40.初めての水着?
水中呼吸の効果を付与するポーション。
必要な材料は九種類ほどあるけど、一番の軸になるのはエアリア草という海藻。
エアリア草は浅瀬に生えている濃い緑色の海藻で、海水を空気に変換してブクブク放出する作用を持っている。
これが人間に海の中での呼吸を可能にする。
「エアリア草なら大量にあるぞ! 好きなだけ使ってくれ」
「ありがとうございます。でも最初は実験も兼ねているので少しで大丈夫です」
「そうかい? 他の素材は? もう一種類作るんだろ?」
「はい」
水中呼吸のポーションとは別に、水圧無効化のポーションも作成する。
以前、暑さに悩む冒険者さんたちの要望に応えてポーションを作成した。
その時は二つの効果を混ぜ合わせたけど、今回は別々で作ることにしたんだ。
理由はどちらも大切で、強い効果を持続したほうが便利だから。
深く潜る機会は多くない。
むしろ浅瀬を探索する方が多いから、別々で用意したほうが無駄にならないと、これはリエータさんからの要望だ。
「水圧無効のほうは身体強化に使った素材とほとんど一緒です。あとは水の代わりに海水を使って、分量も少し変えます」
「ふーん、つまりどういうことなんだ? エアル」
「彼女なら簡単に作れますよって意味ですよ、たぶん」
「なるほどな! さすが期待の新人!」
なんとも適当な意訳だなぁ。
ついさっきまでと立場が変わって、今度は私の話に二人がついてこれてないみたいだ。
私は少しでも伝わるように解説しながら作業を進める。
「二つとも強化系のポーションなので、治癒とは違って効果時間があります。効果を高めるほどに時間が減って、逆に薄めるほど時間は伸びるんです」
「へぇ~ 今回はどっちに比重を置くんだい?」
「効果の強さです。水圧は下へいくほど強くなりますし、中途半端な効果で持続しても結局深くは潜れませんから。と、私は考えています」
質問に答えながら質問を投げかけた。
実際に使うのは私じゃなくてリエータさんたち夏風の旅団員だ。
私の考えで合っているか確認がしたい。
するとリエータさんは頷いて答える。
「うん、それで合ってるよ。あたしらも長々と潜ってるつもりはないさ。海の中は人間には不自由で危険も多いからね」
「わかりました。じゃあ今の方向性で作りますね」
「頼むよ。ちなみに効果時間はどれくらいだい?」
「環境によって上下するので確定ではありませんが、最低三時間は持ちます」
水温や深さ、本人のコンディションで効果は変化する。
全て良好なら倍は持つことも伝えた。
「十分十分! そんだけ時間があればいろいろやれるよ」
嬉しそうな顔をしてくれたリエータさんにホッとしつつ、私は作業を続けた。
それから数十分後。
一先ず試作品として三本ずつ完成した。
一本は薄い黄色の液体、もう一本は赤い液体が入っている。
「これどっちがどっちなんだい?」
「黄色い方が水中呼吸で、赤が水圧無効です」
特殊な効果を付与するポーションは黄色で、身体を強化するタイプは赤色の見た目になる。
回復系と同様に、効果が高いほど色は薄くなるのも特徴だ。
「試作品は出来上がったし、次は実際に使ってみて効果を確かめないと」
「だったら海へ入るのかい? あたしらと一緒なら自由に入れるよ? 許可はとってあるからね」
「じゃあさっそく、でも準備って何をすればいいのかな」
「そんなの決まってるだろ? 可愛い水着を用意してきな!」
「……え?」
み、水着?
◇◇◇
宿屋に帰宅後。
「えぇー! みんなで海に入るんですか! いいなー」
「遊びじゃないからな。海は危険だし、レンテは留守番しててくれ」
「むぅ~ お仕事なら仕方がないよね。頑張ってねお兄ちゃん! お姉ちゃんも」
「う、うん……頑張ります」
他事を考えていた私は、レンテちゃんのエールに適当な返事を返してしまった。
そんな私の反応に首を傾げたレンテちゃんが尋ねてくる。
「お姉ちゃんどうかしましたか?」
「あ、えっと、その……」
「どうした? 船から戻る時も変だったし、どこか具合でも悪いのか?」
「そ、そういうんじゃないよ! ただ……」
心配するエアル君。
彼には申し訳ないけど、直接相談は出来そうにない。
できるとすれば同性の……
「レンテちゃん」
「なんですか?」
私は彼女を手招きして、自分の近くまで来てもらった。
そのまま耳元で囁くように、ヒソヒソ話の声量で相談する。
「リエータさんに言われたんだけど……」
「はい。はい……え? どんな水着を着ればいいかわからない!?」
「ちょっ」
声が大きいよ!
せっかくレンテちゃんにしか聞こえないように話したのに、今のでエアル君にも聞こえてしまった。
私は彼に視線を向ける。
すると彼は申し訳なさそうな顔で言う。
「すまん、聞こえた」
「ぅ~」
「ご、ごめんなさい。驚いて声がでちゃいました」
「ううん、いいよ。元から隠すようなことじゃないし」
単に恥ずかしかっただけだから。
「私は今までずっと王宮にいたし、水遊びとかもしたことないから。その、水着って着たことなくて……」
「なるほど~ それでどんな水着にすればいいのか悩んでたんですね」
「……はい」
年下の女の子に相談するなんて、我ながら情けないな。
「実験で潜るのは明日の午後からですよね?」
「うん」
「それなら明日の朝に水着を買いに行きましょう! 私たち三人で!」
「お願いします。ん?」
三人?
それってエアル君も?