52.思わぬ出会い
春風の一団は北へ進む。
お昼寝を挟み、体力も回復した私たちが向かったのは、ファルム王国の玄関。
食と紅葉の街ネール。
「そろそろ到着するよ。レンテを起こしてあげて」
「うん」
レンテちゃんは私の膝を枕にしてスヤスヤ眠っている。
みんなが休憩している時に走り回って遊んでいた彼女は、荷車に戻ってしばらくすると眠気に襲われたようだ。
あれだけはしゃげば疲れるのは当然だろう。
到着までの五時間弱、私は彼女の枕代わりになってあげていた。
「レンテちゃん、起きて」
「ぅ、うーん……お姉ちゃん?」
「そろそろ次の街に到着するよ」
「うん。ふぁーあ」
可愛らしい欠伸をしながら、レンテちゃんは頭を上げる。
ぐぐぐっと背伸びをして、前に見える街が視界に映ると、パッチリと目を開けた。
「ねぇお兄ちゃん! 秋風のみんなにも会えるかな?」
「会えるだろ? 次の定期集会があるんだ」
「それより早くだよ!」
「どうだろうな。タイミングが合えばもしかすると、って感じだ」
二人の会話を聞きながら、私はふと気になることが頭に浮かぶ。
時折話に出てくる定期集会のことだ。
詳しくは聞いていないから、どんなことをするのか私は知らないでいる。
秋風の話が出て来たのも気になって、私はエアル君に尋ねる。
「エアル君、秋風の人たちもこの国にいるの?」
「予定じゃそのはずだな」
「じゃあこの国に来たのって秋風の人たちと会うため?」
「そういうわけじゃないよ。いや、そうでもあるのか? 半分正解って感じだな」
半分?
なんだか意味深な言い方をする。
「それってもしかして、定期集会が関係してる?」
「そう。半年に一回の定期集会がもうすぐあるんだけど、今回の主催は秋風で、場所はこの国なんだよ」
各旅団が一堂に会する大集会。
別名『四風会議』と呼ばれる集会は、半年に一度のペースで開催される。
内容は主に近況報告と、今後の活動方針について。
旅団はそれぞれで独立して商売をしているけど、元が一つの組織であることは変わらない。
自分たちの活動や方針を共有して意見を交わしたり、協力できるとことは協力する。
特に商人にとって情報交換の場は大切で、この四風会議のメインもそこにある。
「前回は夏風が担当で、その前が俺たちの担当だったんだ。そうやって交代制で主催をしてるんだ。その次は秋風ってわけ。だから秋風に会うためにこの国へ来たっていうのも、あながち間違いじゃない」
「そういう意味だったんだね」
私は納得しながら思い浮かべる。
夏風の団長リエータさんと、大団長のファスルさん。
二人とも良い人たちだけど、とっても個性豊かでもあった。
夏風自体も個性的で、私たちとは違って海を中心に活動していた。
エアル君の話だと、旅団はそれぞれに特徴があるという。
「エアル君、秋風ってどんな旅団なのかな?」
「どんなって特徴のことか?」
「うん」
「うーん、一言でいうのは難しいな~ あそこも俺たちと近くていろいろやってるし、しいて言えば――」
「お料理が美味しい!」
エアル君が答えるより少し早く、レンテちゃんが元気いっぱいに答えた。
するとエアル君はレンテちゃんを指さして。
「それだ! 秋風は飲食店舗に力を入れていて、腕の良い料理人がたくさんいるんだ。特に二年前、新しく入った人が凄腕でな」
「システィーナさんっていうんです!」
名前を聞く限り女の人みたいだ。
二人は続けて、彼女の凄さについて語り始める。
「彼女は料理の天才だ。どんな食材でも、どんな環境でも美味しくしてしまう。彼女が入ったことで料理の種類が倍以上に増えたって話を聞いたな」
「ば、倍?」
そんなに増やしたの?
たった一人が加入しただけで?
なんだか凄そう。
「それだけじゃないんです! システィーナさんは元貴族のお嬢様なんですよ!」
「貴族? そうなの?」
「ああ。二年前に秋風は入るまではそうだったらしい。経緯は少し違うけど、ユリアと近い境遇ではあるかな」
「私と……」
元貴族で旅団の一員になった人。
それだけ聞くと確かに似ている気がする。
秋風のこと以上に、そのシスティーナさんという女性に興味が湧く。
「詳しいことは本人から聞くと良い。みんなが集まった時に話す機会もあるだろ」
「うん、そうするよ。あ、でも先にどんな人かは教えてほしいかな? 見た目とかいろいろ」
「見た目か。俺はそういうの説明するの苦手だし……レンテ、頼んで良いか?」
「うん!」
元気よく返事をしたレンテちゃん。
彼女は説明する前にうーんと考えだし、辺りを見渡す。
話しているうちに私たちはネールの街に踏み入っていた。
道行く人たちの中から、似ている人でも探しているのだろうか。
「あ!」
どうやら当たっていたようだ。
彼女はその人を見つけると、指をさして言う。
「あんな感じの人だよ!」
示した先にいた女性は、カールのかかった金色の長い髪を靡かせる。
どこかのお嬢様みたいな雰囲気は、確かに貴族の令嬢に近い。
懐かしささえ感じる見た目の彼女は、ふいに私たちに視線を向けた。
「あ! おーい! レンテちゃん!」
「あれ?」
「おい待て、本人じゃないか?」
「え?」
まさかの本人?