66.素材集めに行こう
原因を考察し、確かめるためにやることは決まった。
あとは行動に移すのみ。
涙を拭うヘルフストさんと、協力を約束してくれたシスティーナさん。
二人のためにも、なんとかしてあげたい。
そのためには私の力だけじゃ不十分だ。
「システィーナさん。協力してほしいことですが、システィーナさんには料理を作ってほしいんです。ヘルフストさんのために」
「はい。料理なら任せてください。何を作れば良いでしょうか?」
「品目はお任せします。私から指定する条件は一つだけ。お二人にとって思い出深い料理が好ましいです」
「思い出深い料理……ヘルフ君のではなくて、私たちの?」
私はこくりと頷き肯定する。
今から私が作ろうとしているポーションは、自身の記憶と感情を整理する効果を持つ。
具体的にはそれを飲んで眠ると、過去に起こった出来事を夢で見る。
かつての自分を客観的に見ながら、その時の自分が何を考えていたのか、どう思ったのかを再確認する。
あくまで記憶を思い返すだけだから、そこから理解できるのかはその人次第だけど。
「ただ飲んだだけでは夢は見られません。思い出したい過去を連想する何かを体験したりとか、思い出すきっかけが必要なんです。ヘルフストさんの場合は食べることが関係している思うので」
「だから料理なんですね。でもなら、どうしてさっきの指定を?」
「それは私の勘です。今回の件は、ヘルフストさん一人の問題じゃない気がするんです」
あくまで私の勘。
なんの根拠もなく、確証もない。
直感的にそうだと思ってしまった。
そしてそれは、二人も同じだったのだろう。
「わかりました。ヘルフ君と相談しながら決めても良いでしょうか?」
「はい。そのほうが良いと思います」
「ありがとうございます。ヘルフ君も良いかしら?」
「もちろんだ。僕も出来る限り協力させてもらうよ」
という所で話はまとまった。
二人にお願いすることは以上だ。
残りはポーションの材料を集めないと。
「エアル君にもお願いがあるんだけど」
「引き受けた」
「ま、まだ何も言ってないよ?」
「良いんだよ。内容がなんであれ協力するつもりだからな! どんと頼ってくれ」
彼は自分の胸をドンと力強く叩き、自身を露にしながら微笑む。
こういう懐の大きさも、彼の魅力の一つだろう。
「それで? 何を手伝えば良いんだ?」
「ポーションの素材でいくつか街では売ってないものがあるの。森か山に行きたいから、一緒についてきてほしい」
「了解だ。ユリアが安心して素材集めが出来るように護衛しよう」
「ありがとう。エアル君がいてくれて良かったよ」
心からそう思う。
彼が一緒ならモンスターがいる危険な場所もいけそうだ。
必要な素材の中には、そういう場所で見つけやすい物もあって、私一人じゃ危なくて近寄れないから。
「お姉ちゃん! 私は私は?」
「レンテちゃんにはお遣いを頼みたいな。街で買える素材を集めてほしいの」
「わかったー!」
「ありがとう。後でほしい物を書いて渡すね」
これで各々の役割も確認できた。
話すべきことも話し終わったし、いよいよ行動開始だ。
「みんなでヘルフストさんの味覚を取り戻そう!」
「おう!」
「うん!」
「そのために私は最高の料理を作ります!」
システィーナさんは右手をぐっと握りしめる。
みんなやる気十分。
ヘルフストさんは私たちを泣きそうな顔で見つめながら……
「僕は幸せ者だな」
そう呟いた。
◇◇◇
ネールの街から北へ数キロ歩いたところに、三つの大きな山がある。
先端が鋭くとがったような山が並んでいることから、三尖山と呼ばれているそうだ。
山の周辺は森になっていて、様々な動物が生息している。
中には凶悪なモンスターもいるらしく、一般人は中々近寄れない。
もし探索をしたいなら、優秀なハンターを護衛に付けるそうだ。
「本当、エアル君が傍にいてくれて良かったよ」
「なんだよ急に」
「だって普通いないよ? 一人でモンスターと戦える人なんて」
「そうでもないだろ? ボスなんか魔法も使えないのに俺より強いし」
あ、あの人はもうなんというか。
色々とおかしい人だから比べないほうが良い気もするなぁ。
私はエアル君と一緒に山の麓に訪れていた。
ポーションの材料として必要な素材を集めるためだ。
「確認するけど、足りない素材は一つだけでいいんだな?」
「うん、他は全部街で揃うんだけど、それだけはどこにも売ってないんだ」
「そんなに貴重なのか? えっと、リコ……なんだっけ?」
「リコレテンダケ。毒キノコの一種だね」
そのまま食べると幻覚を見せられる。
しかも内容は決まって、自分を身近な誰かが非難し続けるという光景らしい。
責め続けられ、精神を壊され、最後は自ら命を絶つ。
過去の後悔や懺悔の気持ちが元になり、自分自身を追い込んでしまうとても危険な作用を持つキノコだ。
「そんなの材料に使って平気なのか?」
「ちゃんと処置すれば大丈夫だよ。その処理も難しいんだけど、問題は生えている場所が……」
リコレテンダケを好む凶暴なモンスターがいる。
そのキノコが生えている場所には、もれなくモンスターもセットなんだ。
「正直モンスターのことはエアル君頼りだから」
「任せとけ。どんな相手でも軽くひねってやるさ」






