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風の始まり④

「俺はお前の息子で間違いないんだな?」

「ん? そう言ってるだろ? 紛れもなく、お前は俺の血を引いている」

「レンテは違うんだな?」

「何度も言わせるな。あの妹と俺は無関係だ」

「……そうか」


 すでに確定している事実の再確認。エアル自身も疑っていたわけではない。ファスルたちですら知らない母の名前を知っていた時点で、無関係な相手ではないと理解していた。

 それでも最後に確認しておく必要があった。もし万が一違えば、レンテが悲しむ結果になるかもしれないから。


「よかったよ」

「あん?」

「そこさえ確定してるなら、お前をここで叩き斬れる」

「てめぇ」


 エアルは剣を抜き、瞬時に魔法を発動させる。炎を纏った剣を横に振り回し、周囲に炎を拡散させる。


「ぎょああ!」

「な、なんだこりゃ! あちい!」


 炎をうけた盗賊たちがもだえ苦しんでいる。ドシールには届いていない。魔法で風の壁を作り防御していた。


「エアル……これが答えか?」

「ああ、俺がここに来たのは……」


 エアルは切っ先を向ける。実の父親に、殺意を込めて。


「お前たちを潰して、俺自身の手で過去の因縁を断ち切るためだ!」


 エアルは決意していた。誰の手も借りず、誰も巻き込むことなく盗賊たちは全滅させ、自身に絡みつく因縁を断ち切ってしまうことを。

 これから先も、旅団のみんなと共に旅をし続けるために。間違った過去を、自身の手で精算することを決めていた。


「わかってるのか? 俺はお前の父親だ」

「そうらしい。だからこそ俺がやらなきゃだめなんだ」

「実の親を殺すか?」

「覚悟はしてる。それに俺は……お前を親だなんて思わない!」


 炎を纏い前進する。斬りかかった刃はドシールに届く前に突風で止められてしまう。


「そうだなよく言った! 俺もお前を息子だなんて思ってねーよ! お前は望まれてねーんだ! 誰にもなぁ!」

「くっ……」


 風の防壁に阻まれ建物の外へ吹き飛ばされる。外にはすでに盗賊たちが武器を持って待機していた。こうなることをドシールは予想していた。

 因縁を断ちきるつもりだったのはエアルだけではない。従わないならいずれ邪魔になると考えたドシールは、ここでエアルを消すことにした。

 実の息子と理解しながら、殺すことに躊躇はない。この二人の間には、血以外のつながりなど存在しないのだ。


「じゃあなエアル、会えてよかったぞ」

「待てクソおやじ!」


 エアルを取り囲むように盗賊たちが武器を構える。その後ろにドシールが背を向けて歩き去っていくのが見える。


「邪魔するな! お前たちにも容赦はしないぞ」

「はっ、親に見捨てられたガキが! いきがってんじゃねーぞ!」

「ボスからお前を殺せって言われてんだ。一人でのこのこ来たことを後悔するんだな!」


 盗賊たちが一斉に襲い掛かる。剣に斧、槍に弓、さまざまな距離から攻撃が繰り出される。

 エアルの戦闘能力は高い。魔物と単身で渡り合える実力はある。ただの人間相手に遅れはとらない。

 しかし、相手も戦い慣れた盗賊たち。一人一人はエアルより弱くとも、連携して数がそろえば脅威になる。

 大技の魔法を連発すれば魔力切れで動けない。故にエアルは白兵戦を余儀なくされる。無数の刃を躱し、一本の剣で応戦する。


「っ……」


 一瞬でも気を抜けば……死。

 助けてくれる仲間はいない。回復する手段も持っていない。生き残るためには、この場の全員を一人で倒すしかない。


「やってやるさ」


 必ず帰る。そう心に近い、吠える様に大きく前へ出る。

 メモを残してきたのは、必ず戻るという意思表示だった。勝手に抜け出して心配をかけている自覚もある。怒られる覚悟はできていた。

 しかし唯一、知られたくないのは……自分が犯罪者の血を引いていること。レンテの父親を殺した男が、自身の父であること。

 知ってしまえば今まで通りではいられない。だからこそ一人で決着をつける。何もかもを終らせて、まっさらな状態でみんなの元へと帰るために。


「はぁ……はぁ……」


 その焦りが、普段の動きを制限する。気づけばエアルは盗賊たちに追い詰められていた。盗賊たちも被害は受けているが、数で圧倒的に勝っている。

 倒しても倒してもキリがない。そんな状況の中、エアルの精神には余裕がなかった。頭の中にあるのは、実の父への怒りだけ。

 今度こそ逃がさない。そのためには……。


「こんなところで道草を食ってる場合じゃないんだよ!」


 エアルは前へ出る。しかし肉体は限界に近づき、上手く足がでなかった。躓いて倒れそうになるエアルに、盗賊たちが畳みかける。


「――くそっ」


 ごめんみんな……レンテ……ユリア。

 俺は――


「エアル君!」

「――!!」


 直後、爆音が町中に響き渡る。振動と突風で盗賊たちがよろめき、攻撃は中断された。そこに立っていたのは、汗だくになって息を乱し、泣きそうな顔で自分を見つめる彼女だった。

「ユリア……?」


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