6 麗しき騎士の釈明
「違いますよっ!?」
目を真ん丸に見開き、思わず声を張り上げるクロードにシズルは不思議そうに首をかしげる。
「そうなのか? これまで私を従えようとして、手を回す輩はそれなりにいた。所詮は女と侮るのだろうな。そいつらは版で押したように、見目麗しいのを寄越しては私を口説かせた」
(隊長、ばれてる。ばれてますよぉ)
クロードは遠く騎士団本部にいるであろう部隊長に、自分たちの認識の甘さを訴える。
「ちなみに、その時のお相手は……?」
「気にいった奴は適当に喰い散らかして、捨て置いたな」
「……気に入らなかった場合は?」
シズルは口端をにんまりと吊り上げると、赤黒く瞬く瞳に剣呑な笑みを浮かべる。
内心の悲鳴を押し殺し、色仕掛けは絶対に叶わないことをクロードは再認識する。
「手練手管に長けた美貌の吟遊詩人がやってきたこともあるし、初心な新兵を生け贄よろしく差し出されたこともある」
まるで食堂の品書きでも諳んじるように、彼女はこれまで自身に差し向けられた男の遍歴を羅列する。
市民に人気の騎士様を寄越されたのは初めてだが、と言いながらもその目には嘲るような軽蔑の色が浮かんでいた。
「甘味を出しておけば女は喜ぶだろう、なんて安直な考えをするのはどこも同じだな」
「それは違いますっ!」
思わず声を大にして否定したクロードは、キョトンとした目で見られ気まずい思いで視線をそらす。
「上司が僕に、あなたを勧誘して来いと命じたのは確かです」
つまらない誤魔化しをしても、彼女には通用しないだろう。それがまざまざと分かってしまったからこそ、クロードは率直過ぎるほど率直に自らの目的を暴露する。
そして、シズルの目に侮蔑が過ぎるより早く、これだけはとはっきり否定した。
「ですが、あの店を選んだ理由は、あなたの思うようなものではありません!」
きりっと凛々しく澄んだ眼差しが、揺るぎなくシズルに向けられた。
「あの店を選んだのは、僕が知るなかでもっとも美味しい甘味を出すと評判の、これまでずっと行ってみたいと思い続けていた店だったからです!」
「……」
それはどう足掻いても、完全に、己の欲望を優先したとしか聞こえない台詞である。
あまりに正直すぎる物言いにシズルが呆れた表情を浮かべるのを見て、クロードは再度慌てて彼女の考え違いを正した。
「いえ、つまりですね……。上官に命じられはしましたが、僕はあなたを籠絡できるとは思っていなかったんです」
だってなんか怖かったし。
そんな心からの言葉を、クロードは折り目正しく胸のうちに秘める。
二度三度裏切られた印象は、結局最初に抱いた感想に戻った。人間の直感はなかなか侮れないものである。
「要は、はなから諦めて好き勝手にしようと思ったんだろう」
「はい。そうですね」
ここまで来たら、格好をつけても仕方がない。
肩の力が抜けたクロードは、へにょりと眉尻を下げ、苦笑を浮かべる。
「留まって頂けないなら、せめてこの国のいいところを覚えていって欲しいと、そう思ったんですよ」
甘い物が美味しい国でもいい。
城の庭に綺麗な花が咲いていたでもいい。
そんな他愛もない感想であっても、構わない。
「どこか遠くの地でこの国を思い出した時、その記憶が良いものであればいいなって」
国を愛する人間としては、ごく当たり前の想いだろう。
どうせだったら、好印象を持って欲しい。できればその事を国の外で語って欲しい。
自尊心というにはささやか過ぎる、きわめて素朴な愛国心だ。
「……お前は、それでいいのか?」
シズルが戸惑ったように、あるいは疑うような眼差しを向けてくる。
クロードはあっさりと頷いた。
「ええ。無理なものは無理でしょうし。よっぽどこの国を気に入って貰えたなら、多少の目はあるかも知れませんけど。それでも、花と甘味に釣られてくれるほど、あなたも簡単じゃないでしょう?」
仮にも王命である。それを果たせなければ隊長から叱責を受けるだろうし、昇進も遠のくだろう。
だが、自分は女性を誘惑した功績で、騎士団での地位を築きたくはない。これまでのように、地道にやっていくのが性にもあっている。
「だからいいんですよ」
もっとも、気になってた甘味のお店を選んだ辺り、自分の欲がまったく混じってなかったとは言えないので、そこは反省のしどころではあったが。
「良ければ、あともう一度機会をもらえませんか。今度はちゃんと、あなたの好みに合う店にお連れしたいと思いますので」
クロードはシズルに伺いをたてる。
呆れたような溜め息をとともに、了承の返事が貰えた事に、クロードは心底ほっとしたのだった。




