35.大団長は行方不明?
「いつからですか?」
「あんたの通信が入った後からだね」
「じゃあ結構経っていますね」
「そうなんだよ~ あのバカ、春風が到着するころには戻って来いって言ってあったんだけど」
二人して大きくため息をこぼす。
大団長のファスルさんがいなくなった。
話からすると、もう何日も帰ってこないそうだ。
組織のトップが行方不明になったというのに、二人とも落ち着いている。
というより呆れているように見えるけど……
「あ、あのエアル君、いなくなったのって大団長さん……なんだよね?」
「そうだよ。ファスルさんだ」
彼は平然と返した。
リエータさんにからかわれ動揺していたのが嘘のように。
むしろ私のほうが心配になってきて、思わず聞いてしまう。
「そんなに落ち着いてて大丈夫なの? 行方不明になっちゃったんでしょ?」
「うーん、そう言われてもな。いつものことだし」
「いつものこと?」
「ファスルさんはよく一人でどこかに行っちゃうんですよ!」
教えてくれたのはレンテちゃんだった。
リエータさんとの抱擁をひとしきり堪能した様子。
満足した彼女も話に入ってきて言う。
「でも大丈夫ですよ! ファスルさんはとっても強い人だから何があっても平気です」
レンテちゃんは自信満々な表情でそう語った。
彼女も落ち着いていて普段通り、心配している様子はない。
レンテちゃんもこの反応……さっぱりわからない。
すると今度はリエーテさんが口を開く。
「あのバカは極度のお人好しでね。突然、困っている奴がいる! とか言い出して勝手に出て行くんだよ。そのまま面倒な事件に巻き込まれて、あたしたちまで飛び火したりとかね」
「そうやって人が増えていったのが俺たちの旅団だよ。俺とレンテの時もそうだったらしい。あの時はリエータさんも一緒だったかな」
「あれはあたしもそういう風を感じてただけさ。まぁ最初はあいつが無茶しないように見張ってただけなんだけどね」
「ボスの無茶に付き合えるのはリエータさんだけですよ」
エアル君が説明の補足をしてくれた。
なるほど、結局よくわからない。
わからないけど確かに、凄い人なのだとは思った。
理解できないけど納得はして、私はふむふむと頷く。
ますます会ってみたくなったよ。
するとそこへ一人の男性が駆け寄る。
「姉御! 一通りこの街を散策しましたよ」
「おうそうかい。その様子だと……」
「はい。どうもボスはこの街にはいないみたいですね」
「ったくあのバカ野郎は、まーたどこかで厄介事に巻き込まれてるんじゃないだろうね」
「……ボスならあり得ますね」
駆け寄ってきたのは夏風の旅団員さんだった。
どうやら彼らはリエータさんの命令で街中を駆け回り、大団長さんを探していたみたいだ。
結果は言葉通り、この街にはいなかったらしい。
リエータさんが改めて大きくため息をこぼす。
「はぁ~」
「どうしますか?」
「とりあえず撤収だ。春風も到着しちまったし、夜の準備に移ってくれ」
「了解です!」
敬礼をした男性は港の方へ駆けて行った。
リエータさんは改めて私たちに言う。
「バタバタして悪いね。夜になったら船に来てくれるかい? 今夜は歓迎パーティーをするからさ」
「パーティー? お船でパーティーですか?」
「そうだよ」
「やったー! パーティーだぁ!」
レンテちゃんが飛び跳ねて喜びを表す。
親代わりの二人のことも大好きだけど、レンテちゃんは船のことも大好きみたいだ。
かくいう私も興味がある。
遠くから見えた黒い船、その中はどうなっているのだろうか。
それにまずは近くで見たい。
「商売の話は明日以降でいいだろ?」
「ええ、そうしましょうか。じゃあ夜までは自由にしてていいですよね?」
「もちろんだよ。あたしは一旦船に戻るから、また夜に落ち合おうじゃないか」
「わかりました。団員たちにもそう伝えておきますよ」
二人で淡々と段取りの確認をしている。
私はそれを隣で聞きながら、船への興味を膨らませていた。
「それじゃね。ユリアちゃんも後で話を聞かせてよ。馬鹿な王子のこととか」
「え、あ、はい」
「リエータさんまたねー!」
「ああ! 豪華なパーティーだから期待しときな!」
レンテちゃんが手を振る。
リエータさんも大きく手を振り返して、そのまま港へと歩いて行った。
私たちは彼女が見えなくなるまで見送る。
「さてと、俺たちも一旦宿の確認に行こうか」
「その後はどうするの?」
「自由時間だからな。せっかくだし観光していくだろ?」
「うん!」
さすがエアル君、わかってる。
船のことも気になるけど、こんなに白い街も見たことがない。
探検したいという欲がふつふつと湧き上がってくるよ。
「夜まで時間がある。一通り見て回ろうか。レンテもいいか?」
「うん!」
それから私たちは、シエンテの街を観光した。
食べ物のお店、服屋さん、貴金属や変わった置物を置いている店。
いろんなお店を見て回って時間を忘れる。
大団長さんのことは心配だけど、みんなが大丈夫だというなら信じよう。
そうして夕刻になる。






