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98.招かれざる客

【作者からのお知らせ】

5/10 無自覚な天才魔導具師はのんびりくらしたい

5/19 パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる


発売です!

買ってくれよな!!

 降雪地帯にぽつんと立つ一軒家。

 すでに空き家となっているはずの室内に、煌々と明かりが灯っている。


「も、もう許してください!」

「口答えすんじゃねーぞ! 殺されたくなったから死ぬ気で作れ」

「う、うぅ……」


 室内は異臭が漂う。

 脅されているのは錬金術師の男性だった。

 彼は魔物の死体、生き血を媒介とした薬品づくりを強要されている。

 彼らは盗賊。

 王都に混乱を招く元凶である。


「次は明後日だ。それまでに必要な量を作らせろ」

「了解ですボス。しかしいつまで続けるんすか? こんな回りくどいことしなくても、いつもみたいに襲っちゃえばいいじゃないっすか」

「馬鹿が。王都は他の街とは規模が違う。闇雲に攻めたところでつぶされるのが落ちだ。こういう時こそ狡猾に、じわじわと責めるんだよ」

「けどめんどくさいっすよ~ どうせ病を振りまいても聖女がいるんじゃ意味ないじゃないっすか」


 盗賊の部下がやれやれと首を振る。

 すでに十回ほど王都へ毒をバラまく作戦を実行し、すべて聖女の力で解放されてしまっている。


「手っ取り早く聖女を埒っちゃいましょうよ。前はアホが失敗しましたけど、今回はバッチリっすから」

「その必要もない。聖女はいずれ壊れる。あれも所詮は人間だ。酷使すれば必ずガタが来る。前回の作戦で倒れたところを見ると、あと一、二回もすれば終わりだ」

「そんなもんすかね~ 壊れた聖女はどうするんすか? こっそり誘拐して売り飛ばしますか?」

「売り飛ばすより働かせて金を稼がせたほうが効率がいい。それに聖女、女だ。その子供もさぞ高く売れるだろう」

「なるほど、はっは! 今から興奮するっすよ」

「だから早急に毒の量産を急がせろ。一刻も早く上質な餌にこぎつけたいならな」


 盗賊の部下は元気溌剌にかけだす。

 ニヤリと笑うボスが見据えるのは、雪に隠れた王都。


  ◇◇◇


「エアル君、警備の時はこれを持って行ってほしい」

「ん? なんだこれ? 金属の板?」

「病気の原因を調べようと思って。もし毒が何かがまかれているなら、この板が変色するんだ」

「へぇ、こんなものまで作れるのか」


 ポーション作りの合間に作成した検査器具。

 毒素に反応する素材を合成し、板状にして持ち運べる形にした。


「本当は私がその場にいけたらいいんだけどね」

「ユリアの役割はここにあるからな。荒事は俺に任せておけ」

「うん、でも無茶はしないでね?」

「お互いにな」

 

 エアル君はそう言って笑い、研究室を出て行った。

 彼は今日も街の警備をして回る。

 私は相変わらず王宮の研究室でポーション作りに励む。


「彼のオーラは太陽のように温かいですね。綺麗なオレンジ色をしています」

「見た目の通りですね」


 ステラさんも一緒にいる。

 数日一緒に過ごして多少打ち解けることができた。

 休んだおかげで彼女の表情も落ち着いている。


「それに、ユリアさんのことをとても信頼しているのがわかります」

「そんなこともわかるんですか?」

「はい。あなたと話している時、彼のオーラは嬉しそうに輝きを強めますから」

「そうなんですね……」


 嬉しそうに、という部分に反応して思わず表情が緩む。

 そんな私を見て、ステラさんはクスリと笑う。


「ユリアさんもですよ?」

「え?」

「あなたのオーラも、エアルさんと話している時は楽しそうです」

「――! な、なるほど……」


 恥ずかしさに赤面する。

 彼女には隠し子事もできないと悟った瞬間だった。

 その直後、研究室の扉が勢いよく開く。


「お姉ちゃん! ステラちゃん大変だよ!」

「レンテちゃん?」

「どうしたのですか?」


 姿を見せたのは素材の発注に行ってくれていたレンテちゃんだった。

 ひどく焦っている。


「また出たんだって! 街でたくさんの人が倒れたって!」

「――! 街に行こう。ステラさんは――」

「私も行きます。休ませていただいたので心配いりません」

「……わかりました。でも無茶はしないでください。そのためにポーションも用意したんです」


 彼女はこくりと頷く。

 もし彼女が力を使おうとしたら止めよう。

 多少強引だけど、しびれ薬もこっそり準備してある。

 いざとなったら使える様に懐へしまう。


 私たちはそのまま現場へ急行した。

 あの日見た光景が再生される。

 外を歩いていた人たちが倒れこみ、高熱と痛みに苦しんでいた。


「ひどい……」

「この間よりも多いですよ」

「大丈夫。ポーションは余分に用意してある」


 すでに私たちより先に駆け付けた旅団員がポーションを配ってくれていた。

 王城に待機していた騎士さんたちも協力してくれている。

 混乱はすぐに収まるはずだ。


「エアル君たちは?」

「そういえばどこにも……あ! お姉ちゃんあれ!」


 雪が積もる道の真ん中に、金属の板が転がっていた。

 板は紫色の変色している。

 間違いなく、私がエアル君に渡した検査道具だ。


「変色してる。やっぱり毒……エアル君はどこ?」


 毒が散布された結果だとすれば、エアル君も影響が?

 どこかで倒れているんじゃないかと心配になって辺りを見渡す。

 彼の姿はどこにも見当たらない。


「心配いらない。エアルは無事だ」

「イヴェールさん!」

 

 戸惑う私に彼が声をかけてくれた。

 どうやら私たちよりも先に到着していたらしい。

 騎士を引き連れてきてくれたのはイヴェールさんだった。


「エアルは騎士と団員の一部を連れて犯人を追っている。深追いはしないよう伝えてある。彼の実力なら心配はいらない」

「そう……ですか」


 一先ず無事であったことにホッとする。

 ただやっぱり心配だ。


「無事に帰ってきて……エアル君」

 

 私は祈る。

 聖女のように。

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