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76.めでたい日

書籍第一巻発売中です!

コミカライズも決定しておりますのでぜひ!

 四風会議は三日間に分けて開催される。

 初日は各旅団の現状報告。

 二日目からは今後の商売に関する情報の共有や段取りの確認をする。

 エアル君曰く、初日は特に淡々とした報告会で終わるそうだったけど……。


「今回は異様に盛り上がったなぁ。過去一番だったんじゃないか?」

「すごかったよね! ヘルフストさんとシスティーナさんが結婚か~ いつの間にそんなことになってたのかな? ねぇお兄ちゃん、知ってた?」

「さて、どうだったかなぁ」


 話しながらエアル君がちらっと私のほうを見る。

 そうだった。

 レンテちゃんはあの場にいなかったから、二人が思いを通じ合わせた日のことを知らないんだ。

 

「え? お姉ちゃん知ってたの?」

「えーっと……そんな気がしてた……かな?」


 レンテちゃんが相手だし、別に隠すようなことでもない。

 ただ、なんとなく説明するのは憚られる。

 二人が本気で心をさらけ出し、思いを伝え合った光景を、私は今もハッキリと覚えている。

 感動的な光景だった。

 その場に立ち会えたことが幸福だと思ったし、それと同じくらい自分が場違いだとも思った。

 あの時、あの場所には二人だけの空間が広がっていて……。


「まぁ、あの二人にもいろいろあったってことだよ」

「そ、そうだね、うん」

「うーん? 二人とも何か知ってたんだね? 二人だけずるいよ!」

「ははっ、子供のお前には少し早いかな」


 エアル君が笑いながらごまかす。

 するとレンテちゃんはプンプンと頬を可愛らしく膨らませて。


「子供じゃないよ! そういうお兄ちゃんだって一度も恋人できたことない癖に!」

「なっ、そういうこと言うなよ」

「本当のことでしょ?」

「そっか。エアル君、恋人できたことないんだ」


 ぼそりと口から漏れた声。

 二人の視線が私に向けられて、ハッと気づく。

 自分でも無意識だった。


「ユリアまで……」

「ち、違うよ? 別に馬鹿にしてたとかじゃなくて! だって私も恋人なんてできたことないし!」

「そうなのか? 意外だな」

「そ、そうかな?」


 と、別に言う必要のないことをペラペラと口にする。

 慌てて話しているから混乱して、頭の中で話すことを整理する前に口から出てしまう。

 言った後でしまったと思うから、余計にアタフタする。


「エアル君こそ意外だよ。女の子にもてそうなのに」

「それが全然だよ。これまで一度も声をかけられたことないし、男としての魅力に欠けるのかなって……偶に考えたりする」

「そんなことないよ! エアル君は素敵な男性だから! 私が出会った中で一番格好いい……し、と……思います」


 私は一体何を言っているのだろうか。

 口にした後から恥ずかしさがこみ上げてきて、顔が熱くなる。

 鏡があったら私の顔は真っ赤だろう。

 声量も尻つぼみになりながら、私は視線を下方向に向ける。

 そんな私に、エアル君は嬉しそうな声で。


「ありがとう。ユリアにそう言ってもらえると、なんだか自信がつくな」

「そ、そう?」

「ああ」

 

 私はゆっくりと顔をあげ、彼の顔を覗き込む。

 どこか照れくさそうに指で頬に触れ、子供みたいな笑顔を見せる。

 そんな彼を見て、私の胸はドキッとする。

 

 あれ?

 なんで私、こんなにドキドキしてるんだろう?

 エアル君の顔、今まで何度も見てきたのに。


 自分でもわからない変化に戸惑いながら、私は高鳴る胸に手を当てる。

 私は、もしかして……。

 と、考えた瞬間、どこからか豪快な笑い声が聞こえてくる。


「がっははははははははははは!」


 二人でびくりと反応する。

 声のした方向は酒場だった。


「い、今の声って?」

「ああ……たぶん……」

「ファスルさんの声だ!」


 私たち四風の旅団の大団長。

 ファスルさんの大きな笑い声がお店の外まで響いていた。

 よく見ると、窓際の席で楽しそうにお酒を飲んでいる姿が見える。

 誰かと話しているみたいだ。

 相手は……。


「ヘルフストか?」

「そうみたいだね」


 二人でお酒を飲んでいるみたいだ。

 ふと、私たちの視線に気づいたのか、ヘルフストさんがこちらに視線を向ける。

 その視線につられてファスルさんもこちらを向く。


「おお! エアルじゃねーか! ちょうどいい、お前らもこっち来い!」

「頼む来てくれ! 酔っ払いの相手を一人じゃきついんだ!」


 ヘルフストさんが必死に手を合わせてお願いしてくる。

 私たちは顔を見合わせ、時間もあるし付き合おうと視線で共有する。

 酒場に入って二人の元へ。

 ファスルさんの隣にヘルフストさんが移動して、私たちは向かい合うように座る。

 テーブルには空になったお酒のグラスが並んでいた。


「ね、ねぇエアル君。これ全部ファスルさんが飲んだのかな?」

「間違いなくそうだな。ヘルフストは酒が苦手だから飲んでないだろ。ボスは酒が好きだからな……」


 そう言いながらエアル君は呆れている。

 彼曰く、ファスルさんは大のお酒好きらしい。

 加えて酔うと普段以上に陽気になって、行き過ぎると周りに迷惑をかけだすから大変だそうだ。

 今はそのギリギリのラインを保っている状態だという。


「で、二人で何の話をしてたんですか?」

「そんなもん決まってんだろ? めでたい話だ、めでたい話!」


 ファスルさんは豪快にヘルフストさんの肩に手を回す。

 結構強い力だったのか、手を回されたヘルフストさんはよろめく。 


「っと、まぁそうだよ。僕とシスティーナの結婚を祝ってもらっていたんだ……」

「それにしては疲れてるな」

「察してくれ。大体わかるだろう?」

「まぁな」


 馴れ初めとかいろいろな話を聞かれたのだろう。

 ヘルフストさんはぐったりと疲れていた。

 隣のファスルさんはまだまだ元気いっぱいだ。


「でもまぁ、いいんじゃないか? 今日くらいは」

「……そうだな」

「そうだそうだ! お前らも飲め飲め!」


 ファスルさんのよく通る声が酒場に響く。

 確かにめでたい日ではある。

 私も二人が結ばれて嬉しいから、少しくらい羽目を外してもいいかな?


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