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99.身体が勝手に

コミックス版が7/25に発売されます!

ぜひぜひ買ってね!

「くっそっ! なんなんだこいつら!」


 逃げる盗賊の男。

 それを追いかけるオレンジ色の髪の青年が迫る。

 ユリアが持たせた発明によって原因が毒だと判明した直後、エアルは周囲の怪しい人物を発見し追跡を開始した。

 エアルたちに気付いた盗賊を現在も追いかけている。


「どこまで行く気だ?」

「エアル殿、まだ追いますか?」

「せめて敵の拠点は突き止めたいです。可能なら破壊も、拠点さえなくなれば奴らも王都にちょっかいをかけにくくなる」

「わかりました。我々もエアル殿にお供します」

「助かります」


 旅団の魔物狩りを共にする仲間たちの他に、王国に属する騎士たちも続く。

 総勢二十人余りの一団が王都の外へかける。

 逃げる盗賊は一目散に雪化粧に彩られた真っ白な森へと入る。

 道を知っている盗賊のほうがわずかに速い。

 追いつくどころか離されていく。

 エアルたちの追跡を振りほどき、盗賊がアジトへ帰還した。

 

「大変だボス! あいつに勘づかれちまった!」

「なんだと? 追手がきてるのか?」

「一応まいてきたんですが近くにいます。早く逃げたほうが――」

「もう遅いぞ」


 直後、アジトに使っていた家が炎上する。

 一瞬で火柱があがり、盗賊たちは慌てふためく。


「これは魔法か」

「お前たちだな? 王都に毒を巻いていたのは」

「ちっ、お前ら応戦するぞ!」


 盗賊たちが武器をとり襲い掛かってくる。

 数はお互いに拮抗しているが、熟練度の差は歴然。

 戦いはエアルたち有利に進む。

 自分が不利だと判断すると、盗賊のボスは一人で逃走を開始する。


「ちょ、ボス!?」

「逃がすか! ここは任せます!」

「わかりました! エアル殿もお気をつけて!」


 逃げるボスをエアルが一人で追う。

 体格差はほとんどない。

 しかし追いつけない。

 男の背後から突風が吹き荒れている。


「っ、魔法か」


 盗賊団のボスは風を操る魔法を得意とする。

 この力で王都周辺の気流を操り、生成した毒を狙った地点にばらまいていた。

 エアルは追いかけながら察する。

 この男には全力を出さなければ捕まえられないと。


「走れ炎!」


 逃走する男に向けて火球を発射する。

 風の妨害を押しのけて男に届き、慌てて回避する。

 男は立ち止まり、エアルと向かい合う。


「っと、容赦ないな。当たっていたら人殺しになるぞ?」

「盗賊相手に容赦なんてしない。仮にそういう結果になっても、俺は後悔しないぞ」

「……いいや、お前は後悔するぞ? エアル」

「――俺の名前を……盗賊なら当然か。お前たちのターゲットには俺たちの旅団も入っているんだろ?」


 男はニヤリと笑みを浮かべる。


「いいや、そうでなくてもお前のことならよく知ってる。お前以上に」

「……どういう意味だ?」

「ふっ、俺は――」


 エアルは聞かされる。

 衝撃で、ショッキングな事実を。

 到底受け入れがたい現実を。


  ◇◇◇


 街で被害にあった人たちにポーションが行き届き、ようやく落ち着きを取り戻す。

 私たちの仕事も一段落した頃。


「お兄ちゃんだ!」

「エアル君」

「……ただいま」


 エアル君たちが戻ってきた。

 パッと見で外見に怪我がないようでホッとする。

 だけど元気がない。


「エアル君?」

「敵のアジトは見つかったのか?」


 そこへイヴェールさんが話しかける。

 

「見つけて破壊しました。盗賊の大半は捕縛済みです」

「そうか。それにしては浮かない顔をしているが」

「すみません。盗賊のボスは取り逃がしてしまいました」

「そんなことか。元より盗賊討伐の足掛かりさえ作ればよかった。あとのことは王国に任せればいい。ご苦労だったな、エアル」


 盗賊の親玉を逃がして落ち込んでいたらしい。

 ただ、どうしてだろう?

 それだけじゃない気がして……少し胸騒ぎがした。


「ここでの仕事は終わった。早急に大臣へ――くっ」

「イヴェールさん!?」


 突然イヴェールさんが胸を押さえて苦しみだす。

 この症状は間違いなく、街の人たちを苦しめていた毒による病だ。

 イヴェールさんも毒を受けてしまっていたのか。


「心配ない。ポーションは持って……ステラ?」


 彼がポーションを取り出すより早く、ステラさんが駆け寄って手を合わせる。

 そのまま彼女は祈りを捧げた。

 淡い光がイヴェールさんを包み込む。

 治療が終わり、二人は見つめ合う。


「……なぜ、力を使った?」

「ごめんなさい」

「ポーションを使えば治る。君がわざわざ力をふるう必要はなかった」

「……はい」

「君は休んでいないといけない。本来ならここへ来ることも」

「わかっています。それでも……」


 ステラさんは胸の前で手を組む。

 祈りではなく、思いを語る。


「イヴェールさんの苦しそうな顔を見たら、身体が勝手に動いてしまったんです」

「――!」


 目の前に苦しんでいる人がいたら放っておけない。

 ただ、今日の彼女は理性的で、私たちが街の人たちを治療している間もじっと耐えていた。

 祈りの力を行使する必要はない。

 それでもただ一人、見過ごせなかったらしい。

 彼が苦しんでいる姿だけは。


「……そうか。すまなかったな。心配をかけた」

「いえ……イヴェールさん」

「なんだ?」

「私、決めました。これからどうしたいか。自分が選ぶ道を」


 彼女は自分の胸に手を当てる。

 決意するように。

 確かな思いを胸に秘めるように。

7/25にコミカライズ版1巻が発売されます!

ページ下部のリンクにてコミカライズ連載ページに移動できますので、ぜひぜひ買ってね!

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