31.街のお悩み
ポーション店舗は連日大繁盛。
最初に来てくれた冒険者さんが噂を広めてくれたお陰で、次から次にお客さんが入ってくる。
「熱耐性と力の二色ポーションってまだある!?」
「ありますよ!」
「本当か! あるだけ貰えないかな?」
「申し訳ありません。こちら数に限りがあるので御一人様三つまでとなっています」
押し寄せるお客さんにも丁寧に接客するレンテちゃん。
私も彼女を見習って接客のお手伝いをしていた。
「これあんたが錬成したって本当かい?」
「は、はい!」
「すごいなあんた! まだ若いのになんて才能の塊だよ」
「あははははっ、ありがとうございます」
お客さんの人数が多すぎて、レンテちゃん一人じゃさばききれない。
だから手伝うと言ったのは私だけど、初対面の人とにこやかに話すのって難しいな。
相手に悪意がないのはわかるから、その点は安心できるけど。
「なぁなぁ、これもっと売ってくれない? 倍の額だすからさ」
「あ、ずるいぞお前!」
「申し訳ありません。そういう申し出は受け付けておりませんので」
「えぇ~ 金払うんだから良いじゃんか~」
時々、こういうお客さんも出てきて困る。
普段ならレンテちゃんが丁寧かつ適切にお断りするのだけど、周りが混雑し始めて手一杯だ。
こんな時は、決まって彼がやってくる。
「なぁなぁ、俺だけ特別――」
「お客さん」
エアル君がお客さんの肩をガシっと力強く掴む。
「他のお客さんに迷惑ですよ? あまり酷いと販売をお断りしますが?」
「うっ……す、すみませんでした」
エアル君は笑っているけどちょっと怖い。
握っている肩からメシメシと音がしたし、相当強く掴んでいたみたい。
お客さんは怖がって、そそくさと立ち去った。
「他の皆さんもしっかり列に並んでください! それからポーション以外も色々そろってるので寄って行ってくださいね」
エアル君が大きく響く声で宣伝している。
私たちの店舗のお客さんで、他の店舗の出入りを邪魔しないように。
列を正したり声をかけたり。
自分たちも大変だけど、彼のほうも大変そうだ。
それから数時間。
暑い中頑張って最後の一本を売り終える。
夕方に近づけば徐々に過ごしやすい気温になって、西の空に沈む夕日が街をオレンジ色に染める。
人混みも少なくなったことで熱気が治まり、ようやく落ち着ける。
「はぁ~ やっと終わりましたね~」
「うん……今日はさすがに疲れた」
「二人ともお疲れさん」
疲れてへたり込む私とレンテちゃんの前に、エアル君が労いの言葉と一緒にやってきた。
その手には冷たい飲み物が二つ。
「飲むか?」
「飲む!」
「ほしい!」
「はははっ、それは良かった」
ごく、ごく、ごく……
一気に飲み干して、ぷはーと息継ぎみたいに呼吸をする。
忙しい時間帯は水分補給すらできなかったし、本当に生き返った気分だ。
「予想はしてたけど大繁盛だな。昨日よりお客さん増えてるんじゃないか?」
「間違いなく増えてますよ! これで今回の打ち上げトップは私たちで決まりですね」
「疑う余地なさそうだな。ポーション目当てのお客さんが増えたお陰で、他の店の売り上げも上がってるみたいだし」
「さすがお姉ちゃんのポーションですね!」
そこまで持ち上げられると反応に困るな。
私はただポーションを作っただけで、売り込みは私よりレンテちゃんの頑張りだから。
でも良かった。
他のみんなにもいい影響は与えているみたいで。
「あらあら、もう終わってしまったのかい? さっきまですごい人混みだったね~」
「こんにちは! ごめんなさい。もう商品がなくなってしまって」
「良いの良いの。何を売ってるのか気になっただけだから」
私たちが休んでいると、別のお店で買い物をし終わったお婆さんが声をかけてきた。
良い人そうなお婆さんだけど、ちょっと顔色が悪いかも。
「ここはポーション屋さんです」
「ほうポーションか。道理で元気な若者がたくさん並んでたんだね~ ごほっ、ふぅ」
「あの大丈夫ですか? あまり体調が優れないように見えますけど」
心配になって私が尋ねると、お婆さんは少し驚いたような顔をする。
「おやわかるのかい? 実は最近よく風邪をこじらせてね~」
「風邪……ならあまり無理しないほうが」
「わかってはいるんだけどね。お買い物しないと食べ物もないから仕方ないの。いつもお薬は貰っているけど効き目が悪くてね~ 最近は増えてるみたいよ」
「増えてる? 街で風邪が流行っているんですか?」
余計心配になって踏み込んで聞いてしまう。
お婆さんは親切に答えてくれる。
「そうよ。私みたいな年寄りの間でね。みんな薬の効きが悪いって困ってるよ。よく効くお薬があればいいんだけどねぇ」
「それなら、病気に効くポーションも作れますよ?」
その言葉を口にしたとき、二人が難しい顔をしたのに気づいた。
良くないこと……だったのだろうか。
私にはわからなかった。
するとお婆さんはニコリと笑い。
「大丈夫よ。高価なのは知っているからね。心配してくれてありがとう。その気持ちだけで充分よ」
「……はい」
そう言って立ち去っていく。
気を遣われたのがわかって、私は寂しかった。