17.真の天才
賑やかな宴。
最終日は特に騒がしくて、みんな羽目を外している。
各々の頑張りを讃え合う声が響く。
「今回もお前んとこがトップか~ 次は負けねーぞ」
「あたしばっかり見てたら足をすくわれるよ? なんたってレンテちゃんたちが追いあげてきてるからね~」
「そうだったぜ~ かー、ライバルが多いことよ」
「良いことじゃないか。それだけ旅団の利益が増えてるんだからさ」
お互いにライバルであり、共に戦う戦友。
旅団は一つの組織だけど、やっていることはそれぞれ違う。
だけど見ている方向が同じだから、ちゃんと一丸になっている感覚が確かに有って。
それでいて居心地が良いんだ。
「みんな良い人だね。私のこともすんなり受け入れてくれたし」
「当然ですよ! いつものことですから」
「いつも?」
「ユリアが初めてじゃないってことだよ」
エアル君が私の隣に腰を下ろす。
さっきまで各テーブルを転々として団員さんたちと話していたみたいだ。
「初めてじゃないってことは、私みたいに王宮で働いてた人が他にもいるってこと?」
「そこまで同じじゃないぞ。単に、どこかで居場所をなくした人が、うちを新しい居場所にしてるってだけだ」
「私とお兄ちゃんも元は孤児ですからね」
「え……」
飲もうとしていたグラスをピタリと止める。
予想外な一言に動揺して、私は二人の顔を交互に見る。
エアル君はレンテちゃんと顔を合わせて、呆れるように笑ってから話し出す。
「そう深刻な話でもないよ。うちは父親がいなくて、母親が一人で俺たちを育ててくれてたんだけどさ。無理がたたって身体を壊してそのままだ。で、身寄りもないから途方にくれてたところを、当時の春風の団長に拾われたんだよ」
「とーっても優しい人なんですよ! 見た目はちょっと怖いですけど」
「そうだな。俺たちにとって大恩人だ。今は『夏風』と一緒にいるはずだから、そのうち会えると思うよ。楽しみにしておいてくれ」
「うん。楽しみにしてる」
その人がどんな人なのか。
気になるよりもずっと、二人の表情が目に入った。
悲しい話をしているはずなのに、二人とも楽しそうなんだ。
助けてくれた人の話題の時は特に元気で、レンテちゃんも瞳をキラキラさせている。
それだけ大切で、すごく大好きなんだろう。
本当に楽しみだ。
会える日が。
「ボスも驚くだろうな。新人の錬金術師が売り上げを独占したーとか話したら」
「絶対驚くね! よくやったって褒めてもらえるよ!」
「違いない。ユリア以上の錬金術師なんて他にいないだろうし、この先もうちは安泰だ」
「そ、そんなに褒めても何も出ないよ?」
褒められ慣れていない私は、ちょっと大げさに褒められると反応に困る。
顔も恥ずかしいくらいに赤くなって、熱くなって。
「これからも頑張ってくれたら良いよ。無理せずにな?」
「うん。それくらいなら」
私に出来ることならなんでもやろう。
褒められると上機嫌になって、そんな気分になるんだ。
それから――
「……ここに来られて良かった」
心の底からそう思う。
◇◇◇
ユリアが幸せな時間を過ごす中、王宮では不穏な空気が漂っていた。
「……なに? また辞めたのか?」
「はい……こんな仕事はこなせないと」
「またそれか。これで三人目だぞ? どうなっているんだ?」
「……」
国王陛下に報告していた役人は言葉を詰まらせる。
彼女を追放して以来、新しい錬金術師を雇っていた王宮だったが、ことごとくが辞めてしまう。
理由は全員同じだった。
ユリアが請け負っていた仕事の一部を見て、こんなのは普通じゃないと一蹴される。
説得して働いてもらっても、数日で限界だと逃げ出す。
誰も根性がないわけじゃない。
単に、実力が追いついていないだけだ。
「陛下……お、お言葉ですが……」
「なんだ?」
「……その、あの者を呼び戻すというのはいかがでしょう?」
「ユリア・ロクターンのことか? ふざけたことを抜かすな。あの不届き者に頼るなどあってはならない。そもそもあれは不出来な錬金術師だったのだろう?」
今の一言でわかるとおり、国王陛下は全く気付いていない。
ユリアの錬金術師としての実力が、普通という言葉を軽々と吹き飛ばすほどに強烈だと。
すでに役人たちが気付き始めている中で、事実を知らない彼は理解できない。
「ともかく次だ。新しい錬金術師が入るまでの間、仕事の一部はミーニャ・フロレンティアに回せ」
「は、はい」
王宮で働く錬金術師は、ミーニャを入れて三人だけ。
ユリアがいた頃は、仕事のほとんどを彼女一人がこなしているようなものだった。
しかし今、彼女はいない。
王子の期待を背負っているミーニャに、全ての期待は注がれる。
「……こ、こんな量……おかしいわ」
頼られている当初は、私に任せてと言っていたミーニャ。
現実を知った彼女の表情は夜より暗い。
自身の才能を疑わず、努力なんて不必要だと考え、周囲にもてはやされていた彼女は実力を過信している。
錬金術師でありながら、他の錬金術師を知らない。
ユリアが特別で、自分が平凡だという事実に、ようやく理解が追いつき始める。
「そんなわけないわ……私が選ばれた人間なのよ!」
だが、プライドが現実を否定する。
できない依頼を引き受け、パンク寸前になっているにも関わらず、現実を受け入れようとしない。
こうした歯車のずれが大きくなって、王宮の損失は多くなる。
たった一人、真の天才がいなくなったことで、王宮の日常は一変した。
この先も知るだろう。
真の天才にどれだけ頼っていたのか。
偽りの天才が誰なのか。
本日の更新はここまでとなります!
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