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麗しの守護騎士様は人斬り女を嫁にする  作者: 楠瑞稀
二章 君は人の血、おれは葡萄の血汐を吸う
13/23

2 模擬戦闘



 守護騎士団の本部は、大きく三つの棟に別れている。

 左棟は騎士たちの訓練場や休憩室、宿直室。中央棟は団長室や応接室に会議室。そして右棟に庶務室や経理室といった事務関連の部屋が揃っていた。

 第三演習場は中央棟の前にあり、クロードのいた左棟から右棟に向かうには、ちょうどその前を通るのが近道だ。


「……だからって、よく考えれば俺が代わりに届けに行く理由ってないよな」

 

 上手く乗せられてしまったことが悔しい。次にあった時にはどうやってやり返してやろうか、などと考えていたクロードの目に人垣が映った。

 大騒ぎというほど賑やかではないけれど、確かな興奮が見て取れるその人たちの視線の先には、きっと目当ての人物がいるのだろう。

 クロードは預かった書類を胸にしっかりと抱えたまま、その人ごみの間に頭を突っ込んだ。




 すでに数度打ち合った後なのだろう。団長と女傭兵は、互いに剣を向けたまま静止していた。

 よほど腕に差が無い限りは、初めのうちは互いの出方を探って膠着するのが普通であるとクロードは先輩に聞いたことがある。

 特にそれが、今回のように互いに実力を測り合う為の場なら、なおさらだ。

 現在の守護騎士団の団長は、ジルベール・カヌという名の四十を越えたばかりの、壮年の男性である。

 国を守護する三つの騎士団のうち、ひとつを束ねる長として、若すぎると見るか、年を取り過ぎていると見るかは、人それぞれだろう。

 普段のジルベール団長は、大抵、眠そうな細い目で会議に参加したり、細い目をさらに細めて書類に署名をしている。

 それでも彼が文官寄りの、剣の振り方も知らない人間ではないことは確かだ。そんな人物を団長の据えるのは、いくら平和なヴィルピ二ア王国だとしても有り得ない。

 ただ、その実力を見る機会を、これまでクロードは持っていなかった。それは他の若手団員も同じだ。だからこその、この見物人の多さに違いない。


 ジルベール団長は、中肉中背で、小柄でもなければ大柄なほうでもない。そんな彼が、いまこの場で大きく見えるのは、相対する女性の体格との対比だろう。

 シズルは、線の細い女性だった。女傭兵と聞くと、男顔負けの体躯や筋肉の持ち主を想像する。

 しかし実際の彼女は戦働きで名を挙げることなど想像できないほど、しなやかな体をしていた。背丈も筋肉も普通の女性と変わらない。

 切っ先を下げ気味に剣を構える彼女の様子は、無理矢理持たされた剣の重みに戸惑う、一般の女性を見紛うばかりだった。


 だが、伏せ気味にされていた蘇芳色の瞳が、ふいに赤黒い光を放ったかと思うと、何の前触れもなく剣先が翻った。

 真っ直ぐに突き出される剣を、団長は咄嗟に脇に避けながら弾く。

 火花すら飛び散りそうなその反撃がシズルの上体がぶれさせたかと思いきや、素早く彼女の身は地を転がった。

 蛇が鎌首をもたげるように、低い所から身を跳ね上げて起こしたシズルは、そのまま下段から剣を突き上げる。

 体躯の軽さを補うように、勢いをつけて振り上げられた剣に、団長も歩を下げずにはおられなかった。

 矢継ぎ早に繰り出される鋭い剣戟を、一歩二歩と後退りながらいなす団長は、しかし静かに機を見計らっていた。

 次々に襲いかかる剣勢だが、久しく続けられる訳ではない。

 ついに息が切れたのか、あるいは歩調を乱したのか、シズルの攻撃が一瞬途絶えた。それを見逃す団長ではなかった。

 その僅かな間を突き、稲妻のごとき鮮烈な刃が、彼女の剣を弾き飛ばした。


 彼女の背後に剣が落ちる音がする。

 シズルは降参とばかりに、うっそりと笑いながら両手を上げた。




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