18.休日の過ごし方
一つの街に留まるのは十五日間。
それが四風の旅団での取り決めで、商売を終えたら次の街へ向かう。
サエカルの街での滞在期間を終えた私たちは、翌日に次の街へ向けて出発した。
荷車を引っ張る馬車が一列に並び、街道を進む。
先頭を進んでいる馬車を御しているのがエアル君で、私とレンテちゃんが左右に座っている。
「ヨーデルまでは馬車でも三日かかる。その間は野宿も挟むけど、しばらく我慢してくれ」
「大丈夫。野宿はちょっと前に経験したから」
物資も何もない状態での野宿という。
考えられる中で最悪な状態での経験だったけど。
逆に言えば、あれより酷くないならなんでも大丈夫だ。
「ユリアはヨーデルに行ったことあるか?」
「ううん。名前だけは知ってる。あんまり大きな街じゃなかったよね?」
「ああ。規模的にはさっきまでいたサエカルの半分以下、いやもっと小さいかな?」
「またお店を開けるの?」
エアル君は首を横に振る。
「今回の滞在で店は出さないよ」
「そうなの?」
「そういえば説明してなかったな。基本的にうちは、十五日間働いた次の街では十五日間休みにするんだ。そうしないと移動中も含めて、販売部門が休めないだろ?」
「ああ、確かにそうだね」
販売部門の人たちは、十五日間毎日声掛けをしたり頑張っていた。
移動中も気は抜けないし、休む時間は仕事終わりくらい。
それでずっと働き通しは良くない。
だから旅団では、休むために滞在する街と、商売のために訪れる街を交互に分けているそうだ。
「休みの十五日間は準備期間でもあるからな。仕入れと採取はこの十五日が主の仕事期間だ。生産部門も同じ。次の開店に向けて商品を用意しておくんだよ」
「なるほど~ じゃあ私も頑張らないと」
「そうだな。でも頑張り過ぎても困るから、最初の一日はちゃんと休日にしろよ? 働くの禁止だ」
「うっ、い、いきなり禁止って」
せっかく街に着いてからの予定を考えていたのに。
まずは街の素材屋さんと薬屋さんを回って、その後は街の周囲で良い素材がないか探したり。
自分で素材を取りに行ったりとか、ちょっと憧れてたんだけど。
「ちゃんとお休みもとらなきゃ駄目ですよ! 働けなくなっちゃいます!」
「……そうだね」
レンテちゃんにも言われたので、初日はちゃんと休むことにします。
そうは言っても問題はある。
「休みか~」
休みの日って、何すればいいのかな?
◇◇◇
サエカルを西に真っすぐに進むと、ヨーデルの街が顔を出す。
建物の色や造りはサエカルと似ている。
木造建築がほとんどで、背の高い建物は少ない。
高くて三階建てくらいかな。
街の広さも違うけど、一番の違いは行き交う人々の人数だ。
人口はサエカルの三分の一くらいで、その分街の中を歩く人の姿も少なかった。
サエカルが盛んだったことがわかる。
到着してから荷物を預け、貴重品だけは宿屋に持っていく。
宿屋は今回も貸し切りだ。
先に足の速い馬で数名が到着して、空いている宿屋を確保してくれているそう。
今回は私とレンテちゃんで一部屋、その隣にエアル君の部屋という順番になった。
とまぁ、それは別に良いとして。
問題は今日、どうするかだ。
素直に相談してみようと思う。
「休みの日に何をすればいいのか」
「わからない……ですか?」
「……はい」
二人にそのまま相談してみた。
すると、二人ともキョトンとした顔で互いに見合う。
我ながら間抜けな質問な自覚はあるので……
先に答えてくれたのはレンテちゃんだ。
「好きなことをすれば良いと思いますよ?」
「俺もそう思うな。疲れてるなら寝てても良いし、行きたい場所があるなら行けばいい。趣味があればそれもありだよ」
「う、うーん……」
疲れていますか?
――特に。
行きたい場所はありますか?
――錬金術関係なら。
趣味はありますか?
――錬金術以外思い浮かびません。
「わ、私の頭の中って、錬金術のことばっかりみたいで……」
「ははっ、それはそれでユリアらしいな」
「ですね。だったら私と一緒にお買い物しましょう! お兄ちゃんも一緒です!」
「お、いいなそれ! どうだ? ユリア」
レンテちゃんが提案してくれて、二人が私に問いかける。
もちろん、答えは決まってる。
「お邪魔じゃなければ」
「やったー! 美味しい物いっぱい食べに行きましょう!」
「食べ過ぎるなよ。苦しくて歩けないって言っても、俺はおぶわないからな?」
「平気だよ~ その時はお姉ちゃんにおんぶしてもらうから!」
楽しそうな会話から、私の休日はスタートした。
レンテちゃんに手を引かれ、ヨーデルの街を散策する。
美味しそうなお店を見つけたら急いで駆け込んで、ジューシーなお肉にかぶりついたり、甘いお菓子を食べたり。
おしゃれな服屋さんにも立ち寄った。
身一つで追い出された私にとって、新しい服はちょうどほしかったものだ。
「これとか似合うと思います!」
「こっちじゃないか?」
「こっちですよ!」
兄妹二人で私の服を選んでくれた。
男女の違いの所為か、二人で意見が割れてちょっと言い合ったりしたけど。
真剣に私の服を選ぶ二人を、他人事みたいに横から見守っていた。
休日は好きなことをすればいい。
当たり前のように言われるけど、実は簡単なことじゃない。
好きなことを見つけるのだって難しいんだ。
それでも一つ、私にも見つかったよ。
二人と一緒の時間なら、どこだろうと楽しくて幸せだ。
さて、次の休日はどこへ出かけようかな?