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47.不運は重なる

 ポーションの配布は順調。

 効果も確かで、レンテちゃんのお陰もあって持続時間も把握済み。

 あとは流行期間が過ぎるまで耐えれば良い。


「はぁ、本当は完治までさせたかったけど、やっぱり難しいかな」

「十分だろこれで」

「そうそう。ユリアちゃんのお陰でみんな元気になったし、普段通り生活できてるんだからさ」


 二人が言ってくれた通り、街での日常は戻りつつある。

 一番の問題だったポーションの材料不足もギリギリなんとかなりそうだ。

 春風と夏風が協力して、近隣の村々や街から素材を集められたのが大きい。

 さすが世界を渡り歩く旅団だ。

 

「結構な出費になっちまったね」

「良いじゃないですか。宣伝にもなって客足は倍増してるんでしょ? うちも臨時でいくつか店出して儲けてるし」

「そうだね。まぁマイナスにはならないから良しとするか。商人としては失格だけどな」

「かもですね」


 そう言った二人は笑う。

 商人でありお人好しの団長さんたちだ。

 こういう人たちだから人が集まるし、お客さんからも愛されるのだろう。

 

 本当に順調だ。

 なんの不安も不備もないほどに。

 だけどなぜか、胸の奥に引っかかる何かがあって。

 胸騒ぎがする。

 この不安なんんだろう?


 その答えはすぐに―― 


「た、大変です団長!」

「やばいです姉御! あれが来てる!」


 私たちの所に駆け寄ってきた二人。

 春風と夏風、それぞれの団員が血相をかえて船長室の扉を開けた。

 和やかだった空気が一瞬でピリ突く。


「どうした?」

「あれだと? まさか……」

「怪物がこの街に!」

「クラーケンが迫ってきてます!」


 クラーケン……?

 恐怖がこの街を襲おうとしている。

 私が知らない恐怖が。


  ◇◇◇


 クラーケン。

 巨大なイカの姿をしたモンスターで、海中最強の個体。

 船乗りたちがもっとも恐れる存在。

 嵐より、病より、その化け物は恐ろしい。


「最悪だな。こうもタイミングが悪いのかい?」

「リエータさん、このことを街の人たちにも話すべきじゃ」

「ああ、話さないといけないだろ。あいつは街ごと食らいつくす怪物だ。今すぐ逃げなきゃみんな食われちまうよ」


 私はごくりと息を飲む。

 名前を聞いただけでは恐ろしさがわからなかった。

 けれど二人の話を聞いていくうちに、どれほど強大なのかが頭に浮かぶ。

 

「げ、撃退とかは出来ないんですか?」


 私が尋ねると、リエータさんは首を横に振る。


「無理だね。あれはただのモンスターじゃない。高い再生能力に破壊力、何より巨大だ。この街を飲み込むのも簡単だよ」

「そ、そんな……」

「ちくしょう……なんで今なんだ。こうも動けない時に……」


 リエータさんが唇を噛みしめる。

 悔しさが表情や声からもにじみ出る。

 私も同じことを思った。

 どうしてよりによって今なんだ……と。


「いや逆だ。今だからこそかもしれない」


 そんな中一人、別の考え方をする人がいた。


「エアル君?」

「どういう意味だい?」

「この病気、海遊病について色々調べてたんだけど、その中で度々クラーケンが出て来たんだよ」


 クラーケンはこれまで、数々の港町を破壊してきた。

 その数は二十を超えているという。

 驚異の数字だが、注目すべき点は他にある。

 海遊病が流行した街と、クラーケンが襲撃を仕掛けた街が一致していた。

 

「全部が全部じゃないから、偶然かなと思った。でも確かに不自然だ。モンスターとの関係性を示唆してる気がしないのか?」

「つまりそれは、クラーケンが病気の原因だってのかい?」

「そうかもしれないという話です。例えば……クラーケンは墨を吐くんですよね?」

「そうだよ。あいつは常に墨をまき散らしてる。だから船で移動中も海が黒ずんでたら引き返すんだ。あいつがいるって証明だからね」


 リエータさんが語ったのは船乗りの常識らしい。

 海の色を濃くするほどの墨……その墨に病気の原因があるとしたら?

 墨は海に溶け込んで広がり、港にも届いて。


「弱った所を食べにくる?」

「そう。今がその時なんだよ」


 確かに、それなら話は繋がる。

 原因不明の感染症。

 その原因が討伐不可のモンスターにあるのなら、薬が効かないのも頷ける。


「だったら尚更あいつを野放しには出来ないじゃないか!」

「はい。だから倒す方法を……考えないと」

「倒す方法……ね。あの再生能力をなんとかしなきゃ勝ち目はゼロだよ」


 再生能力……

 モンスターが持つ再生能力は異常だと聞いたことがある。

 高い個体は身体の半部以上を失っても再生してしまうとか。

 確か人間の身体が治る原理と同じで、それが異常な高さに……それなら何とかできるかも?


「その再生能力さえ何とか出来たら、クラーケンを倒す戦力はありますか?」

「え? まぁうちの船は戦闘も出来る仕様になってるし……まさか」

「方法があるのか? ユリア」

「うん」


 私は力強く返事をした。

 方法はある。

 錬金術師の私なら、それを生み出せる。


「ただ初めて作るものなので、絶対というわけじゃないです」

「それでも構わないよ」

「ああ! 可能性があるなら、俺たちは君にかけるよ」

「エアル君……わかった。今からいう物を用意してください!」


 クラーケン上陸まで残り一日半。

 私にとって初めての、戦いというものを体験する。

 

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