30.新商品
アルベスタ二つ目の港街ハイゼル。
サンタレアに続いて海の香りが感じられる街で、私たちは露店の準備に勤しんでいた。
「お姉ちゃんそっちを持ってください」
「うん。いくよ」
「「せーの!」」
息を合わせてテントを張る。
ハイゼルは日差しが強いから、ちゃんと日差し対策は必要だ。
それと水分補給。
私は暑さが苦手だと知って、こまめに水分を取るようにしている。
「お姉ちゃん! 新しい服はどうですか?」
「動きやすくて良い感じだよ。ちょっと肌を見せすぎな気もするけど……」
「そのくらいでちょうど良いですよ! 私なんておへそ見えてます!」
レンテちゃんがその場でクルリと回る。
彼女もサンタレアで新しい服を買って、今着ている。
肩もおへそも丸見えで、子供ながらにセクシーな感じがある気がする。
「ねぇねぇ! お兄ちゃんも良いと思うでしょ」
「――う!」
通り過ぎようとしたエアル君が捕まった。
出来れば振ってほしくなかった話題だったのだろう。
「ほらちゃんと見て!」
「そ、そうだな。ごほん、良く似合ってるよ」
「ありがとう」
エアル君に褒めてもらえるのは何回目かわからない。
けど錬金術以外のことで、しかも照れながら褒められるのは……恥ずかしいな。
互いに目を合わせて絶妙な空気が流れる。
「さ、さて仕上げに入ろう! もう開店まで時間がないぞ!」
「う、うん! 初日だし気合い入れなきゃね!」
「二人ともぎこちないですよ~」
さらに準備から十数分。
許可をもらった広場には私たちの店舗がずらっと並ぶ。
四風の旅団『春風』、営業開始だ。
「いらっしゃいませー! いろんな種類のポーションが揃ってますよー!」
レンテちゃん大きく可愛い声での客引き。
聞こえた人たちは振り向くこと間違いなし。
特に男性冒険者が、ポーションという単語と彼女の可愛い声に反応して近寄ってくる。
「ポーションあるの? 丁度ほしかったんだよ」
「いらっしゃいませ! どんなポーションをお探しですか?」
「治癒系、もほしいんだけど強化系あったりしない? 治癒よりそっちのほうが欲しいんだよ」
そう言う男性の装備は剣に鎧。
鎧も軽いもので、胸部と手足の一部くらいしか守っていないようだ。
「レンテちゃん」
「なんですか?」
私はごにょごにょと彼女にお願いする。
「わかりました」
そう言ってニッコリ笑う。
ポーションを眺めるお客さんに、レンテちゃんが話しかける。
「お客さんは冒険者さんですよね?」
「うん、そうだよ。見ての通り剣士だ」
「そのわりに装備が軽いように見えますが……」
「まぁね。俺だって本当はもう少し着込みたいけど、この暑さが悪いんだ」
男性冒険者は上を指さす。
先には燦燦と日差しを降り注ぐ太陽があった。
「鎧は鉄だからさ? 日光で熱せられやすくて、蒸し風呂みたいな状態になるんだよ。だから俺みたいな前衛職は、なるべく軽い装備にして強化とかで補うんだよ」
「なるほど~ 夏が続くこの国ならではの事情ですね」
「ああ。せめて暑さに強くなれたら良いんだけどな~」
なるほど、そういう理由なんだ。
暑さが原因で服装が変わるように、冒険者さんたちの装備も変わる。
当たり前のことだけど、こうして直面してようやく理解した。
「だそうですよ? お姉ちゃん」
「うん」
レンテちゃんのお陰でお客さんが欲しい物が把握できた。
要するに暑さに強くなって、身体も強く出来ればいいんだよね?
それなら簡単だ。
「あ、あの!」
「ん? なに?」
「少しだけお時間を頂けませんか?」
「え、まぁ少しなら」
「ありがとうございます」
ポーションの材料も揃っている。
必要な効果は二つ。
熱耐性向上と身体強化。
これが揃えば防具も付けれて身体も強くなる。
それぞれ別々で作るのもありだけど、それだとコストがかかるし毎回二本ずつ飲まないといけない。
一本のほうが効果は高いけど、冒険者さんの悩みはどちらかというと暑さだ。
なら熱耐性七割、身体強化三割くらいの配合で。
「出来ました」
「ポーションってそんな簡単に出来るのか?」
「簡単じゃありませんよ! お姉ちゃんが特別なんです!」
「へぇ~」
自慢げに話すレンテちゃんは楽しそうだ。
私は恥ずかしさに変な笑い方をする。
「あははははっ、えっとこれ。よければお試しで使ってみてください」
「お金いらないの?」
「はい。もし気に入って頂けたらで構いません」
「じゃあ遠慮なく」
その場で一本ごくっと飲み干す。
すると――
「おお……涼しくなった? それになんか身体も軽いぞ」
「効果は一日続きます」
「そんなに? 凄いなこれ、これだけ涼しければ防具もつけられるし、軽くなった分防具の重さも気にならないな! これいくら?」
「えっと、百ユロです」
原材料だけで計算すると七十ユロくらい。
治癒ポーションよりはお高いけど、二種類を買うより全然安い。
「買いたい! 何本作れる?」
「こちらは限定品なので五本までになりますよ~」
「じゃあ五本くれ!」
レンテちゃんが上手く誘導して五本作ることに。
それくらいなら簡単に作れる。
「ありがとう! これで冒険も楽になるよ」
「はい。滞在中はまたここでお店を開いていますので、良ければご利用くださいね」
「ああ、他の仲間たちにも宣伝しとくぜ!」
嬉しそうに去っていく冒険者の男性を見ながら、レンテちゃんが私に言う。
「やりましたねお姉ちゃん!」
「うん。まずは一つ、新商品だね」
この国は暑さと共にある。
暑さと向き合うことが、商売にも関係してきそうだ。






