36.歓迎会
西の空に夕日が沈む。
青い海までオレンジ色に染まって、次第に闇に溶け込む。
色の変化は瞬く間に、眺めているといつの間にか夜になっていた。
私たちは月が浮かぶ夜の海を横目に、どうしたって視界に入ってくる大きな船へと向かう。
「お、大きい!」
「だろ?」
自慢げな顔をするエアル君の隣で、口をぽかーっと開けたままの私は頷く。
船の大きさは聞いていたし、遠目に見てなんとなく予想もできていた。
それでも尚、実際に近くで見ると違う。
スケールに圧倒される。
夜の闇の中ですら黒々と構える巨船に目を奪われる。
すると、巨船からギギギと擦れる音が響く。
船の側面が開き、上がるための階段が伸び始めた。
「ようこそ春風の諸君!」
階段の先に姿を現したのは、両手を腰に当てて堂々と胸を張るリエータさんだった。
ものすごいどや顔をしている。
新しいおもちゃを友達に自慢する子供みたいに。
「さぁさぁそんな所で突っ立ってないで入ってくれ! あたしたちの家にな!」
「わーい船だー!」
最初に駆け出したのはレンテちゃんだった。
子供らしく、せわしなく階段を駆け上っていく。
それに続いて他の旅団員たちも歩き出す。
「どうしたユリア?」
「あ、えっと、なんだか緊張して」
「何も緊張することないだろ? 親戚の家に上がるみたいなものだ」
「そ、そんな風に思えないよ」
あわあわと戸惑う私を見て、エアル君はくすりと笑った。
そして右手を私にそっと差し出す。
「ほら、いつまでも家の玄関で立ってたら邪魔になるぞ?」
「う、うん」
私は彼の手を握る。
優しくて温かい手で、だけどがっしりと握ったら男の子らしくて。
彼の手にひかれて私たちは階段を上る。
四風の旅団『夏風』の拠点ブラックアイランド号に乗り込む。
「お邪魔します」
「いらっしゃいユリアちゃん! お? 何だなんだ? 手ー繋いでとは仲が良いね~」
「え、あ――」
リエータさんにニタニタ顔を向けられようやく気付く。
私は今、エアル君と手を繋いで歩いていることに。
しかも人前で。
私は恥ずかしさで咄嗟に手を離す。
「ご、ごめん!」
「なんで謝るんだ? 俺はもう少しこのままでも良かったんだけどな~」
「え、えぇ?」
そ、それってどういう……
「さーて、どんなご馳走が待ってるか楽しみだな!」
「う、うん。そうだね」
エアル君が奥に向って歩き出し、私もそれに続く。
結局さっきの発言はなんだったのか。
意味深でわからぬまま。
「ユリアって魚嫌いだったりしないよな?」
「大丈夫。魚も大好きだよ」
「なら良かった。たぶん魚多めだと思うからさ。結構珍しい料理もあると思うぞ?」
「へぇ~ それは楽しみ」
私とエアル君はパーティーのことを楽し気に話しながら会場へ向かう。
その後姿をリエータさんは見つめていた。
「ふぅーん、良い感じじゃない」
後ろから何か聞こえた気がしたけど、私は食べたことのない料理の話に夢中で聞き取れなかった。
それから会場に到着して、指定の席に座る。
会場にはなぜかステージが用意されていて、私たちはステージに近い前の席へ。
「な、なんでステージ?」
「ここは宴会用に作った部屋なんだってさ」
「へ、へぇー」
それだけのために部屋を作ったんだ。
豪華な船にはステージもあるのが常識だと思う所だったよ。
この会場に来るまでにも部屋がいくつかあったけど、一体どんな部屋なのか見てみたいな。
と、そんなことを考えていたら、ステージにリエータさんが上がった。
「あーおほん! みんなグラスの準備は出来てるかい?」
彼女は視線をエアル君に向ける。
それに合わせて彼がグラスを持つと、他の人たちもぞろぞろとグラスを掲げだす。
私もみんなに合わせてテーブルの上にあったグラスを手に取った。
「よーし! そんじゃ春風と夏風、両団の再会を祝してーかんぱーい!」
彼女の音頭が会場に響く。
乾杯の声が後に続き、グラス同士が衝突する音が会場中で聞こえ出す。
こういう賑やかなのは相変わらず慣れないな。
でも嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
「ねぇお兄ちゃん! もう食べて良いよね?」
「おう」
「やった! いっただっきまーす!」
美味しい料理を前にして食べるのを我慢していたレンテちゃん。
我慢をやめて豪快に料理を食べ出す。
次へ次へと口に運び、美味しそうな顔をする。
そんな顔を見ていたら、私だって食べたくなるよ。
「ユリアも食べていいんだぞ?」
「うん。いただきます!」
また表情に出ていたのかな?
エアル君に勧められて、私も料理に手を伸ばした。
見たことのない料理から順に。
彼が言っていた通りお魚をメインにした料理が多いみたい。
これは煮込み料理かな?
「うぅ~」
「どうだいどうだい? 海の料理は美味いだろ?」
「はい! とっても美味しい――」
「リエータさんだ!」
尋ねてきたのがリエータさんだと顔を合わせて気付く。
料理の美味しさに感覚を奪われてしまっていた私は、顔をぐっと近づけていたリエータさんに驚く。
「わ、り、リエータさん!」
「おぉ~ 中々良い反応じゃないか~ この手の反応はめっきり見れなくなったしお姉さん嬉しいよ」
「あんまりからかっちゃユリアが可哀想ですよ」
「ちょっとくらい良いだろ? 隣座らせてもらうわ」
そう言ってリエータさんが隣に腰を下ろす。
改めて近くで見ると綺麗な人だ。
それになんというか、女性らしさがあって私とはむ……
「ん? どうかしたかい?」
「……なんでもないです」
どうしてだろう。
女性としてこの人に勝てる気がしない。






