクセサリーは大人気だったからね!」

 

 レンテちゃんに褒められ照れる。

 チラッと向けた視線の先に、ちょうどエアル君が歩いていた。

 目と目が合い、こちらに近づいてくる。


「お疲れ。もう売り切れか?」

「うん」

「じゃあ軽く片付けたら祭りを回るといいよ。ユリアにとって初めての四風祭だ。せっかくなら客としても見て回ったらどうだ?」

「ありがとう。そうさせてもらおうかな」


 実はずっと他の人たちはどうしているのか、気になってソワソワしていた。

 祭りの雰囲気もしっかり味わいたい。

 私とレンテちゃんは屋台の片付けに入る。

 綺麗に整理して軽く掃除もして、祭りが終わった時の片付けが楽なようにするだけだ。

 すぐ終わって、自由になる。


「お兄ちゃんも一緒に回ろうよ!」

「そうだな。俺もそろそろ休憩の時間だ。ユリアがよければ俺も一緒に回っていいか?」

「もちろんだよ。エアル君も一緒がいい」

「ありがとう」


 彼は嬉しそうに微笑む。

 その微笑みを見て、思わず胸がドキッとする。

 なんでかな?

 いつもと少し、感じ方が違う気がするのは……。




 

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