閑話 格好悪いプロポーズ
三章の補足です。
カクヨム版の連載も開始しました。
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ユリアとエアルが部屋を去る。
もう自分たちは必要ないからと気を利かせて。
そのことに二人は気づかない。
お互いの存在しか感じられないくらい近く、深く心に入り込んでいるから。
他人にはわからないだろう。
今の二人には、世界に自分たちしかいないのだ。
聞こえるのは互いの鼓動、呼吸、そして声。
肌に触れる感覚も、伝わる熱も全て二人の間で行き来する。
「システィー、システィー」
「ヘルフ君」
確かめるように名前を呼び合う。
声に出さなくたって目の前にいるのに。
そうしてしまうのは、嬉しさと幸せが溢れているからで、感情を抑えられないから。
会いたくなかった。
それ以上に会いたかった。
矛盾をはらんだすれ違いは、こうして幕を下ろす。
そして……
「システィー、僕の話を聞いてくれるかい?」
「はい」
散々泣いて、涙を拭う。
落ち着きを取り戻した二人は、お互いの顔を真っすぐに見合う。
ヘルフストの真剣な眼差しに当てられて、システィーナもかしこまった。
「僕は自分の弱さから逃げて、みんなに迷惑をかけた。その責任は取るべきだろう」
「まさか、団長を辞めるなんて言わないですよね?」
「言ったら怒るだろう?」
「はい」
それは責任から逃げる行為だから。
「僕はもう、一人で旅団を抜け出したりしないよ。どんな理由があってもね」
「はい。そのほうが皆さんも安心すると思いますよ」
「ああ。それから君には一番迷惑をかけた。心配もさせた。謝るだけじゃ足りないと思ってる」
「ううん。私はヘルフ君が戻ってきてくれただけで幸せです」
心からそう思っている。
声と表情で伝わるほどに、彼女の思いは強かった。
好きだから。
大好きだから。
これからも共にいられるだけで……許してしまう。
「それじゃ……僕の気が治まらないんだ」
「ヘルフ君?」
「システィー、僕は君を不安にさせた責任をとりたい。もう二度と、君を悲しませないと誓う。言葉だけじゃ信じてもらえないだろう。だから……僕と結婚してくれないか?」
「……え」
思ってもみなかった一言に、思わずシスティーは言葉を失った。
ヘルフストは彼女の手を握りしめ、続ける。
「僕は弱い。とても弱い。一人では生きていけない程に……君と一緒じゃないと不安で仕方がないんだ。一人でいた時も、ずっと君のことばかり考えていた。僕はもう君なしじゃ生きられない。そう思うんだ」
本心をさらけ出す。
弱さは散々見せてきた。
これからも見せ続けることを約束するように、彼のプロポーズの言葉は締めくくられる。
「何よりも、僕は君が好きだ。君の料理が好きで、君自身がもっと大好きだ。誰よりも、何よりも好きなんだ。どうか僕と一緒にいてほしい。こんな弱い僕を支えてほしい」
そう願う。
心から思いを伝え、答えを待つ。
緊張もするだろう。
不安もあるかもしれない。
けれど、答えなんて最初から決まっている。
「ずるいですよ……ヘルフ君は」
なぜなら彼女を、ずっと聞き続けていたのだから。
「そんなの私からお願いしたいくらいです」
「……ありがとう」
わかっていたことだ。
断られるなんて微塵も思っていなかっただろう。
「格好悪いな……まったく」
「そうかもしれません。でも、そんなヘルフ君がいいんです」
「うん。そう言ってくれる君だから」
好きになった。