46.ただのお人好しじゃないです
万能ポーションの効果は正しく発揮された。
全身の赤みが消え、痛みもなくなり、熱も治まってきたようだ。
レンテちゃんはちょっと動くだけで痛そうにしていたのに、今はゆっくりと起き上がれる。
「どうだ? レンテ、身体が重かったりはしないか?」
「うーん、ちょっとだけ? でも痛くないし熱くもなくなったよ! お姉ちゃんのポーションはやっぱり凄いよ!」
「ああ……凄いな」
レンテちゃんが目を輝かせて、エアル君はホッとしたように私を見る。
私は恥ずかしさと誇らしさ半々くらい。
それ以上にレンテちゃんが元気になってホッとしている。
「効果はちゃんと出てる。これなら街の人たちにも配れるよね?」
「ああ。でもその前に団員たちが先だ。動ける人員を増やしてからじゃないとこっちがパンクする」
「私も手伝うよー!」
「レンテは駄目だ。ちゃんと大人しく寝てなきゃ」
お手伝いしたいレンテちゃん。
エアル君に引き留められ、えぇーと残念そうな声を出す。
「私もお手伝いできるよー」
「駄目だ。元気になったっていっても病み上がりだろう? それに――」
説得しながらエアル君が私に目配せをする。
私からも言ってほしいと、その眼が語っていた。
「レンテちゃん。ポーションの効果には時間制限があるの。私の想定では三日は持つはずだけど、実際には個人差もあってバラバラなんだ」
「そうなの? 治ったわけじゃないんだ」
「うん。だからまた辛くなる時が来ると思う」
「そう……なんだ」
悲しいことだけど事実だ。
万能ポーションと言ってもまだ未完成。
未知の病気に対して効果を発揮できても、完治までは届かない。
いずれ必ず効果がきれて、同じ痛みが全身を襲う。
「そうなる前にポーションを飲めば改善するんだけど、ポーションも薬と同じで飲み続けると効果が薄くなる特徴があるんだ。それを見極めるために、レンテちゃんには頑張ってもらいたいの」
「私に……?」
「うん。とっても大切で、一番大変なお仕事かもしれない」
ポーションの効果時間、効果の変化。
それらを見極めるには結局、飲んでもらった人を観察するしかない。
言い換えれば実験なんだ。
それを仕事と言うのは聊か卑怯な気がするけど。
「わかりました! 私が頑張ればみんな辛い思いしなくて済むんですよね! だったら頑張ります!」
「レンテちゃん……」
「悪いなレンテ。辛い役回りをさせて」
「そんな顔しないでよお兄ちゃん。見てみて? 私こんなに元気だよ!」
彼女ならそう言ってくれると思った。
元気さをアピールしようとベッドから立ち上がり、クルリと一回転する。
「だから二人とも頑張って! みんなを助けてあげてね?」
「ああ」
「うん」
レンテちゃんは優しいからそう言ってくれると思っていた。
やっぱり卑怯な言い方だったよ。
痛いのも辛いのも誰だって嫌なのに、彼女はそれを引き受けたんだ。
失敗はできない。
レンテちゃんの笑顔を守り続けるためにも。
私自身の誇りにかけて。
◇◇◇
「回復した奴らから手伝いにまわりな! 体調悪くなったらすぐ報告! いいなお前ら!」
「了解です姉御!」
ポーションは夏風の団員にも配られた。
倒れてしまった半数の団員たちが回復し、街の人たちのケアに向かう。
私たち春風と協力して、ポーションを配っていく。
「ありがとな二人とも。お陰であたしらも働けるよ」
「お礼を言うのはまだ先ですよリエータさん」
「そうです! みんなでこの危機を乗り越えてましょう!」
「そうだね。その通りだよ」
私たちだけ元気になっても意味ないんだ。
困っている人たちがたくさんいる。
苦しさに耐える人、大切な人が苦しんでいるのに何も出来ず、心をすり減らす人。
そんな人たちを一人でも助けたいから、私はポーション作りを急ぐ。
「次の素材をお願いします!」
「はいよ!」
新しい素材の調達と搬入は夏風の人たちが引き継いでくれた。
エアル君たちは街中を駆け回り、出来たポーションを配ってくれている。
団員たちに指示を出しながらリエータさんが顔を出す。
「その箱は一旦壁側に寄せな! ユリアちゃん、次の錬成終わったら少し休みな。働きすぎてあんたまで倒れたらしゃれにならないからね」
「わかりました。じゃあこれを作って」
錬金術を発動させ、ポーション二百本を一瞬で生み出す。
おでこから汗が流れ落ち、全身から体力が奪われていく感覚がある。
慣れてきたとはいえこの数だ。
集中力は常に必要で、精神をすり減らす。
「はぁ……」
「話には聞いてたけどすごいね。この数を一瞬で作っちまうなんて」
「いえ……まだまだです」
街の人たち全員に行き届いて、病気が続くであろう期間中を保つだけの数が必要だ。
それにはまだ足りていない。
全然間に合っていない。
「よく頑張るよ。しかも無償でこんなに……商売にしたらかなり儲かるだろうね」
「お金は……今は要りません」
「今は?」
「はい。みんなが元気になって、また私たちのお店に来てくれるなら……その時にいっぱい買ってくれたら十分です」
そのために頑張っているのもあるんだ。
商売は相手がいなければ成立しない。
みんなが元気でいてくれるから、私たちのお店にも足を運んでくれる。
私が見据えているのは少し先の未来。
きっとエアル君だって、同じことを言うはずだ。
「はははっ、ただのお人好しかと思ったらそうかい! あんたもこっち側なんだね」
「はい」
私だってもう、四風の旅団の一員なんだ。
善意じゃお金は稼げない。
だけど善意で救われる人たちはいる。
その人たちがお客さんになって、お店が繁盛してくれれば、私たちは幸せだ。






