閑話 表裏反転(ざまぁ補足)
ざまぁ補足の閑話です。
『そんで挙句にユリアを盗人に仕立て上げて追い出した。これも事実なんだろ?』
『その通りだよ。ユリアはとても扱いやすい女だった。少し優しくすれば自分の味方だと信じ込むんだから』
黒い通信魔導具から声が届く。
各旅団長、各国の重鎮たちに向けて。
直接耳に入る。
「……へぇ、随分とわかりやすい下衆な王子に当たったね~」
「大変そうだなエアルの奴。まっ、大丈夫だろ? これってお偉いさんにも届いてるんだよな?」
「そのはずよ。緊急通信だからね」
「じゃあ問題ねーや。そんじゃ俺はちょっくら出かけてくるよ」
ゼノン王子の発言を聞いた者たちは行動は様々。
仲間たちはエアルのことを信頼し任せ、交流のある国々の重鎮たちは急ぎ情報を共有する。
中にはゼノンの国と国交を結んでいる国もあって、事態は膨れ上がる。
翌日には――
「どういうことだゼノン!」
「っ……」
王座の間に呼び出されたゼノンは、父である国王に問い質されていた。
すでに数か国から彼の発言について説明を求める声が送られてきている。
今、こうしている間にも、他の国に睨まれている状態だった。
「先に問う。この話は事実なのか?」
「い、いえ違います! 僕はそんなことしていません!」
演技がかった話し方と身振り。
追い込まれた状態で尚、彼は偽りの善人王子を演じる。
「ならばなぜ各国からこのような申告があるのだ? 一つや二つではないぞ! 皆が口を揃えて証拠も握っていると言っている!」
「くっ……」
「そして内容だ! ユリア・ロクターンの成果を横流しし、他の錬金術師に渡していたそうだな? なるほど確かに、それならば今置かれている状況にも説明がつくというもの」
「そ、それは……」
言い逃れのしようもなかった。
なぜなら現に、彼女の喪失から王宮の日常は一変してしまったのだから。
そう、ようやく国王も気づいたのだ。
彼女こそが、王宮を支えていた天才錬金術師だったことを。
「事実でないというならその証明をしてみせよ! できぬというのなら……お前はもう王子ではない。ただの罪人になる」
「――ま、待ってください父上!」
「待ってどうなる? すでに噂となって王都にも流れつつある。弁解できないのであればもう止められないのだぞ!」
商人の情報網は広く細かい。
旅団長たちに伝えられた情報の一部は、交流のある商人たちに伝わり、一気に拡散されていった。
今はまだ小さな噂だが、いずれさらに広まり混乱を生む。
否定できるだけの証拠がなければ、噂の拡散は止められないだろう。
「……くそ」
ゼノンは小さな声で悔しさを漏らす。
彼は完璧だった。
偽りの善人を演じ、誰からも愛される存在となった。
しかし失敗した。
その理由はいくつもあるが、一つだけ確実なことがある。
彼はユリアを、侮っていた。
錬金術以外は何もできない女だと。
彼女に味方する者などいるはずがないと思い込んだ。
見誤ったのだ。
その結果彼は――全てを失う。
華やかな表舞台から、酷く醜い裏面へと反転する。






