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【7/25コミック1巻発売】国渡りの錬金術師 ~王子に騙され王宮を追い出された私は、ある旅の一団と出会いました~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二章『夏風』

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28.新しい国

 手続きを済ませ、私たちの一団は国境を超える。

 国境には看板が立っていて、手前側が私の生まれた国を指し、反対側が隣国を指す。

 

「……」


 ごくり、と息を飲む。

 私にとって国境を超える、国を出ることは初めての経験だ。

 そうでなくても王宮に籠りがちで、外の世界をあまりに知らなすぎる。

 旅団に加わり商売をしてみて、自分の世界の狭さを知った。

 

「緊張してるのか?」

「う、うん」

「たかだか国境を超えるだけだよ」

「エアル君たちにとってはそうかもしれないけどさ~」


 私にとっては違うんだよ。

 そう言おうと思ったところで、エアル君が笑いながら言う。


「はははっ、とか言ってる間に超えたぞ?」

「え? あ……」


 右手に見えていた看板がない。

 いつの間にか通り過ぎて、遠く後ろに見える。


「な? 大したことなかっただろ?」

「……イジワルだね」

「まったくですよ! お姉ちゃんの初めてを返してあげてください!」

「そ、その言い方は語弊があるからやめてくれ」


 妹に変な叱られ方をして、逃げるようにエアル君はそっぽを向く。

 そんなに怒ることじゃないし、彼の言う通りただ国境を越えただけだ。

 面倒な手続きをしたのは私じゃなくてエアル君。

 荷車を運転しているのも私じゃなくて彼だし、私は乗せてもらって振動を感じている。


 そうだね、うん。

 大したことなんてないんだ。

 国を越えることなんて、本当は簡単だったんだな。


「ずっと王宮に居たら知らないままだったよ」


 そう呟いて空を見上げる。

 空はどこから見ても同じはずなのに、なぜだか新鮮に感じてしまう。

 雲が穏やかに流れていて、間に見える青さが美しい。

 うつむくのをやめて、前以外も見るように意識するだけで、世界はこんなにも綺麗に変わるんだ。


  ◇◇◇


 荷車を走らせ約三日。

 国境を越えてから最初の街までは距離があった。

 エアル君もそれを見越して、前の街で休息を挟んだわけだ。

 ふかふかのベッドで眠った日の次に野宿だと、さすがに寝づらさを感じてしまう。

 やっと野宿に慣れそうな頃になって、次の街が見えてくる。


「もうすぐ到着するぞ。アルベスタ王国最初の街に」


 アルベスタ王国。

 私が生まれた国ソロモン王国の西側に位置する。

 環境や習慣が近いため、文化において大きな差はないと聞いている。

 ただそれでも大きく違うことが一点。

 それは――


「海だ!」


 そう。

 世界一大きな水たまり……海に面していることだ。

 ソロモン王国は内陸の国で、川や湖といった自然はあれど、海には面していなかった。

 私は国から出たことがないから、海も初めて見る。

 文献で調べて知ってはいたけど、凄く広くて青いんだ。


「街に入ったらしばらく自由時間だ。一緒に観光でもするか?」

「いいの?」

「もちろん。レンテもくるよな?」

「はい! お兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒なら、私が行かないわけありませんよ!」


 二人と一緒に街を観光できる。

 楽しみだ。

 新しい体験が待っていると思うと、すごくワクワクしてくる。

 

 街の名前はサンタレア。

 アルベスタ王国の玄関と呼ばれているらしい。

 私たちは街に入ると早々に荷車を預け、エアル君が入国の手続きに赴いた。

 その間は私とレンテちゃんで待っていて。

 しばらくして、エアル君が無事に手続きを終えて戻ってきた。


「お待たせ」

「お帰りなさい。もう終わったの?」

「最初の手続きだけだからな。滞在の許可が下りただけで、商売の方はまだだ。だいたい三日くらいで受理されると思うよ」

「じゃあもう安心なんだね」


 エアル君が頷く。


「さっそく観光に行こう。最初はどこが見たい?」

「海が見たい! もっと近くで!」

「そう言うと思ったよ。だったら港に行こう。あそこが一番海に近いし、船も何隻か停まってるはずだ」

「船……」


 海を渡る大きな乗り物。

 名前しか知らない船も見られる。

 またワクワクしてきた。


「早く行きましょうー!」

「うん」

「走るなよ二人とも。転んだら大変だぞ」

「はーい!」


 はしゃぐレンテちゃんにつられて私も駆け出す。

 遅れないようにエアル君も着いてくる。

 海がすぐそこにある街だからなのか、空気の感じ方に違いがあった。

 匂いと言ったほうがいいかな?

 これが話に聞く潮の香りというものなのかも。

 それと道行く半数の人の肌が茶色く日焼けしている。

 肩や腕を出したり、薄着の人も多いみたいだ。


「なんだか急に熱くなった?」

「そりゃそうだよ。この国は一年中『夏』なんだから」

「そうなんだ! だから暑く……」


 ソロモン王国に四季の変化はない。

 一年を通して穏やかで、少し肌寒いくらい。

 四季に当てはめるなら『春』が妥当だ。

 比較的過ごしやすい陽気だったあの国とは違い、厚着をしていたら汗だくになってしまいそうだ。


「言っておくけど国の中心に行けばもっと暑いぞ?」

「うぅ……そ、そうなんだ」

「じゃあ海を見た後はお買い物ですね! 夏にぴったりな服を買いに行きましょう!」

「うん。ちょうど新しい服も欲しかったんだ」


 またワクワクしてくる。

 震える心を掻き立てるように、私たちの目の前には広大な海が広がっていた。

 青い空に白い雲、水平線の先で空と海の青が混ざり合う。

 どこまでも遠く果てしなく続く水の絨毯に……


「凄いなぁ」


 私は素直に感動して、それ以上の言葉が出なかったよ。

新しい国には入ったユリアたち。

異なる環境に適応していけるのか?

そして新しい出会いは?

気になる方はぜひとも続きをチェックしてください!



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