19.初めての探検?
休日を終えた朝。
楽しい時間を過ごした翌日だから、気分良く目覚め……
「ぅ……痺れてるぅ」
なかった。
決め手は昨夜のテンションと勢い。
レンテちゃんに甘い声で、「一緒のお布団で寝たいです」なんて言われたら断れないよね?
断れなかった結果がこちらになります。
「み、右腕がぁ……」
動きません。
痺れも放置すると肩から指先まで感覚がなくなります。
かといって起こすのも忍びなくて、目が覚めてから十数分この状態が続いている。
「お姉ちゃん、ふにゅ……」
「か、可愛い」
可愛すぎて手が放せない。
いや痺れて放せられないんだけど。
とりあえず目を覚ますまで待ってみるか。
◇◇◇
「はははっ! それで結局一時間そのままだったのか?」
「うぅ、笑い事じゃないよ~ まだ腕が痛い」
痺れから解放された右腕をさする。
私とエアル君は一緒に朝食を食べていた。
泊まっている宿屋はレストランが一緒になっていて便利だ。
「そりゃ我慢してたらそうなるだろ。で、当の本人はまだ寝てるわけか」
「うん。昨日歩き疲れちゃったみたい」
「一番はしゃいでたもんな。ユリアが来てくれてから特に楽しそうだ。ありがとな」
「こちらこそだよ」
レンテちゃんの笑顔には元気をもらっている。
もちろんエアル君の言葉にも。
「エアル君は今日どうするの?」
「ん? 俺は素材部門の連中をつれて、森に入るつもりだよ」
「森に? 素材取りに行くんだ」
「そういうこと。昨日の内に良さそうな場所は調査済み。ちょっと気になる噂もあるからな」
気になる噂?
そう言えば昨日、街を散策する中でエアル君は街の人に声をかけていたかな。
何か聞いているみたいだったけど、今日のために情報収集してたんだ。
真面目だよね。
でもそれって……
「自分は休めって言った癖に」
「そんな顔するなよ。ユリアがほしそうな素材も取ってくるからさ」
「……それ、私も一緒に行きたい」
「え?」
エアル君が飲もうとしたカップをピタリと止めた。
疑うような目で私を見る彼と、ジト目で彼を見る私。
「……本気か?」
「うん。素材は自分で探してみたい。治癒系のポーション以外も売り物にしたいし」
「危険だぞ? モンスターもいるだろうし」
「邪魔はしないようにするよ。準備もしていくから」
モンスター避けの道具を準備しよう。
それからいざという時のために、強い悪臭を放つポーションも用意して。
私は戦えないけど、サポートくらいは出来ると思う。
「取り決めとかで駄目なら諦めるけど?」
「……いや、ちゃんと覚悟があるなら構わないよ。作成部が素材取りに同行することもあるし」
「じゃあいいの?」
「ああ。一時間後に出発するから、それまでに準備しておいてくれ」
「うん!」
エアル君に許可をもらった私は、ワクワクしながら支度をした。
自分で素材を取りに行く。
探検も初めてのことで、新しいことへの挑戦は期待が高まる。
森の危険さはなんとなく知っているけど、不思議と不安は感じない。
たぶんそれは――
「おまたせ!」
「おう。それじゃ行くか」
彼の背中に、頼りがいを感じているからだろう。
◇◇◇
ヨーデルの北にある森。
緑の木々が生い茂る大自然に、私を含む十数人がぞろぞろと入り込む。
全員が武器を装備していて、中には大きな盾を背負っている人も。
私だけ武器も防具も持っていないから、あきらかに浮いている。
「森に入るのは初めて?」
「ううん、何度か入ったことはあるよ。小さい頃に少しだけ。奥まで入ったことはないけど」
「入り口だけってことか。なら初めてみたいなもんだな」
「そいつは心配だな。大丈夫なのか?」
声をかけてくれたのは、ガタイの良い怖そうな男の人だ。
彼の名前はガンテさん。
エアル君が忙しい時は、彼が素材部門をまとめているらしい。
私とエアル君の前を歩きながら、顔を振り向かせて尋ねてくる。
「俺たちに同行したいなんて若いのに度胸あるよな。でも結構危ないぜ?」
「心配ないよ。その辺も覚悟してるみたいだし、いざとなったら俺が守るから」
「へぇ~ なら団長の方で任せて良いんだな?」
「ああ。星もこっちで追ってみるから、見つけても無暗に戦うなよ?」
星?
何のことだろう?
「わかってる。そんじゃまたな」
「ああ、気を付けろよ」
「団長もな。イチャイチャして油断すんなよ?」
「そういう冗談はやめろよ」
ちょっと恥ずかしそうに笑うエアル君。
彼が照れるなんて珍しい。
二手に分かれて、私はエアル君が先導する一団に同行することに。
「一緒に行かないんだね」
「森は広いからな。全員のほうが安全かもしれないけど、効率が悪いだろ? あっちはガンテに任せておけば大丈夫だ」
「ガンテさん強そうだったもんね」
「強いぞ? でも俺の方がもっと強いから」
エアル君のどや顔だ。
なんだかおもしろくて微笑ましいな。
「ふふっ」
「わ、笑う所か?」
「ごめん。なんか、あ――」
話の途中だけど、視界の端っこに目に入った物に駆け出す。
「どうした?」
「ちょっとごめん。ハーブがあったから」
「ハーブ? このピンクの花が?」
「そうだよ。ヒメフウロって言って、前に買った塗り薬にも使われてたんだ」
新鮮なものをつき潰して湿布にすると、打撲に効果があるはず。
ポーションの材料にも使えるハーブだ。
「へぇ~ 何気なく通ってると気づかないな。よく気付いたな」
「これでも勉強してるからね。役立って良かったよ」
「そっか。他にもたくさんあると思うし、先に進もう」
「うん!」






