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【7/25コミック1巻発売】国渡りの錬金術師 ~王子に騙され王宮を追い出された私は、ある旅の一団と出会いました~【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
エピローグ

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風の始まり⑤

 間に合って……お願いだから。

 今まで何度もエアル君には助けてもらった。だから今度は私が……助ける番なんだ!


「よかった……無事だね?」

「どう、して……?」

「助けに来たんだよ? みんなで!」

「みんな?」


 私の後ろから、春風のみんなが顔を出す。


「団長! 無事かぁ!」

「何勝手に一人でいなくなってんのさ!」

「お前たち……」

「お兄ちゃん!」


 私の後ろから、レンテちゃんが駆け抜ける。周りには盗賊たちもいて危険だ。そんなことお構いなしに、エアル君の元へと。


「レンテまで……」

「お兄ちゃんの馬鹿! なんで一人で行っちゃうの! どれだけ心配したと……思ってるの……?」


 感情が抑えきれず、レンテちゃんはその場で泣き出してしまう。エアル君はそんな彼女の頭を撫でようとして、手を引っ込める。


「レンテ……俺は……」

「言わなくていいよ。全部知ってるから」

「え……」

「王城にいる盗賊に聞いたんだ。エアル君と盗賊のボスのこと」


 私は二人の元へ歩み寄る。周りの盗賊たちは、春風のみんなが警戒してくれている。安全とは言い難い状況だけど、数分なら構わないだろう。


「一人で、解決しようとしたんだね」

「……ああ。そうするべきだと思ったんだ。そうじゃなきゃ、みんなにも、レンテにも顔向けできない」

「関係ないよそんなの! お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん! 私のお兄ちゃんは一人だけなんだから!」

「レンテ……」


 彼が何を悩み、迷っていたのか予想はできる。彼は優しいから、自分で自分が許せないんだろう。彼は何も悪くなくても、自分にも責任はあると考えてしまう。

 エアル君はそういう人だから。


「みんな、エアル君だから助けに来たんだよ。私も、レンテちゃんも、春風のみんな……王国の人たちも協力してくれたんだ」


 町全体はすでに王国の騎士たちによって包囲されていた。捕らえた盗賊から情報を聞き出し、場所を割り出し部隊を編成して。

 たった一人、しかも部外者を助けるためとは思えない速度で進み、ここまでやってきた。


「ねぇエアル君、エアル君が誰の子供でも、みんな関係ないって思ってるんだよ? 大事なのは今まで、エアル君が何をしてきたか」


 短い付き合いだけど、私にも言えることがある。私はエアル君に助けられて、春風の旅団に入ることができた。幸せな居場所を手に入れられた。

 きっと他にもエアル君の優しさに救われた人たちは大勢いる。春風のみんなも、レンテちゃんだってそうだろう。

 彼が積み重ねてきた信頼と実績は、たかだが一人の男に脅かされるほど弱くない。


「エアル君はエアル君だよ。エアル君だから、みんなここにいる」

「ユリア……」

「だから、一緒に行こうよ」


 私は手を差し伸べる。


「お父さんにがつんと言わなきゃ」

「……そうだな」


 その手を彼は取る。いつもみたいに、優しく笑いながら。


  ◇◇◇


「ダメですボス! 完全に包囲されてます!」

「くそっ、なんで王国の軍がこんなにいやがるんだ!」


 逃走しようと考えていたドシールだったが、その退路はすべて塞がれていた。すでに町全体は王国の兵士に包囲されている。


「エアルのやつ……最初からこうするつもりだったのか?」

「――いいや、俺も驚いてるよ」

「な、エアル……」


 盗賊のボス、エアル君の父親ドシール。彼の前にエアル君は歩み寄る。


「みんなは勝手に来たんだ。俺のことを助けるために……全部知った上で」

「……そうかよ。優しい仲間をもったじゃねーかぁ、エアル」

「まったくだよ。感謝しかない」


 エアル君は剣を構える。傷や疲れはすでに私のポーションで回復済み。ともに来た兵士たちが、ドシール以外の盗賊の相手をしてくれる。

 この場所、このタイミングなら邪魔は入らない。エアル君とドシールが一対一で向き合うことができる。


「いってらっしゃい、エアル君」

「ああ。すぐ終わらせる」


 私に背を向け、エアル君が駆け出す。その背中に迷いは一つもなくて、私がよく知っている頼もしい背中がそこにあった。


「クソおやじ! お前に一つだけ感謝しておく!」


 豪快に、切っ先に炎を纏わせる。


「俺を生んでくれたことだけは! おかげでみんなと出会えた! 俺は今、すごく幸せだ!」

「エアルゥ!」


 ドシールは突風で対抗する。それすら炎が飲み込み、圧倒的な熱量で押しつぶす。全身全霊をかけた一撃が、ついに父親の胸に届く。


「ぐおあ……」

「俺はこの先もみんなと一緒に生きる。お前は……死ぬまで反省してるんだな」

 

  ◇◇◇


 盗賊団全員の身柄を拘束し、王国の地下へ収容した。これでようやく、本当の意味で王都を襲った災厄は消えた。


「悪かった」

「もういいって。そんなに謝らないで」


 宿屋に戻ってきたエアル君は、旅団のみんなに何度も深く頭を下げて謝罪していた。誰も彼のことを責めたりしなかった。みんな心配していただけなんだ。


「エアル君が無事でよかったよ」

「……ああ」

「レンテちゃんは?」

「もう寝てる。散々泣いて疲れたみたいだ」

「そっか」


 レンテちゃんが一番心配していたからだろう。子供らしく泣いて、エアル君が戻ってきてくれたことにホッとしたのかもしれない。


「俺は……まだここにいていいんだな」

「当たり前だよ。エアル君がいてこそ、私たち春風なんだから」

「ははっ、それをユリアに教えられるとはな……」


 私たちは部屋の窓から夜空を見上げる。珍しいことは意外と続くらしい。今夜は月が見えるくらい快晴だ。


「もうすぐこの国にも春が来るんだって」

「へぇ、じゃあ少しは温かくなるのか」

「あんまり変わらないみたいだけど、雪が降らない日は少しだけ増えるみたいだよ」

「そうか」


 見上げた空に、流れ星が一つ。願い事を唱えるには短すぎる。私たちはただじっと流れた星の軌跡を追う。


「もう、一人でいなくならないでね?」

「……ああ」

「私も、すごく心配したんだから」

「……嬉しいよ。俺の居場所はここにあるんだな」


 エアル君の横顔は、これまで見てきた中で一番清々しくて、軽やかだった。もうすぐ春が来る。きっと彼の心にも、この日初めて……春が訪れたのだろう。


 私たちは春風の旅団。旅する商人の一団。また新しい地へと向かう。心地いい風を吹かせるために。明日も明後日も、私たちの旅はずっと続いていく。


 終わりが訪れるのは、ずっと先のお話だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] バカ王子とバカ王子の言う事を鵜呑みにして王国に取り返しの付かない損害を与えた国王のその後を知りたい
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