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【7/25コミック1巻発売】国渡りの錬金術師 ~王子に騙され王宮を追い出された私は、ある旅の一団と出会いました~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章『夏風』

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46.ただのお人好しじゃないです

 万能ポーションの効果は正しく発揮された。

 全身の赤みが消え、痛みもなくなり、熱も治まってきたようだ。

 レンテちゃんはちょっと動くだけで痛そうにしていたのに、今はゆっくりと起き上がれる。


「どうだ? レンテ、身体が重かったりはしないか?」

「うーん、ちょっとだけ? でも痛くないし熱くもなくなったよ! お姉ちゃんのポーションはやっぱり凄いよ!」

「ああ……凄いな」


 レンテちゃんが目を輝かせて、エアル君はホッとしたように私を見る。

 私は恥ずかしさと誇らしさ半々くらい。

 それ以上にレンテちゃんが元気になってホッとしている。

 

「効果はちゃんと出てる。これなら街の人たちにも配れるよね?」

「ああ。でもその前に団員たちが先だ。動ける人員を増やしてからじゃないとこっちがパンクする」

「私も手伝うよー!」

「レンテは駄目だ。ちゃんと大人しく寝てなきゃ」


 お手伝いしたいレンテちゃん。

 エアル君に引き留められ、えぇーと残念そうな声を出す。

 

「私もお手伝いできるよー」

「駄目だ。元気になったっていっても病み上がりだろう? それに――」


 説得しながらエアル君が私に目配せをする。

 私からも言ってほしいと、その眼が語っていた。


「レンテちゃん。ポーションの効果には時間制限があるの。私の想定では三日は持つはずだけど、実際には個人差もあってバラバラなんだ」

「そうなの? 治ったわけじゃないんだ」

「うん。だからまた辛くなる時が来ると思う」

「そう……なんだ」


 悲しいことだけど事実だ。

 万能ポーションと言ってもまだ未完成。

 未知の病気に対して効果を発揮できても、完治までは届かない。

 いずれ必ず効果がきれて、同じ痛みが全身を襲う。


「そうなる前にポーションを飲めば改善するんだけど、ポーションも薬と同じで飲み続けると効果が薄くなる特徴があるんだ。それを見極めるために、レンテちゃんには頑張ってもらいたいの」

「私に……?」

「うん。とっても大切で、一番大変なお仕事かもしれない」


 ポーションの効果時間、効果の変化。

 それらを見極めるには結局、飲んでもらった人を観察するしかない。

 言い換えれば実験なんだ。

 それを仕事と言うのは聊か卑怯な気がするけど。


「わかりました! 私が頑張ればみんな辛い思いしなくて済むんですよね! だったら頑張ります!」

「レンテちゃん……」

「悪いなレンテ。辛い役回りをさせて」

「そんな顔しないでよお兄ちゃん。見てみて? 私こんなに元気だよ!」


 彼女ならそう言ってくれると思った。

 元気さをアピールしようとベッドから立ち上がり、クルリと一回転する。

 

「だから二人とも頑張って! みんなを助けてあげてね?」

「ああ」

「うん」


 レンテちゃんは優しいからそう言ってくれると思っていた。

 やっぱり卑怯な言い方だったよ。

 痛いのも辛いのも誰だって嫌なのに、彼女はそれを引き受けたんだ。

 失敗はできない。

 レンテちゃんの笑顔を守り続けるためにも。

 私自身の誇りにかけて。


  ◇◇◇


「回復した奴らから手伝いにまわりな! 体調悪くなったらすぐ報告! いいなお前ら!」

「了解です姉御!」


 ポーションは夏風の団員にも配られた。

 倒れてしまった半数の団員たちが回復し、街の人たちのケアに向かう。

 私たち春風と協力して、ポーションを配っていく。


「ありがとな二人とも。お陰であたしらも働けるよ」

「お礼を言うのはまだ先ですよリエータさん」

「そうです! みんなでこの危機を乗り越えてましょう!」

「そうだね。その通りだよ」


 私たちだけ元気になっても意味ないんだ。

 困っている人たちがたくさんいる。

 苦しさに耐える人、大切な人が苦しんでいるのに何も出来ず、心をすり減らす人。

 そんな人たちを一人でも助けたいから、私はポーション作りを急ぐ。


「次の素材をお願いします!」

「はいよ!」


 新しい素材の調達と搬入は夏風の人たちが引き継いでくれた。

 エアル君たちは街中を駆け回り、出来たポーションを配ってくれている。

 団員たちに指示を出しながらリエータさんが顔を出す。


「その箱は一旦壁側に寄せな! ユリアちゃん、次の錬成終わったら少し休みな。働きすぎてあんたまで倒れたらしゃれにならないからね」

「わかりました。じゃあこれを作って」


 錬金術を発動させ、ポーション二百本を一瞬で生み出す。

 おでこから汗が流れ落ち、全身から体力が奪われていく感覚がある。

 慣れてきたとはいえこの数だ。

 集中力は常に必要で、精神をすり減らす。


「はぁ……」

「話には聞いてたけどすごいね。この数を一瞬で作っちまうなんて」

「いえ……まだまだです」


 街の人たち全員に行き届いて、病気が続くであろう期間中を保つだけの数が必要だ。

 それにはまだ足りていない。

 全然間に合っていない。

 

「よく頑張るよ。しかも無償でこんなに……商売にしたらかなり儲かるだろうね」

「お金は……今は要りません」

「今は?」

「はい。みんなが元気になって、また私たちのお店に来てくれるなら……その時にいっぱい買ってくれたら十分です」


 そのために頑張っているのもあるんだ。

 商売は相手がいなければ成立しない。

 みんなが元気でいてくれるから、私たちのお店にも足を運んでくれる。

 私が見据えているのは少し先の未来。

 きっとエアル君だって、同じことを言うはずだ。


「はははっ、ただのお人好しかと思ったらそうかい! あんたもこっち側なんだね」

「はい」


 私だってもう、四風の旅団の一員なんだ。

 善意じゃお金は稼げない。

 だけど善意で救われる人たちはいる。

 その人たちがお客さんになって、お店が繁盛してくれれば、私たちは幸せだ。

 

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[一言]  そして忘却される夏風の団長氏(笑)
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