12.昼、忙しい時
屋台やテントの組み立てが終わると、それぞれの商品が並び始めた。
改めて見るといろいろ売っている。
料理、食材、道具、素材、アクセサリー、服、それにポーションも。
この広場に並んでいるお店だけで、生活に必要な物は全部そろってしまいそうだ。
「この商品ってどこから仕入れてるの?」
「物によるかな。食材とかは前の街で仕入れた物を使ってたりするよ」
「ポーションとかも?」
「ああ、あれは高くて数も少ないけどな」
エアル君は軽く笑いながら話す。
ポーションは貴重品だ。
王宮で働いていた頃は貴重品とは感じないし、実際に王宮では余っていたけど、一般市場ではあまり出回らない。
というのも、ポーションを作成できる人が限られているから。
錬金術師の人口は少ない。
必然的に作れるポーションの数も少なくなって、市場には出回りにくい。
貴重さは数の面だけじゃない。
効果も特別だ。
通常の薬や薬草が、身体に入れてから効果が出るまで時間がかかるのに対し、ポーションは即時効果が発揮される。
加えて強力なものが多い。
深い傷でも簡単に塞がるポーションさえ作れてしまうんだ。
他にも視力強化とか身体強化みたいに、特別な効果を与えるポーションもある。
よく魔法の飲み物、なんて呼ばれることがあるけど、実際その通りだ。
錬金術だって元を辿れば魔法の一種だし、そこから生まれたポーションも魔法の飲み物で間違っていない。
とにかくポーションは貴重品。
でもそれをわかっていない人もいるから、昨日みたいなトラブルも起こる。
「レンテちゃん大丈夫かな? 昨日みたいな人が来たら」
「平気だと思うぞ? あいつはあれでしっかりしてるし、普段はクレームも一人で対応してる」
「そうなの? 一人で……」
「昨日はあれだ。体調が良くなかっただろ? その所為でいつも通りに出来なかっただけ、ユリアのお陰で治ったから大丈夫だ」
エアル君は力強く断言した。
妹のことを信頼しているのだろう。
話している間に、それぞれの店舗が客引きを始めた。
広場には仕事へ向かう人が行き来している。
「一番忙しいのは昼だから、それまでに一通り説明するよ」
「うん」
「じゃあさっき話してた仕入れの続き。うちはいろんな商売をやってるんだけど、仕事は担当部門ごとに分かれてるんだ」
エアル君が広場を回りながら説明してくれる。
彼の話を聞きながら、私なりに頭の中で情報をまとめてみた。
旅団での仕事は部門ごとに分かれている。
採取・仕入れ部門、調理・作成部門、販売部門の三つだ。
商品として並んでいる素材の中には、モンスターから採取できる物もある。
そういった素材や、薬草なんかも含めて、戦える人たちを中心に採取している。
「自分たちで取ってるの?」
「物によってな。よそから仕入れると高い素材も多いからさ。それなら自分たちで取ってきた方が楽だろ?」
「理屈はわかるけど危険じゃない? モンスターなんて特に危ないよ」
「もちろんわかってる。だから腕利き以外は参加しない。ちなみに俺が主で取り仕切ってるのは素材取りに行く部門だよ」
話しながらエアル君は腰の剣に触れる。
彼はモンスターとも戦えるほど強いみたいだ。
驚くところだけど、昨日の難くせをつけてきた冒険者の反応を見ているから、彼が強いのはなんとなく察していた。
「驚かないんだな」
「驚いてるけど、やっぱりなって思ったよ」
「ふーん、もっと派手な驚きを期待してたんだけど」
がっかりするエアル君。
私に何を期待していたのか。
「仕入れもエアル君が仕切ってるの?」
「いいや? そっちは別の人に任せてあるよ。一応団長だからさ? 全体の統括もしてるけど、基本は慣れてる人に任せてあるんだ」
「適材適所ってこと?」
「そういうこと。だからユリアには作成の部門をお願いするつもりだよ」
調理作成部門。
採取した素材で物を作ったり、仕入れた食材で料理を作ったりする人たち。
調理する人がそのまま販売をやっている場合もあるとか。
「昨日も話したけど錬金術師は不在だからさ。ユリアがいてくれると助かるんだ。買うのと作るじゃコストが違う。仕入れ値が高いと販売価格もあげなくちゃならない」
「それで昨日みたいなことが起こる?」
「あれは運が悪かったとしか言えないよ。俺たちの旅団の名前を聞いてつっかかってくるなんて、よほど世間知らずだったのかな?」
「……そんなに有名なんだ」
ぼそりと、彼に聞こえない声量で呟いた。
私は一体どれだけ有名な一団に入れてもらったのか。
そこだけはちょっぴり不安だ。
さらに一通りの説明を受けて昼になる。
話している間にも人通りは増えて、朝とは比べられない人数が行き交う。
「ちょうど忙しくなるな。販売部門の腕の見せ所だ」
彼は自信満々な笑みを浮かべる。
すると、至る所から客引きの声が聞こえ出す。
「いらっしゃいいらっしゃい! 新鮮な魚が揃ってるよ!」
「こんにちはお嬢さん。貴女にぴったりなアクセサリーがありますよ?」
「他じゃ手に入らない貴重な素材が入ってるよー! 今しかないから見ていってくれー!」
声と声が入り混じる。
行き交う人々を引き留めて、視線を奪う。
所詮は声掛け、なんてこれを見て言えないな。
みんな汗だくで声をかけて、仕事に励んでいる。
「商売って……思ったより大変そう」
「大変だぞ? でもその分、売れた時の達成感が堪らないんだ」
その感覚を私は知らない。
早く味わってみたいと、無性に思う。






