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14.ポーション作り

 薬屋さんはこの街に一軒しかない。

 錬金術師程じゃないけど、薬剤師さんも貴重な人材だ。

 特別なスキルに頼らず、知識と発想で様々な薬を調合、開発することは誰にでも出来ることじゃない。

 高価で手に入りにくいポーションと違って、お薬は街の人たちにとって健康の頼りだろう。

 営業時間は夜の八時まで。

 今は七時四十五分。

 閉店間際に私たちは急いでお邪魔する。


「いらっしゃいませ、ってあんた旅団長さんじゃないか」

「こんばんは」


 お店に入ると男性に声をかけられた。

 エアル君と知り合いみたい。

 私が彼に視線を向けると、尋ねる前に答え出す。


「実は昨日、薬を買いに来たばかりなんだよ」

「そうなの? どこか具合でも――あ」


 そういうことか。

 昨日で、彼が薬を買いに来たのって。


「レンテちゃんのため?」

「そう。本人は強がってたけど体調悪そうだったからさ。まぁ必要なくなったけど」


 やっぱりそうか。

 彼もレンテちゃんの体調に気付いていたんだ。

 初めて会った私の表情から考えを読み取れる彼が、身近な妹の体調を見抜けないわけないよね。

 

「本当は休ませたかったんだけど、あれで頑固だからさ」

「ふふっ、そんな気がするね」

「なんだい? その様子だと妹さんは元気になったのか?」

「ええ、もうすっかり元気です。ちょっと経緯は違いますけど」


 そう言いながら私のほうに視線を流す。

 店員さんは意味がわからず首を傾げていた。

 エアル君は小さな声で。


「自慢してもいいんだぞ?」


 と言ったけど、私はこう返す。


「そんなことしに来たんじゃないから」

「だろうな。それじゃ用件を済ませようか。任せるよ」

「うん」


 私が店員さんに視線を向けると、彼も気づいて目を合わせてくれた。


「何かお探しですか?」

「はい。傷に塗る薬と、ハーブっておいてありますか?」

「ありますよ。ハーブは何がいいですか?」

「えっと、キハダとオトギリソウがあればお願いします」


 二つとも打ち身や切り傷、打撲に効果のあるハーブだ。

 他にもあるけど、一先ずは二種類あれば十分。


「どっちも在庫はありますよ。どれくらい必要ですか?」

「あ……」


 そうだった。

 お金はまだ持ってないんだった。


「ならこれで買えるだけお願いします」


 困っている私にエアル君が手を差し伸べてくれた。

 店員さんがお金を受けとる。

 

「わかりました。それじゃ少々お待ちください」


 店員さんがお店の奥へ入っていく。

 それを見送ってから、私は彼にお礼を言う。


「ありがとう」

「どういたしまして。実はお金もってないの気付いてた」

「え、そうだったの?」

「ああ。どうするのかなって思って」


 気付いていたなら教えてくれたらいいのに。

 いやこの楽しそうな顔……反応を見て面白がってたな。


「エアル君優しいけど、時々イジワルなんだね」

「よく言われる」


 その答えもイジワルだ。

 表情から考えを先に当てられたり。

 なんだか彼にはやられっぱなしな気がするよ。

 何かで見返さなきゃ。


 ……私ってこんなに負けず嫌いだったんだ。


 思わぬ所で新しい発見をした瞬間だ。

 一分ほど待っていると、奥から店員さんが戻ってくる。

 手には塗り薬とハーブを持って。


「お待たせしました。こちらでよろしいですか?」

「――はい。ありがとうございます」

「いえいえこちらこそ。外は暗いですから、気を付けてお帰り下さい」

「はい」


 薬屋さんで材料を買った私は、エアル君と一緒に宿屋へ向かう。

 昨日みたいな宴会は毎日やっているわけじゃなくて、街へ来た日から五日ごとに団員たちを労う目的で開催しているらしい。

 だから次は最終日だ。


 宿屋に戻り、部屋に入ると――


「お帰りなさい! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」


 レンテちゃんの元気いっぱいなお出迎え。

 もう夜遅いのに、レンテちゃんは私たちを待っていてくれた。

 

「眠くないか?」

「まだ大丈夫だよ! これから錬金術するんだよね? 私も見てみたいな!」

「だそうだ。ちなみに俺も見たい」

「見るのは全然かまわないよ。そんなに面白いものじゃないと思うけど」


 私は道中で買った白いチョークを手に、大きめの木の板を床に敷いた。

 そこに錬成陣を書いていく。


「この間の手袋は使わないのか?」

「あれは一本ずつしか錬成できないんだ。多く一気に錬成したいなら、それだけ大きな錬成陣が必要なの」

「へぇ~ そういうルールもあるのか」

「他にもあるよ? 用意した素材以上の品質の物は、作ろうと思っても出来ないしね」


 錬金術は物質同士を合成する。

 掛け算じゃなくて足し算なんだ。

 一と一を足せば二以下にしかならない。

 そしてこの素材の消費の部分で、錬金術師としての腕が如実に現れる。


 通常の錬金術では、素材の一部が錬成時に消滅する。

 例えば一つと一つを合わせた場合、二つが完成するわけじゃない。

 錬成時に上手く合成できなかった部分は消滅してしまう。

 優れた錬金術師でも、錬成時に素材の三割は無駄にしてしまうと言われている。

 だけど私は――


「素材を無駄にするなんて勿体ないよ」


 という精神で研究を重ね、その無駄を完全になくすことに成功した。

 私の錬成では、無駄になる素材がない。

 素材を完全に使えるから、同じポーションでも効果が高い。

 数も多く錬成できる。

 あとはひたすら練習して、錬成の速度と精度を上げた。

 今ではそう、ポーション三十本くらいなら一瞬で錬成できる。

 こんな風に。


「凄い、綺麗な光」

「ああ」


 錬成陣が輝き出す。

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