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49.ピンチに駆けつけるのは

「なっ、今度は墨かよ!」

「目眩ましか? いや違う! みんなこの墨を吸い込むな!」


 墨は霧状になって船を覆う。

 エアル君の声はほぼ全員に届いていた。

 しかし、一手遅い。

 すでに霧状になった墨を体内に取り込んでしまっていた。


「うっ、が……」

「は、肌が焼けるように……」


 次々に苦しみだし、倒れ込む。

 その症状を私たちはよく知っている。


「海遊病!」


 やっぱり海遊病の原因はクラーケンだったんだ。

 あの怪物が吐き出す墨に病気の元が。


「ぅ、っ……」

「ユリア!」


 油断していた。

 私も墨の一部を吸い込んだせいで発症を……全身が痛い。

 肌が焼けるように。

 こんな痛みにレンテちゃんやみんなは……


「くそっ、今さら風で飛ばしても意味ないか。待ってろユリア!」

「わ、私より船を! あ! リエータさんが!」


 彼女も同様に発症している。

 否、むしろ先頭に立っていた彼女が最も墨を浴びてしまった。

 全身が一気に赤く晴れ、高熱と倦怠感に襲われる。

 

「く、くそっ……」


 もはや激痛で立つことすら出来ない。

 それでも戦おうと銃を構えるリエータさん。

 定まらない照準では当てることは難しい。

 その隙をつくように、無数の足がリエータさんに迫る。


「リエータさん! くそ邪魔だ!」


 エアル君が助けに行こうとするも阻まれる。

 私には戦う力がない。

 何もできないまま、ただ叫ぶことしか出来ない。


「リエータさん!」

「っ――」

「おうおう、随分とピンチみてーだな」


 その時、一人の男が現れた。

 颯爽と豪快に。

 全てを吹き飛ばす突風のごとく、大きな背中が彼女の前に立つ。

 

「あ、あの人は?」

「――まったくあの人は、いつだってピンチに駆けつける」


 彼は振り返り、さわやかな笑顔を向ける。


「よぉリエータ、大丈夫か?」

「……バカ。これが大丈夫に見えるのかい? 頭だけじゃなくて目も悪くなったんじゃないだろうね」

「へへっ、そんな軽口叩けるなら余裕だろ。なぁエアル!」

 

 今度は空で戦うエアル君を呼んだ。

 彼を見たエアル君は嬉しそうに、希望に満ちた表情を見せる。


「遅いですよ、ボス」

「悪い悪い、これでも急いできたんだぜ? 港で小舟を借りてえっちらほっちらとな~ お? もしかしてそこの子が例の錬金術師か? 初めまして~ オレが大団長のファスルだ」

「自己紹介してる場合か! さっさと前に集中しな!」


 やっぱり大団長さんだったんだ。

 イメージしてたより抜けている人……というか、優しそう?

 身体は大きくて男の人って感じだけど、声を聞いていたら落ち着くような。

 って私まで落ち着いてどうするんだ!

 今はそんな状況じゃないのに。


「わーってるって。よぉでかいの。()()()()逃がさねーぜ」


 ファスルさんは大剣を片手に、クラーケンをギロっと睨む。

 彼の視線に反応したようにクラーケンは彼に向けて足を振り下ろす。


「ぶった切ってやるよ!」


 その足をいともたやすく両断して見せる。

 声にならない悲鳴をあげるクラーケンに、ファスルさんは連続で斬りかかる。


「つ、強い……あれも魔法?」

「違うよユリア。あの人は魔法なんて使えない」


 エアル君は宙に浮かびながらファスルさんの戦いぶりを見つめる。


「ただ単純に、あの人は化け物みたいに強いんだ」

「おらおら! こんなもんかよでかいの!」


 化け物みたいという表現は正しい。

 エアル君が言うように、ファスルさんの戦いっぷりは同じ人間とは思えない。

 クラーケンと互角に、対等に渡り合っている。

 

 でも……駄目だ。

 あれじゃクラーケンは倒せない。

 凍結の砲撃を復活させないと。


「エアル君! 協力してほしいことがあるんだ!」


 私は叫ぶ。

 振り返った彼が尋ねる。


「策があるんだな?」

「うん!」

「わかった今行く! ただ時間はないぞ?」

「大丈夫だよ。そんなに時間はかからないから」


 戦況が傾いている原因は海遊病だ。

 私は痛みに耐えながら、念のために用意しておいた万能ポーションを取り出し、飲み干す。

 手持ちは残り三本、街で回している関係でこれだけしか用意できなかった。

 

「ポーションか? それを複製できるのか?」

「ううん、材料がないからムリだよ。それに全員に配ってたら間に合わない。だから――」


 残り三本のポーションを作り変える。

 液体ではなく霧状に。

 三本分だから効果は薄くなるけど、その分は持続時間を短く調整すれば良い。


「私が錬金を始めたら、出来上がった霧状のポーションを風でみんなに届けてほしいんだ」

「なるほど、任せてくれ」

「うん」


 エアル君がいる。

 私一人じゃできなくても、彼がいれば叶うんだ。

 一秒でも早く、みんなの元に届けよう。

 私にできる精一杯を。

 暖かな風に乗せて。


「な、なんだ? 急に身体が楽に……」

「痛みが引いてきたぞ?」

「みんな聞いてくれ! ユリアのポーションのお陰で症状は抑えられる!」


 エアル君が叫ぶ。

 

「ただし効果は五分間らしい! それまでにあいつを、海の怪物を倒すんだ!」

「やってくれたね、ユリアちゃん」


 彼の声に鼓舞され、リエータさんたち夏風の団員たちが立ち上がる。

 止まっていた砲撃が、凍結の砲弾が放たれる。


「お前ら気合い入れ直せ! これが最後だよ!」

「おー!」 

「おうおう、さっそく活躍してんな~」

「ボス! これを!」


 畳みかける怒涛の攻撃。

 そこにもう一押し、あと一歩あれば押し切れる。

 エアル君がファスルさんに投げたのは、凍結ポーションが入った瓶だった。


「それを剣に纏わせて斬ってください!」

「おっしゃ! よくわからんが任せとけやぁ!」


 ファスルさんが飛び上がる。

 クラーケンの正面に堂々と迫る。

 無造作に投げられたポーション瓶。

 その上を――


「おらよっと!」


 豪快な斬撃が駆け抜ける。

 突風のごとき刃の風が、クラーケンを文字通り、一刀両断した。


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