39.海の素材たち
場所を移し、船の下部にある倉庫へ足を運ぶ。
旅団員たちが荷物を運び出したり、戻したりしている中を、私たち三人が通り過ぎていく。
「ここにうちで扱ってる素材は全部あるよ。好きに見て行ってくれればいい。壊さないようにね?」
「はい。ありがとうございます」
夏風で扱っている商品や素材を確認したい。
商談が一区切りして、私に話題を振られたところで提案したことだ。
リエータさんは歩きながら話す。
「さっきも言ったけど、あたしらもユリアちゃんの恩恵には肖りたいと思ってる。でもそれは商品として売り出したいってことじゃないんだよ。なんでかわかる?」
「えっと、海だと売れない……から?」
「それは作る商人に依るよ。海や港での需要を考えればちゃんと売れる商品だってあるし、ポーション系で安ければ売れないってことはないよ」
確かにその通りだ。
自分で言っていて間違いに気づかされる。
だったらどんな理由なのかと問われて、私はすぐに答えが出てこなかった。
すると隣からエアル君がぼそりと呟く。
「ヒントはユリア自身にあるよ」
「私に?」
「そう。君が何者なのか。そしてどこに所属しているのか」
私が何者なのか。
答えは錬金術師だ。
どこに所属しているのか。
四風の旅団『春風』に籍を置いている。
「あ!」
ようやくわかった。
私の商品を売り物に出来ない理由は――
「商品を補充する機会が限られているから?」
「正解!」
リエータさんが私を指さしながらニコリと笑う。
正解できたのはエアル君のお陰だね。
「ポーションを作れるのはユリアちゃんだけだ。そっちは必要な分だけ作って売る。売れそうならもっと作る。駄目そうなら切り替えるって出来るけど、あたしらはそうはいかない」
「売れれば儲かるけど持続できない。逆に売れなかった場合、大量の在庫を抱え込むことになる。仕入れタイミングが限られてると、その一回で大量に仕入れないといけなかったりするからな。よほど勝算がないなら手は出さない」
エアル君曰く、期間限定品として売り出すのは有りらしい。
ただその場合も一時的な収入にしかならないし、他の売り上げに繋がらない。
赤字続きでもない限り、無理して手を出すこともないって言っていた。
私は二人の説明を聞きながら頷く。
リエータさんが最後にまとめる。
「商人によって考え方は色々あるけどね。あたしがほしいのは、売り物じゃなくてあたしらが使う用のポーションだよ。一度海に出ちゃうとさ。何かあっても助けは呼べないし、自分たちで何とかするしかない。特に病気とか怪我なんてしちゃうと大変なんだ」
そんな時にポーションがあると心強い。
お医者さんも船にはいないから、今までは街で仕入れたポーションや薬を使っていたそうだ。
知っての通り市販のポーションは高い。
作るのに時間がかかったり、素材を無駄にしてしまうから。
その点、私の作るポーションは同等以上の効果で安上がりだ。
「そんな話聞いたらほしくなっちゃうよ」
「な、なるほど」
「だからってユリアはあげないからな?」
「……チッ」
舌打ち!?
リエータさんもしかして私を勧誘するつもりだったの?
「冗談だよ冗談。まぁうちとしては治癒系のポーションを譲ってくれれば十分なのさ。代わりに使えそうな素材があれば言い値で売るよ」
「い、いい値?」
「こちらが言う値段で売ってくれるってこと」
「あぁ~ 意外とそのままの意味なんだ」
また一つ新しく賢くなった気分で、私は倉庫内を散策する。
貝類、魚、海藻とか海の植物。
中には海に生息するモンスターの素材まで揃っていて、陸では中々お目にかかれない貴重品もチラホラ見受けられる。
「あのリエータさん、この素材はどこから仕入れてるんですか?」
「ん? ほとんど自分たちで取ってるよ」
「自分たちで、ですか」
「そう。潜ったり、釣ったり、倒したりだね。うちの採取部門は優秀だからね」
自慢げに話すリエータさんに、エアル君はウチも負けていないぞという顔をしていた。
言葉ではなく表情で張り合う二人。
私はそんな中、海の中に興味が向いていた。
わざわざ海に潜って素材を取っていることも驚いてる。
海の中ってどんな感じなのかな?
やっぱり暗いのかな?
明かりのない夜とどちらが暗いのだろう。
「まっ、残念ながら深い所までは潜れないけどね。呼吸が続かないし、水圧に身体が耐えられない。だから深い所の素材は取れない。勿体ないよな~」
と、リエータさんが残念そうに話すのが聞こえた。
水中での呼吸と、水圧に耐えられる身体。
その二つが揃っていれば、新しい商品を開拓することができるかもしれない。
「水中呼吸と水圧抵抗、ううん無効のほうがいいかな」
「ユリア?」
「どうしたの? 急にブツブツ言いだして」
「あ、ごめんなさい。考え事してて」
考えをまとめる時につい言葉に出してしまう。
周りから見れば小さな声でブツブツ言っている変な人に見えるから、なるべくそうならないように気を付けていたんだけど。
気を抜くと、というか集中すると駄目だな。
でも、今の時間で錬金の構成は出来た。
「その2つの効果なら作れると思います」
「え?」
「水中呼吸と水圧無効ポーションです。もし良ければ作りま――」
「ぜひ頼むよ!」
私が最後まで言い切る前に、リエータさんは私の両肩を掴んでお願いしてきた。
あまりの勢いに気圧されながら、私は答える。
「は、はい」
この人は本当、いろんな意味で豪快だなぁ。






