11.朝、仕事の始まり
窓から朝日が差し込む。
穏やかな陽気で自然と目が覚めて、清々しい朝。
「……ぅ、お、重い」
残念ながらならなかった。
ふかふかのベッドで数日ぶりにぐっすり眠れた私だけど、目覚めの決め手は身体に抱き着いてくる彼女。
一緒のベッドで眠っていたレンテちゃんだった。
記憶が正しければ寝る前、二人で並んで上を向いていたはずだけど……
「うーん、ふにゃ~」
猫みたいな声を出す彼女は、私の左腕と左脚に抱き着いていた。
というか絡まっていた。
子供ながらがっちりと掴んでいて身動きがとれない。
起きる前からこの状態だったのか、少し腕がしびれてきたり。
彼女にも起きてもらって退いてほしいところなのだけど、気持ちよさそうな寝顔を見ていると、起こすのがかわいそうに思えてしまう。
どうしたものか。
とかやっているうちに数十分が過ぎて。
「ぅ、うーん……ああ、おはようございます。お姉ちゃん」
「う、うん。おはようレンテちゃん」
見事に左腕の感覚がなくなるまで痺れが進行しました。
でも朝からお姉ちゃんと呼んでもらえてちょっと癒されましたし、良かったと言えばよかったのかな。
◇◇◇
朝七時半。
八時から団員を集めて朝の集会が始まるらしい。
その前に着替えや朝食を済ませる。
急いで準備を済ませたら、宿屋の前に全員が集合していた。
旅団のメンバーは全員で四十七人いるらしい。
大所帯が一か所に集まっている様子は壮観だ。
その中に自分がいると思うと、なんだか不思議な気分でもある。
「えー、全員そろってるな?」
集まった団員たちの前に立っているのは、団長のエアル君。
未だに彼が一番偉いことに驚いている。
年齢だけで見れば、彼よりも年上な人はいるし、むしろ多いように見えるけど。
団長ってどういう基準で決まるのかな?
「天気も良いし昨日の売れ行きも好調だった! 今日を含めて残り五日間だ! 最後までしっかりやっていこう! それじゃ仕事開始だ!」
彼の掛け声に応えるように、団員たちが一斉に「おー!」と声をあげた。
隣からレンテちゃんの可愛らしい声も聞こえて、私だけ要領を得ずに出遅れる。
この後はそれぞれの仕事に取り掛かる。
というのが本来の流れだけど、今日は私だけ特別らしい。
全員が散っていく中、エアル君が歩み寄ってくる。
「今のが朝の集会だ。基本的には挨拶とみんな起きてるかの確認。あとは連絡事項があったら全体に伝える感じかな? 明日はみんなにユリアを紹介する予定だから、そのつもりでいてくれ」
「う、うん」
あの人数の前に出るのか。
さすがに緊張するかも。
「そんで今日は予定通り、うちでやってる仕事とか諸々教えるから」
「うん。よろしくお願いします」
「おう。レンテもそろそろ仕事にかかってくれ」
「はーい! 行ってきます!」
レンテちゃんが手を振りながらかけていく。
今更だけど、彼女みたいな子供でもしっかり働いているのか。
負けないように頑張らないと。
まずは仕事を覚えるとことから。
「今から緊張してるともたないぞ?」
「う、わ、わかってるよ」
「ならいいけど。じゃあ歩きながら話そうか」
私とエアル君は隣を歩きながら話す。
向かっている場所は、昨日露店を開いていた広場だ。
「腕の痺れは治ったか?」
「え? バレてたの?」
「そりゃーな。あいつ抱き着き癖があるから、よく同じようになるんだよ」
「そ、そうだったんだ」
それなら先に教えてほしかったかも。
「次からは間に枕でも挟んでおくことをお勧めするよ」
「うん、そうするよ」
レンテちゃんには申し訳ないけど、毎朝あの痺れと重さで目覚めるのはちょっと……
抱き着き癖は見ている分には可愛いけどね。
「ここの滞在中はあの部屋しかないから、五日間は我慢だな」
「それさっきも話してたよね? 滞在期間って決まってるの?」
「決まってるよ。基本は一つの街で十五日だ。何かしら催しが重なった場合とかは、延長したり短縮もするけどね」
「十五日ね」
一つの街に留まる期間は半月くらい。
これは旅団内での取り決めらしい。
他にもいくつか取り決めはあるという。
「取り決めって言っても、破った所で罰とかないけどな」
「そうなの?」
「ああ。周りに迷惑をかけない。自分を大切にする。この二つが守れるなら、取り決めは二の次で良いんだよ」
周りに迷惑をかけないは当たり前のこと。
自分を大切にするは簡単そうに思えるけど、どうなのかな?
私は……出来てなさそうだから気を付けないと。
説明を受けながら歩いていると、いつの間にか広場にたどり着いていた。
広場では屋台やテントをせっせと組み立てる人たちがいる。
レンテちゃんもお手伝いしているみたいだ。
「組み立ては全員でやるんだね」
「結構大がかりだからな。全員でやらないと開店まで時間がかかる」
「なるほど」
私も明日から手伝うわけだし、今のうちに少しでも見て覚えないと。
というか見ているだけも申し訳ないから、何か手伝えることはないかな?
「焦んなくて良いよ。明日から頑張ってもらうから」
「え……なんでわかったの?」
「顔に出てるって。何か出来ることないかなーって、考えながらキョロキョロしてたろ?」
「……正解」
本当によく見ている。
私も商売で人と接していたら、彼みたいに気づける人になれるのかな。