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7.四風の旅団

 夕刻になると、賑やかだった露店は一斉に店を閉めた。

 使用していた屋台は組み立て式で、店じまいには小さくまとめることが出来るみたいだ。

 一斉に片付け始めて、一時間もしない間にガランと静かになる。

 片付けた荷物を預けたら、私は二人に連れられてお店に入った。


「そんじゃ今日もお疲れ様! カンパーイ!」

「「カンパーイ!」」


 グラスをぶつけ合い高い音が響く。

 お店はほとんど貸し切り状態で、二人が所属する旅団の人たちが一堂に集まっていた。

 男女はもちろん、小さな子供に髭を生やした年配の方の姿もある。

 知らない人から見れば、とても一つの団体には思えないな。

 私はというと、隅っこでひっそりと席に座っている。

 目の前にある豪勢な料理には涎が零れそうだ。

 思えばここ数日、まともに食事をしていなかったから。


「た、食べていいのかな……」

「良いに決まってるよ。お礼なんだから」

「わっ! あ、えっとエアルさん」


 さっき中心で音頭をとっていたのに、いつの間にか隣に来ていた。


「エアルで良いよ。俺もユリアって呼ぶから」

「はい。じゃあエアル君、その、本当に良いの?」

「もちろん良いって。むしろ料理を出して残されるほうが困る」

「そうですよユリアさん! いっぱい食べてください!」


 今度は妹のレンテちゃんが隣に。

 この二人は近づいてくる気配が全くないな。

 兄妹だから?

 そんなわけないよね。


「えっと、じゃあ頂きます」


 手を合わせてからスプーンを手に取る。

 まずは温かそうなスープから。

 

「……美味しい」


 温かいのは当たり前だけど。

 寒い夜を過ごしてきたせいか、当たり前の温かさが身に染みる。

 明るい部屋も、賑やかな景色も、久しぶりな気がして。


「……あ、あれ?」


 自然と涙がこぼれ落ちた。

 無意識だったから、自分でも驚いてしまったけど。

 二人はそれに気づきながら、優しく見守ってくれていた。


 時間は緩やかに、だけど確かに過ぎて行く。

 賑やかさも落ち着いて、テーブルの上の料理も減った頃には、私の涙も収まってた。

 いつの間にかお腹の虫も大人しくなったみたいだ。


「腹はふくれたか?」

「うん。おかげ様でお腹いっぱいになった」

「そっか」


 彼はニコニコと私の顔を見ている。


「な、何かな?」

「良い顔になったなと思ってね。少しは元気になってくれたみたいで何よりだ」

「え……」

「落ち込んでるのは誰が見てもわかるぞ? 顔に書いてあったからな」


 え、えぇ?

 とか思いながら、自分の頬をペタペタ触る。

 彼の言っていることは比喩で、実際は書いていないのに。

 我ながら行き過ぎた反応に恥ずかしくなる。


「ははっ、そういうリアクションが出来るなら大丈夫だろ。何があったかは知らないけどさ」

「……聞かないんだね」

「ん? 聞いてほしいなら聞くし、興味はあるよ」

「……」


 私は口を噤む。

 良い話じゃないけど、話せないってわけでもない。

 優しそうな人たちだし、話せば力になってくれるかもしれない。

 でもそれは、きっと迷惑だから。

 余計な仕事を増やして、私の事情に巻き込んでしまうのは申し訳ないと思った。


「別に話したくないなら話さなくて良いけどさ。それでこの後はどうする?」

「この後?」

「俺たちはしばらく続けて、終わったら宿に向かうけど、君はどうするのかなって?」

「私は……」


 行く当てはない。

 お金もないから、宿を取ることも出来ない。

 唯一の資金源だったポーションは使ったし、今夜は野宿かな。


 とか思っていたら、エアル君は隣に座っているレンテちゃんと目を合わせる。


「なぁレンテ、お節介を言っても良いと思うか?」

「もちろん! お兄ちゃんが言わないなら私が言うつもりだよ!」

「なら仕方がないな。兄として妹に先を越されるわけにもいかない」

「え、なに?」


 二人は良い顔で、私と改めて視線を合わせる。

 そして口を開く。


「困ってるなら手を貸すよ。俺個人としてでも、四風の旅団としてでもな」

「――私は別に」

「頼んでないのは知ってるし、遠慮してるのもわかるよ。困ってる内容すら知らないからな? でも」

「余計なお世話でも私たちには関係ないんです! 私たちがなんて呼ばれてるか知ってますか? お人好しの旅団です!」


 お人好しの……旅団。

 レンテちゃんがそう言った途端、周りにいた他の旅団員たちもこちらを向く。

 一斉に視線を向けられるのは驚いたけど、嫌な視線は一つもない。

 みんな温かくて、優しい目をしている。


「困っている人は放っておけない。そうやって首を突っ込んで、手を貸して、大きくなったのがうちの旅団なんだ。ここにいる全員が、助けてきた側の人間で、困ってる人を放っておけないんだよ。君もそうじゃないのか?」

「私が……?」

「レンテを助けた。仕事から手が離せなかったとはいえ、俺たちよりも早くだ。どう見たって君もお人好しだよ」


 私が……お人好し。

 そうなのかな?

 王宮で働いていた頃の私は、自分のことで精いっぱいで、周りのことなんて気にする余裕はなったけど。

 気付かなかっただけ……なのかな。


「そんな君が困ってる。だから手助けをしたい。図々しくも手を差し伸べたいんだ。それとも、お節介は嫌いか?」

「……ううん、嬉しい」

「そっか。なら良かったよ」


 一人ぼっちになったあの日。

 ずっと……私は一人で頑張ってきた。

 信じていたものに裏切られて、拒絶されて。

 全部を失った空っぽの私にも……手を差し伸べてくれる人がいるんだ。

 それがたまらなく嬉しい。


 四風の旅団……お人好しの旅団。

 なるほど、確かにその名の通りかもしれないな。

 

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