99.身体が勝手に
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「くっそっ! なんなんだこいつら!」
逃げる盗賊の男。
それを追いかけるオレンジ色の髪の青年が迫る。
ユリアが持たせた発明によって原因が毒だと判明した直後、エアルは周囲の怪しい人物を発見し追跡を開始した。
エアルたちに気付いた盗賊を現在も追いかけている。
「どこまで行く気だ?」
「エアル殿、まだ追いますか?」
「せめて敵の拠点は突き止めたいです。可能なら破壊も、拠点さえなくなれば奴らも王都にちょっかいをかけにくくなる」
「わかりました。我々もエアル殿にお供します」
「助かります」
旅団の魔物狩りを共にする仲間たちの他に、王国に属する騎士たちも続く。
総勢二十人余りの一団が王都の外へかける。
逃げる盗賊は一目散に雪化粧に彩られた真っ白な森へと入る。
道を知っている盗賊のほうがわずかに速い。
追いつくどころか離されていく。
エアルたちの追跡を振りほどき、盗賊がアジトへ帰還した。
「大変だボス! あいつに勘づかれちまった!」
「なんだと? 追手がきてるのか?」
「一応まいてきたんですが近くにいます。早く逃げたほうが――」
「もう遅いぞ」
直後、アジトに使っていた家が炎上する。
一瞬で火柱があがり、盗賊たちは慌てふためく。
「これは魔法か」
「お前たちだな? 王都に毒を巻いていたのは」
「ちっ、お前ら応戦するぞ!」
盗賊たちが武器をとり襲い掛かってくる。
数はお互いに拮抗しているが、熟練度の差は歴然。
戦いはエアルたち有利に進む。
自分が不利だと判断すると、盗賊のボスは一人で逃走を開始する。
「ちょ、ボス!?」
「逃がすか! ここは任せます!」
「わかりました! エアル殿もお気をつけて!」
逃げるボスをエアルが一人で追う。
体格差はほとんどない。
しかし追いつけない。
男の背後から突風が吹き荒れている。
「っ、魔法か」
盗賊団のボスは風を操る魔法を得意とする。
この力で王都周辺の気流を操り、生成した毒を狙った地点にばらまいていた。
エアルは追いかけながら察する。
この男には全力を出さなければ捕まえられないと。
「走れ炎!」
逃走する男に向けて火球を発射する。
風の妨害を押しのけて男に届き、慌てて回避する。
男は立ち止まり、エアルと向かい合う。
「っと、容赦ないな。当たっていたら人殺しになるぞ?」
「盗賊相手に容赦なんてしない。仮にそういう結果になっても、俺は後悔しないぞ」
「……いいや、お前は後悔するぞ? エアル」
「――俺の名前を……盗賊なら当然か。お前たちのターゲットには俺たちの旅団も入っているんだろ?」
男はニヤリと笑みを浮かべる。
「いいや、そうでなくてもお前のことならよく知ってる。お前以上に」
「……どういう意味だ?」
「ふっ、俺は――」
エアルは聞かされる。
衝撃で、ショッキングな事実を。
到底受け入れがたい現実を。
◇◇◇
街で被害にあった人たちにポーションが行き届き、ようやく落ち着きを取り戻す。
私たちの仕事も一段落した頃。
「お兄ちゃんだ!」
「エアル君」
「……ただいま」
エアル君たちが戻ってきた。
パッと見で外見に怪我がないようでホッとする。
だけど元気がない。
「エアル君?」
「敵のアジトは見つかったのか?」
そこへイヴェールさんが話しかける。
「見つけて破壊しました。盗賊の大半は捕縛済みです」
「そうか。それにしては浮かない顔をしているが」
「すみません。盗賊のボスは取り逃がしてしまいました」
「そんなことか。元より盗賊討伐の足掛かりさえ作ればよかった。あとのことは王国に任せればいい。ご苦労だったな、エアル」
盗賊の親玉を逃がして落ち込んでいたらしい。
ただ、どうしてだろう?
それだけじゃない気がして……少し胸騒ぎがした。
「ここでの仕事は終わった。早急に大臣へ――くっ」
「イヴェールさん!?」
突然イヴェールさんが胸を押さえて苦しみだす。
この症状は間違いなく、街の人たちを苦しめていた毒による病だ。
イヴェールさんも毒を受けてしまっていたのか。
「心配ない。ポーションは持って……ステラ?」
彼がポーションを取り出すより早く、ステラさんが駆け寄って手を合わせる。
そのまま彼女は祈りを捧げた。
淡い光がイヴェールさんを包み込む。
治療が終わり、二人は見つめ合う。
「……なぜ、力を使った?」
「ごめんなさい」
「ポーションを使えば治る。君がわざわざ力をふるう必要はなかった」
「……はい」
「君は休んでいないといけない。本来ならここへ来ることも」
「わかっています。それでも……」
ステラさんは胸の前で手を組む。
祈りではなく、思いを語る。
「イヴェールさんの苦しそうな顔を見たら、身体が勝手に動いてしまったんです」
「――!」
目の前に苦しんでいる人がいたら放っておけない。
ただ、今日の彼女は理性的で、私たちが街の人たちを治療している間もじっと耐えていた。
祈りの力を行使する必要はない。
それでもただ一人、見過ごせなかったらしい。
彼が苦しんでいる姿だけは。
「……そうか。すまなかったな。心配をかけた」
「いえ……イヴェールさん」
「なんだ?」
「私、決めました。これからどうしたいか。自分が選ぶ道を」
彼女は自分の胸に手を当てる。
決意するように。
確かな思いを胸に秘めるように。
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