74.四風会議
春風、夏風、秋風、冬風。
四つの旅団から構成される大組織、四風の旅団。
同じ組織ではあるが別々に行動し、それぞれに商売をしている。
商売の方向性も特色もバラバラ。
そんな彼らが一堂に会する場が四風会議だ。
半年に一度の周期で開催され、各旅団の近況や今後について話し合う場とされる。
開催場所は毎回異なり、主催する旅団が決めることになっていた。
前回の主催は夏風、続く今回は秋風が主催。
場所はここ、オータムの街だ。
「オータムっていうのは秋って意味らしいよ」
「へぇ~ じゃままさしく秋の街なんだね」
「ああ。だから開催場所にはピッタリだろ? っていうのはヘルフストが言ってたことだ。単純だよなあいつは」
「あはははは。ヘルフストさんらしいね」
彼らしいと思える程度には、私もヘルフストさんのことを知った。
味覚を失った事件から約一か月。
私たち春風も商売をしながら旅を続け、四風会議の開催場所であるオータムに今しがたたどり着いたところだ。
「荷物を預け終わったら挨拶に行くけどユリアも来るか?」
「うん。邪魔じゃなければ」
「私もいきたーい!」
「じゃあレンテも一緒だ」
わーいとはしゃぐレンテちゃん。
二人に会えるのが楽しみなのは、私だって同じだ。
他にもファスルさん、リエータさんにも会えると思うと、一人でワクワクした気分だ。
それにもう一人、冬風の団長さんにも初めて会える。
期待を胸に秘めながら、私も荷物の移動を手伝って終える。
ちょうど全て運び終え、手続きも済んだところで。
「なんだ? 挨拶に行こうと思ってたのにそっちから来たのか」
「あ!」
二人が気付いて、遅れて私も振り返る。
視線の先には絵になる二人が、仲良く並んで立っていた。
「久しぶりというほどでもないか」
「ようこそ春風の皆さん」
「ヘルフストさん! システィーナさんも」
二人の方から顔を見せに来てくれた。
私はそれが嬉しくて、思わず駆けだそうとする。
それよりも速くレンテちゃんが駆け出して、システィーナさんに飛びついた。
「こんにちはー!」
「今日も元気ですね、レンテちゃん」
出遅れたって感じの私は、遅れて二人の元へ歩み寄る。
エアル君も隣を歩く。
「元気そうだな」
「お陰様でな」
「ちょっと太ったんじゃないか?」
「……言うな。自分でもそう思う」
確かにちょっと、前よりは太った?
そこまで言うほどじゃないし、よく見ないとわからない程度だけど。
ヘルフストさんがため息を漏らす。
「あの日以来、システィーが食事の量を増やし続けててね……」
「ああ、なるほど」
私もエアル君も、その一言で大体理解できた。
ヘルフストさんは断れないだろうし、断る理由もないだろうね。
でもちょっとおかしな話だ。
前に会った時の彼は、美味しい料理はいくら食べても太らないと豪語していたのに。
「まっ、良いんじゃないか? 幸せ太りって言葉もあるくらいださいさ」
「……そうだな。上手い料理を食べられるのは幸せだよ」
そう言って笑うヘルフストさんは、本当に幸せそうだった。
改めて良かったと思う。
するとそこへ――
「おうおう! なんだもう揃ってんのかー!」
「ん?」
「今の声って」
二人が先に気付いて振り向く。
私にも聞き覚えがある、よく響く低い声。
振り返るまでもなく、声だけで伝わる存在感の大きさ。
こちらは多少、懐かしさを感じる。
「あー! ファスルさんだ!」
「おうレンテ! 元気そうだな」
「うん!」
勢いよく駆け出したレンテちゃん。
そのままファスルさんの胸にドーンと飛び込む。
レンテちゃんを受け止めたファスルさんは彼女の脇を抱え、グルグルと回しながら遊び出す。
「わあーい!」
「がっはははは! このまま遊びに行っちまうか?」
「良いわけないでしょ? 馬鹿言ってんじゃないわよ」
と言いながら呆れ顔のリエータさんも一緒だ。
相変わらず苦労しているらしい。
リエータさんが私と視線を合わせる。
「こんばんは。上手くやれてるかい?」
「はい!」
「そう。あんたも迷惑かけてないだろうね?」
「俺は大丈夫ですよ。どっかのヘルフストとは違いますから」
「おい止めろ、ここで僕を引き合いに出すのは卑怯だぞ」
そのまま流れで二人は言い合いになる。
こっちの二人も相変わらず仲が良い……のかな?
「こら二人とも! 往来で喧嘩するんじゃないよ!」
「うっ」
「す、すみません……」
「ったく。あんたもいつまで遊んでんだい!」
キリっとしたリエータさんの声に反応して、ファスルさんもレンテちゃんを降ろす。
リエータさんはみんなのお姉さん、というかお母さんみたいだな。
「ま、まぁとりあえず全員集合……じゃねーか。あとイヴェールか」
「彼なら二日前に到着していますよ」
「お、さすがだな。んじゃ予定通り明日」
「はい。それまでに準備は終わらせておきますよ。料理も期待しておいてください」
ヘルフストさんが自信たっぷりに答える。
いよいよ明日、四風の旅団の会議が始まる。
今から緊張するよ……
自己紹介の言葉、ちゃんと考えておかなきゃ。
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