80.素敵な悪だくみ
私が普段作っているのはポーションだけど、お祭りでポーション?
「うーん……何か違う気がするなぁ」
ポーションは便利だしよく売れる。
でも、お祭りという場所で売るには適していない気がする。
そもそもお祭りって何を売っているんだろう。
私は一度も参加したことがないから、いまいちピンと来ていない。
「ねぇエアル君、去年のお祭りってどういう感じだったの?」
「賑やかだったぞ。街の外からも人が来て。すごい盛り上がった。最後の花火の時なんて、みんなが同じ方向を眺めているのは圧巻だったよ」
「花火?」 花火もあるの?
「ああ。毎年、この日のために職人を手配してもらってるんだ。ユリアは花火見たことあるか?」
「うん、前に一度だけ。王都で建国祭りがあった時に見たよ」
王都では毎年、建国日を祝う催しが開催されていた。
私は仕事で忙しくて参加できなかったけど、花火は研究室からでも見えたから。
暗い街の上に花開く様は、少しの間だけ仕事の疲れを忘れられた。
「王都で見たのは遠くからだったけどね」
「じゃあ、今回は特等席で見ないとな。当日は楽しみにしていてくれ」
「うん!」
今からもう一つ、新しい楽しみができてしまったよ。
夜空に浮かぶ光の花を間近で見る。
今から想像してワクワクする。
「あ、じゃあお祭りって夜までやるんだね」
「ん? 言ってなかったか? むしろ夜が本番だぞ? 仕事終わりの人とかが増える時間帯だからな」
「人ごみに流されないように注意だよ! 私は去年流されちゃったから!」
「あの時は大変だった……声も人にかき消されて、見つけた時にはレンテも半泣きで」
「な、泣いてないよ!」
プンプン怒る可愛いレンテちゃんと見ながら、夜のお祭りを想像する。
屋台が並び、人がたくさんいて賑わう光景。
その場に似合うもの……錬金術師だからこそできる楽しさ。
何を作る?
私は何を作りたい?
「夜……花火、明かり……」
「何か浮かびそうか?」
「うん。まだなんとなくだけど。少し考える時間を持ってもいいかな?」
「もちろんだ。時間はまだある。悩むなら俺たちも一緒に考えるよ」
「ありがとう」
私にとって初めて参加できるお祭りだ。
どうせなら一生忘れられない日にしたい。
そう思うと、少し力も入る。
◇◇◇
翌日。
四風会議三日目が開催される。
場所は今までと同じレストラン。
議題は昨日と同じく四風祭について。
現時点で考えている出し物を共有する。
「――と、うちはそれに加えて、ユリアが新しく売り出すものを考えてくれています」
「へぇ、そいつは楽しみだな! 錬金術師と屋台ってなんか斬新だしよ! な、イヴェール」
「そうですね。去年とは違う、一つの大きな波になりそうだ」
「ははっ、みんな期待してるみたいだぜ」
よどみなき期待の眼差し。
ファスルさんの言葉は嬉しく、同時にプレッシャーでもあった。
私はぐっと胸に手を当てる。
「ちょっとあんた、変にプレッシャーかけるんじゃないよ」
「お、すまねぇ。まぁ楽しい祭りだ! 気負いすぎず気楽にやってくれればーさ。細かいことはエアル、お前がサポートしてやれよ」
「もちろんですよ」
「よし、そんじゃ次はリエータんとこだな!」
そうして会議は進み、全員の出し物の共有が終わった。
本日の議題はすべて終了。
昨日よりも早く、夕方には話し合いも終わって解散することになった。
会議は終わっても四風祭までは全団がこの街に滞在する。
お祭りとは関係なく、しばらく賑やかになりそうだ。
「ボス、エアルもちょっといいかな?」
「ん? なんだヘルフスト」
「どうしたんだ?」
「相談があるんだ。個人的に」
帰り際、解散していく面々の中でヘルフストさんが二人に声をかけた。
ふと、私とも視線が合う。
「よければユリアさんにも聞いてほしい。君も当事者だからね」
「は、はい。わかりました」
よくわからないまま場所を移す。
この間ヘルフストさんたちとお酒を飲んだお店に。
ただ、今夜は騒ぐ雰囲気でもなかった。
ヘルフストさんはいつになく真剣な趣で話を切り出す。
「実は、みんなに協力してほしいことがあるんだ」
「なんだよ急に改まって、まさか厄介事か?」
「いや、そういうわけじゃなくて……えーっと、会議でも話したけど、僕とシスティーは結婚することになった」
「聞いたよ。のろけ話も散々な」
ファスルさんがニヤリと笑みを浮かべる。
恥ずかしそうに頬を赤らめながら、ヘルフストさんは咳ばらいをして話を続ける。
「そこで、その、結婚式をしたいと思っているんだ。できれば、四風祭で」
「おお! いいじゃねーかそれ!」
「ヘルフストにしては考えたな」
「私もいいと思います」
全員が賛同して、一瞬にして雰囲気が明るくなる。
ヘルフストさんはもっと照れくさそうに顔を赤くしていた。
「相談ってことぁ、結婚式の準備か?」
「ええ。できればこのことは、システィーには内緒にしたくて」
「サプライズか」
ヘルフストさんはゆっくり頷く。
思い出を慈しむように、窓の外を見つめながら語る。
「彼女にはいろいろと心配をかけたし、今までたくさん支えてもらった。だから、その感謝を込めて最高の結婚式にしたいんだ」
「いいねぇ、そんじゃ盛大にやろうぜ。どうせなら関係ねー奴らも巻き込んじまおう」
「それはさすがに姉さんに怒られますよ、ボス」
「気にすんな。めでたい席にあいつもケチケチ言わねーよ」
三人で顔を近づけて話をする。
なんだか子供が悪だくみをしているみたいだ。
「ユリアちゃんもなんか作ってくれよ。ぱーっと派手な演出できるやつ」
「無茶ぶりしますね」
「わかりました。考えてみます」
「ユリア?」
私も、その悪だくみの一因だ。
最高の結婚式で、二人のことをお祝いしよう。
いつも通り、私なりの方法で。






