51.秋の紅葉
第三章開幕です!
アルベスタ王国から北へ半月と二日。
私たちを乗せた荷車は色鮮やかな木々が立ち並ぶ街道を進んでいた。
広がる景色の変化を確かめながら、私は大きく息を吸う。
「すぅーはー、なんだか空気が変わってきたね」
「海からだいぶ離れたからな。それに一山超えたし、もう海の香りは感じないだろ?」
「うん。その代わり葉っぱの匂いが強くなったのかな? 風も少し涼しくなった気がするよ」
「そうだな。今から入る国はアルベスタ王国と違って熱くない。気候も穏やかで、過ごしやすい国なんだよ」
アルベスタ王国は海の国。
そして一年中暑さが続く夏の国だった。
対して今から向かう国は――
「ファルム王国には四季があるんだ。その中でも秋が占める割合が大きい。一年の七割の季節が秋で、気温変化もそこまで激しくない。だから俺たちは、あそこを秋の国って呼んでるよ」
「秋の国か~ でもそっか、だから紅葉もこんなに綺麗なんだね」
街道の左右には、木々が生い茂っている。
緑色の葉はほとんどなく、一枚一枚が別々の色をしていて鮮やかで明るい。
赤、黄色、オレンジ、茶色。
それぞれの色が混ざることなく集まり、風に吹かれて宙に舞う。
「紅葉のことは知ってたんだな」
「うん。私の国では見られなかったけど、現象としては知ってたよ」
葉はふつう、ハッキリとした緑色をしているものだ。
だけど季節の移り変わりで日照時間が短くなると、葉っぱの色が変化する。
人が老いればシワが増え、髪の毛の色が落ちるとの同じように。
葉っぱも老化すれば色が落ちているというわけだ。
話に聞いて、本で読んで知っていたことだけど……
「実際に見ると本当に綺麗だね」
「ああ」
「それになんだか落ち着くし、眠くなってくるよ」
「はははっ、そうなんだろうな」
エアル君は笑いながら、私の膝を枕にして眠るレンテちゃんに視線を向けた。
彼女は気持ちよさそうな寝息を立てている。
「少し前まで暑くて寝苦しかったからな。このくらいの気温が丁度良いんだろ」
「そうみたい、わぁ~あ、私も眠くなってる」
レンテちゃんの気持ちよさそうな寝息を聞いていると、私も一緒に横になりたい欲求が芽生えてきた。
だけど私はレンテちゃんの枕になっているし、同じような体勢にはなれない。
眠気だけが強くなって、うとうとしてくる。
「本当に眠そうだな」
「う、うん」
「じゃあ一旦どこかで休憩にするか」
「え? いいの?」
エアル君はニコリと微笑み、後続の荷車の様子を確認した。
後ろに続く人たちも、大きな欠伸をしたり、眠そうなしぐさを見せていた。
それを確認してから、エアル君は振り戻って私に言う。
「眠いのはユリアだけじゃないみたいだし、最初の街までまだ距離がある。一度くらいは休憩を挟まないとな。それに」
「それに?」
エアル君は空を見上げた。
雲一つない青空を。
「こんなに天気が良いんだ。日向ぼっこしながら寝るのは気持ちが良いぞ?」
「確かにそうかも」
エアル君の言う通り、きっと気持ちが良い。
吹き抜ける風が優しくて、温かくて、心地よくて。
太陽の日差しがお布団の代わりになってくれそうだ。
それから少し先に進み、開けた草原を見つけた。
エアル君の指示で一団は休憩することに。
馬車を街道の端に停めて、団員たちはそれぞれ休憩に入る。
荷車の運転席に残る人、荷車の影に入って談笑する人、草原に寝転がっている人。
休み方も人それぞれだ。
中には休まず元気に、草原を駆けまわる子もいる。
「わーい! 見て見て! 落ち葉のお布団だよ!」
色鮮やかな落ち葉が山のように集まる中へ、レンテちゃんが豪快に飛び込む。
落ち葉が舞い上がり、レンテちゃんがバタバタ手足を動かしはしゃぐ。
その様子を私とエアル君は、木陰で腰を下ろして見守っていた。
「あんまりはしゃぎすぎるなよー」
「はーい!」
「ったく、わかってるのかあれ」
「楽しそうだし良いんじゃないの?」
休憩前に眠っていたレンテちゃんは元気いっぱい。
荷車を停めてた時に目を覚まして、広々とした草原を前にして興奮気味に駆けだした。
しっかりしていてもやっぱりまだ子供だ。
目の前にある遊びたい欲求には正直に一歩を踏み出してしまう。
危なっかしくはあるけど、楽しそうに駆けまわる姿は微笑ましい。
「元気があるのは良いことだよ」
「そうだな」
「エアル君は疲れてないの? ずっと運転してたのに」
「俺は平気だよ。これくらい慣れてるからな」
そう言ってエアル君は力こぶを見せ、元気さをアピールする。
さすが春風の団長さん。
他が疲れて眠っている人も多い中、疲れた様子を一切感じさせない。
対して私はと言うと……
「ふぁ~」
大きな欠伸が出てしまった。
恥ずかしくて、誤魔化すように笑う。
「無理せず寝ても良いんだぞ? なんなら俺の膝を枕にするか?」
「え、い、いいよそんなの。エアル君に悪いし」
あと私が恥ずかしい。
「気にするなって。ほら」
「あ、ちょっ」
珍しく強引に、エアル君は私の肩を寄せる。
そのまま頭は彼の膝へ。
コトンと頭を乗せ、横になった途端に眠気が押し寄せる。
彼の膝枕のお陰なのか、落ち着いて心が休まる。
「すぅー」
「おやすみ、ユリア」






