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【7/25コミック1巻発売】国渡りの錬金術師 ~王子に騙され王宮を追い出された私は、ある旅の一団と出会いました~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章『秋風』

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62.大切に思うなら

 力強く意見する私に、エアル君が驚いていた。

 彼も私がこんなことを言い出すとは思っていなかったみたいだ。


「ユリア?」

「ごめんねエアル君。そういうことを言ってる状況じゃないのはわかるけど! これだけは言わなきゃ気がすまないの」


 あふれ出す感情が言葉に宿る。

 私の怒りを感じ取ったエアル君は、そっと身を引いた。

 私が話しやすいように、視界から外れてくれた。

 言葉には出さなかったけど、好きにして良いと言われた気がする。


「ヘルフストさん」

「……」


 相手は秋風の団長さん。

 目上の人だし、ついさっき初めて顔を合わせたばかり。

 他人に対して説教が出来るほど、私は偉くない。

 それでも……私が誰より知っていて、共感できることがある。

 

「システィーナさん、ヘルフストさんがいなくなって凄く心配していましたよ」

「……そうだろうね」

「それに落ち込んでました」

「……ああ。それもわかってるよ」


 わかっている。

 その言葉を聞く度に、私は苛立ちを強くする。


「なら会ってあげてください。ヘルフストさんが無事だとわかればきっと喜びます」

「それは……止めておいたほうが良い。今の僕を見たら彼女はもっと心配するよ。食べられないなんて知られたら尚更だ」


 ヘルフストさんはお腹を押さえながら続ける。

 彼女の料理を、料理をしている彼女を思い出しているのだろうか。


「彼女は料理が好きなんだ。自分の料理を食べてもらえて、幸せだと思ってもらえることが嬉しいだよ。そんな彼女だからこそ、今の僕を見せたくないんだ。彼女のためにも、今は会わない方が良い」

「彼女のため? 違いますよね?」

「え?」

「全部自分のためじゃないですか! 食べられない自分を見せたくないのも、システィーナさんに幻滅されたくないからでしょ?」


 彼が口にした言い訳は、私じゃなくてもそう聞き取れるはずだ。

 料理が好きな彼女に、料理が食べられなくなった自分を見せたくない。

 見せたくないと、ハッキリ言った。

 彼自身は無意識の言葉だったのだろう。

 私に指摘されて、ハッと気づいたように目を見開く。


「僕は……」


 きっと最初は違ったのだと思う。

 純粋に心配させたくないから、距離を置いたのかも。

 今だって、システィーナさんに心配をかけまいという気持ちも嘘じゃないはずだ。

 だけど言葉の奥、本音は怯えている。

 嫌われたくないと思っているんだ。

 システィーナさんにとって彼はとても大切な人で、自分の全てだと彼女は言った。

 だったらその逆は?

 聞くまでもない。

 彼の行動が、今の表情が物語っている。


「システィーナさんにとって、ヘルフストさんはとても大切な人なんです。彼女が貴方のことを話してくれた時、とっても幸せそうでした。彼女とは今日会ったばかりですけど、彼女にとって貴方が特別だってことくらいわかります。ヘルフストさんは違うんですか?」

「……違わないさ。僕にとっても彼女は大切だよ」


 返事に少しずつ力が宿る。

 熱がこもる。


「彼女と出会って、彼女の料理に出会えて、毎日ワクワクするんだ。今日はどんな味だろう? 明日は何が出てくるのかって」


 思い返すように。

 目を瞑った瞼の裏には、これまでの思い出が映し出されているのだろうか。


「それに彼女が料理している姿は見ていて楽しい。あんなに楽しそうに料理をする人は他にいない。彼女の笑顔はとても綺麗で……」


 あふれ出る言葉と一緒に感情が漏れ始める。

 無気力に笑っていたさっきまでとは違う。

 

「僕は……彼女には笑顔でいてほしいんだ。今の僕を見せたら、彼女の笑顔を曇らせてしまう気がする。それが怖い」


 今のがきっと、紛れもない本心なのだろう。

 彼は自分の弱さをさらけ出した。

 大切だからこそ、傷つけたくない。

 自分の所為で彼女が悩み、苦しむのが怖いのだ。

 それは誰もが思うことで、彼だけの特別な感情じゃない。

 私だって、エアル君だって、みんな同じ。

 好きな人に嫌われたくない。

 大切な人を傷つけたくない。

 自分の所為で苦しむくらいなら、いっそ離れたほうが楽だ。

 だけど……


「離れたって悲しいだけです。辛い時ほど傍にいさせてほしい。大切な人が、誰かが一緒にいてくれるだけで良いんです。システィーナさんだって、きっとそう言うと思います」


 私にはわかる。

 彼女も私と同じように、孤独を経験した人だから。

 一人になって、手を差し伸べられた幸せを知っているから。

 

「でも僕は……」

「ヘルフストさんは会いたくないんですか?」

「そんなの……会いたいに決まってる。心配をかけたことを謝りたい。会って話したい。それから……それから、なんでも良いから話がしたい。他愛のない話でいいから」


 声が聞きたい、そう続けた。

 もう、これ以上言う必要はなさそうだ。

 珍しく熱くなった私は、心臓がバクバク鼓動をうっていることに今さら気づく。

 興奮が緊張に代わり、我に返っていく。

 出過ぎた真似をしたと、謝ってしまいそうだ。

 そんな私の肩を、エアル君がトンと叩く。


「よく言った」


 そう言って貰えてホッとする。

 私は笑顔で返した。


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