表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/108

17.真の天才

 賑やかな宴。

 最終日は特に騒がしくて、みんな羽目を外している。

 各々の頑張りを讃え合う声が響く。


「今回もお前んとこがトップか~ 次は負けねーぞ」

「あたしばっかり見てたら足をすくわれるよ? なんたってレンテちゃんたちが追いあげてきてるからね~」

「そうだったぜ~ かー、ライバルが多いことよ」

「良いことじゃないか。それだけ旅団の利益が増えてるんだからさ」


 お互いにライバルであり、共に戦う戦友。

 旅団は一つの組織だけど、やっていることはそれぞれ違う。

 だけど見ている方向が同じだから、ちゃんと一丸になっている感覚が確かに有って。

 それでいて居心地が良いんだ。


「みんな良い人だね。私のこともすんなり受け入れてくれたし」

「当然ですよ! いつものことですから」

「いつも?」

「ユリアが初めてじゃないってことだよ」


 エアル君が私の隣に腰を下ろす。

 さっきまで各テーブルを転々として団員さんたちと話していたみたいだ。

 

「初めてじゃないってことは、私みたいに王宮で働いてた人が他にもいるってこと?」

「そこまで同じじゃないぞ。単に、どこかで居場所をなくした人が、うちを新しい居場所にしてるってだけだ」

「私とお兄ちゃんも元は孤児ですからね」

「え……」


 飲もうとしていたグラスをピタリと止める。

 予想外な一言に動揺して、私は二人の顔を交互に見る。

 エアル君はレンテちゃんと顔を合わせて、呆れるように笑ってから話し出す。


「そう深刻な話でもないよ。うちは父親がいなくて、母親が一人で俺たちを育ててくれてたんだけどさ。無理がたたって身体を壊してそのままだ。で、身寄りもないから途方にくれてたところを、当時の春風の団長に拾われたんだよ」

「とーっても優しい人なんですよ! 見た目はちょっと怖いですけど」

「そうだな。俺たちにとって大恩人だ。今は『夏風』と一緒にいるはずだから、そのうち会えると思うよ。楽しみにしておいてくれ」

「うん。楽しみにしてる」


 その人がどんな人なのか。

 気になるよりもずっと、二人の表情が目に入った。

 悲しい話をしているはずなのに、二人とも楽しそうなんだ。

 助けてくれた人の話題の時は特に元気で、レンテちゃんも瞳をキラキラさせている。

 それだけ大切で、すごく大好きなんだろう。

 本当に楽しみだ。

 会える日が。


「ボスも驚くだろうな。新人の錬金術師が売り上げを独占したーとか話したら」

「絶対驚くね! よくやったって褒めてもらえるよ!」

「違いない。ユリア以上の錬金術師なんて他にいないだろうし、この先もうちは安泰だ」

「そ、そんなに褒めても何も出ないよ?」


 褒められ慣れていない私は、ちょっと大げさに褒められると反応に困る。

 顔も恥ずかしいくらいに赤くなって、熱くなって。


「これからも頑張ってくれたら良いよ。無理せずにな?」

「うん。それくらいなら」


 私に出来ることならなんでもやろう。

 褒められると上機嫌になって、そんな気分になるんだ。

 それから――

 

「……ここに来られて良かった」 


 心の底からそう思う。

 

  ◇◇◇


 ユリアが幸せな時間を過ごす中、王宮では不穏な空気が漂っていた。


「……なに? また辞めたのか?」

「はい……こんな仕事はこなせないと」

「またそれか。これで三人目だぞ? どうなっているんだ?」

「……」


 国王陛下に報告していた役人は言葉を詰まらせる。

 彼女を追放して以来、新しい錬金術師を雇っていた王宮だったが、ことごとくが辞めてしまう。

 理由は全員同じだった。

 ユリアが請け負っていた仕事の一部を見て、こんなのは普通じゃないと一蹴される。

 説得して働いてもらっても、数日で限界だと逃げ出す。

 誰も根性がないわけじゃない。

 単に、実力が追いついていないだけだ。

 

「陛下……お、お言葉ですが……」

「なんだ?」

「……その、あの者を呼び戻すというのはいかがでしょう?」

「ユリア・ロクターンのことか? ふざけたことを抜かすな。あの不届き者に頼るなどあってはならない。そもそもあれは不出来な錬金術師だったのだろう?」


 今の一言でわかるとおり、国王陛下は全く気付いていない。

 ユリアの錬金術師としての実力が、普通という言葉を軽々と吹き飛ばすほどに強烈だと。

 すでに役人たちが気付き始めている中で、事実を知らない彼は理解できない。


「ともかく次だ。新しい錬金術師が入るまでの間、仕事の一部はミーニャ・フロレンティアに回せ」

「は、はい」


 王宮で働く錬金術師は、ミーニャを入れて三人だけ。

 ユリアがいた頃は、仕事のほとんどを彼女一人がこなしているようなものだった。

 しかし今、彼女はいない。

 王子の期待を背負っているミーニャに、全ての期待は注がれる。


「……こ、こんな量……おかしいわ」


 頼られている当初は、私に任せてと言っていたミーニャ。

 現実を知った彼女の表情は夜より暗い。

 自身の才能を疑わず、努力なんて不必要だと考え、周囲にもてはやされていた彼女は実力を過信している。

 錬金術師でありながら、他の錬金術師を知らない。

 ユリアが特別で、自分が平凡だという事実に、ようやく理解が追いつき始める。


「そんなわけないわ……私が選ばれた人間なのよ!」


 だが、プライドが現実を否定する。

 できない依頼を引き受け、パンク寸前になっているにも関わらず、現実を受け入れようとしない。

 こうした歯車のずれが大きくなって、王宮の損失は多くなる。

 たった一人、真の天才がいなくなったことで、王宮の日常は一変した。


 この先も知るだろう。

 真の天才にどれだけ頼っていたのか。

 偽りの天才が誰なのか。


本日の更新はここまでとなります!

少しでも面白いと思って頂けたら嬉しいです。


面白い、続きが気になる方!

評価欄から☆☆☆☆☆⇒★★★★★して頂けると嬉しいです。

現時点での評価で構いません。

モチベーション維持に繋がりますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始!! URLをクリックすると見られます!

『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://ncode.syosetu.com/n9843iq/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[気になる点] ユリアが入る前から仕事は有ったはずなのに、なぜユリアの仕事の異常性に気づかないのだろうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ