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1.没落貴族の元令嬢

 私の生まれは辺境の小さな貴族の家柄だった。

 富も権力も、貴族と呼ぶには小さすぎて、少し裕福なだけの家だったと思う。

 あまり記憶にないんだ。

 だってその家は、私が大人になる前に没落してしまったから。


 当主である父の病死。

 流行病にやられて、あっけなく父はいなくなってしまった。

 続けて、父の代わりに頑張っていた母が過労死した。

 これもあっけなく。

 子供だった私には何も出来なかった。

 悔しさを感じることすら出来ず、ただ悲しかった。

 でも……

 母は最期、私に言い残した。


「ユリア……幸せになりなさい。自分の……したいことを……して」


 苦しくて辛い……弱音をはいてしまいそうな時に、母から出た言葉は私の幸せを願う一言だった。

 思えば父も、同じことを言っていた。

 自分たちの後を追うことはない。

 貴族であることが幸せだとは限らない。

 もし、自分らしく生きられる道があるのなら、迷わず進めば良い。


 幸せになろう。

 強い父が、優しい母が。

 安心して天国で過ごせるように。

 私は私らしく生きて、幸せを掴んで見せる。


 

 ロクターン家。

 それが私の生まれた家で、王国の南端にある小さな領地を統治していた。

 両親が他界したことで、貴族としての威厳は保てなくなった。

 領地は王国に返上。

 いずれ別の領主が誕生するだろう。

 屋敷での生活にもお金はかかる。

 母が私に残してくれたお金もあるけど、当然無限じゃない。

 使えばなくなってしまう。

 どれだけ切り詰めて使っても、五年くらいが限界だ。

 それまでに生きていく術を見つけなければならない。


 幸い私には、誰にも教えていない特技があった。

 いや、特技ではなく才能と言ってしまっても良いと思う。


 錬金術。

 物質同士を掛け合わせ、新しい物質を錬成する。

 使える者が限られている魔術の亜型。

 私には錬金術の才能があった。

 一生、使うことなんてないと思っていたけど、錬金術師は貴重だ。

 使い熟せるようになれば、必ず生きるための武器になる。


 私は生まれ育った土地を出て、王都へ向かった。

 王都、王宮には専属で働く錬金術師がいるという。

 目指すなら一番良い場所を。

 宮廷錬金術師になることを目標に、私は王宮に駆け込んだ。


 それから年月は流れ。 

 五年後――


  ◇◇◇


 水が流れる音。

 金属同士が擦れる音。

 台座に刻まれた錬成陣の上に、数種類の薬草が置いてある。

 あとは水の入ったガラス瓶と少量の塩。

 

「よし」


 準備は整った。

 私は錬成陣に両手をかざす。

 すると、錬成陣は光り輝き、用意された素材が消えていく。

 素材を分解し、再構成している。

 光が極限まで強くなって、次第に弱まり消えていく頃には、青い液体の入った小瓶がちょこんと置かれていた。


「うん、成功」


 私は小瓶を手に取り、成分を分析する機材に流し込んだ。

 ざっと確認した限りでは、予定した通りの出来だ。

 

「うーん、まだ効果が薄いかな? これじゃ万能ポーションとは言えないよね」


 私が作ろうとしているのは、どんな傷、どんな病もたちまち癒せる万能ポーション。

 これ一つで全ての病を駆逐し、人々を苦しみから救えるような。

 夢物語みたいなポーションを作るため、私は日夜研究に励んでいた。


 十七歳になった私は、宮廷で働いている。

 念願だった宮廷錬金術師には二年前に着任した。

 十五歳の成人と同時に宮廷に入れたのは運が良かったし、私が最年少だったらしい。

 驚かれはした。

 けれど、褒められることはなかった。

 私の出自、辺境の貴族に生まれながら没落し、身一つで王都までやってきたこと。

 哀れな娘だと言われ、宮廷での扱いはあまり良くない。

 本来宮廷付きという役職は、名のある貴族の中から選ばれることがほとんどだった。

 私はその中でも例外だ。

 落ちた元貴族、いわば一般人から宮廷付きに選ばれたのだから。


 中でも一人。

 特にちょっかいをかけてくる人がいる。


「あら? こんな時間から働いているのですか? 相変わらずせわしない方ですね」


 素材を研究室に運ぶために廊下を歩いているところを、彼女に声をかけられた。

 派手な金髪に派手な衣装。

 見るからに貴族の令嬢らしい立ち振る舞いの彼女は、私と同時期に錬金術師になったミーニャ・フロレンティア。

 フロレンティア家は王都でも名のある大貴族で、そこに生まれた者は代々、何かの分野で秀でた才能を持っている。

 当代では錬金術師としての才能を持った彼女が生まれた。

 貴族の生まれという点では似ているけど、ここに至るまでの道程は全く異なる。

 彼女は家柄のお陰で、宮廷付きの試験を受けずに宮廷錬金術師になった。

 それだけ期待され、贔屓されていた。


「ミーニャさんこそ、こんな朝早くに来られるなんて珍しいですね? 研究ですか?」

「研究? ふふっ、そんな面倒なことしなくても、私は正解にたどり着けるの。貴女みたいな凡人と違って……ね?」


 彼女は自信の塊だ。

 錬金術師にとって大事な研究という過程を軽く見ている。

 しかし現に、彼女はこれまでに多くの成果を出してきた。

 私が研究の果てにたどり着いた物を、彼女はいつも一歩先にたどり着いていた。

 悔しいけど認めるしかない。

 彼女はきっと、天才なのだろうと。


「近々いい発表が出来ると思いますわ。楽しみにしていてくださいね?」

「はい。私のほうも近いうちに出来そうです」

「へぇ~ それは楽しみね」


 彼女に負けたくない気持ちが、私のやる気をかきたてる。

 天才に努力で勝ちたい。

 恵まれた人に、恵まれなかった人が勝てる未来を想像して、奮い立つ。


 ただ、それだけじゃない。

 私のやる気を保ってくれている人が、もう一人いる。

 私が研究室に戻ると、彼が扉をノックした。

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『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

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