転移前の世界と現世界に共通点があった件
目の前に現れた、転移者の可能性があるパイロット、青島スミト。
念の為【フィールド・トレース】のみ発動しておき、魔法を探知する事にした。【マインド・トレース】は相手の方が力量が上だった場合に利用されて逆に自分の心理を読まれる、最悪は【マインド・コントロール】、洗脳に至る可能性もある。そのため、相手の魔術師としての技量が分かる前から扱うのは危険なのだ。
「警戒する必要はない。君をAクラスに体験入学させたのは俺だ。要するに俺は君の味方だ」
「伝説の英雄からご贔屓頂けているとは大変光栄です」
「いいよ、いいよ、そんな心にもない事を言わなくても」
「滅相もありません。自分はご評価を頂けて少しでも早く上のランクに上がりたい気持ちに変わりはありませんから」
「残念だけど、俺は君を最前線に送り込もうとしている。エンジュニア希望の君からすると好ましくない評価かもな」
なんと言う事だ、味方と言っておきながら最大の障壁ではないか。
しかし、ものは考えようである。どうせ転移に対する技術が見つかったとしても、本来の世界の軸を見つける技術など無いだろう。まずはこの男と接点を作っておく事の方が今後の為にも良いかも知れない。
「自分を最前線ですか?1年でCクラスの自分をでありますか?」
「連日の戦いを見れば、誰もが納得するだろう。懸念材料とすれば、君はセンスティブでは無いとの事だが」
「はい。適性試験では適性外でした」
「だとしても、君はミラージュの領域が見えているのだろ」
「ミラージュ?」
偶然の一致だろうか?俺が開発した空間魔法も【ミラージュ】と名付けていた。
幻覚にも近い知覚術、移動術にこの名を付け、この世界に引き込まれるきっかけとなった。その【ミラージュ】と何か関係があるのだろうか?
スミト大尉の説明によると、ミラージュの領域とは知覚の限界領域で反応するセンスティブとは違い、限界領域を超えた本当に未来が見える力であると。
センスティブとして反応が見られなくても機械のアシストと未来予知が組み合わさると戦場に置いては絶対的なアドバンテージとなる。
世間ではミラージュの領域が見えるものはセンスティブの発展系と考えられているが、必ずしもそうでは無いようだ。
この理論は【ミラージュ・トレース】と名付けた魔法と似た理論である。未来の空間を予測する魔法であらゆる攻撃に対応できる魔法である。本来の目的は過去の情報を読み取る事を目的としていたのだが、この魔法で予測出来たのは未来であり、実際出来たのは少し先の未来なのである。
「ミラージュ……どこかで聞いたような、果たしてそれ程の力が自分にあるかは確証がありません」
「その点については問題無い、戦闘データを何回見直しても君は敵よりも先に動いて回避行動を行っている」
「ただの超反応では敵が動くより先に反応する事はないと」
「余程感が良いと言う事では済まされないレベルの動きだった。つまり、そう言う事だ」
間違いではないが、今の魔法力では【ミラージュ・トレース】までは出来ていない。【イーグルアイ】はその1歩手前の魔法であり、あくまで予測の範囲である。俺が【ミラージュ・トレース】を持続出来るほど魔法力が戻っていればアサヒとの戦いにも敗れてはいなかっただろう。
「ただ、見るにまだ完全に覚醒している訳では無い様だ。完全なる覚醒をしていれば、恐らく氷川アサヒくんの最後の攻撃も予測出来たはずだからね」
やはりこの辺も俺の魔法に通ずる部分がある。
ここからは確証の無い仮説であるが、俺の世界での魔法がこの世界で言う所のセンスティブ、ミラージュと関係している様だ。つまり、俺のやっていた事は無理に隠さずともミラージュの能力という事で片付くらしい。便利な定義があったものだ。
スミト大尉から引き出せる情報はまだ沢山有りそうだ。エンジュニアを目指すよりも、スミト大尉の部下になる事が元の世界に戻る為の道筋として可能性が高い事は確認できた。エンジュニアの道はひとまず置いておいても良いかも知れない。
「いずれは軍にと考えておりましたので、有り難きお言葉です」
「では、エンジュニアコースから外れても良いと?」
「はい」
「ラッキー、一日で口どけだぞ」
「え?」
さっき迄の口調から更に砕けた口調となるスミト大尉。
「いやー硬っ苦しい喋り方は苦手でさぁ、でもあんまりふざけていると真面目に捉えて貰えないと思ってね」
「大尉……」
「落胆しないで下さいね、天城くん」
「えーっと貴方は」
「私はユリーシャ・オルクライト中尉です」
「オルクライト?珍しい異国のネーミングですね」
ユリーシャ・オルクライト中尉は先の戦いの捕虜であったが、スミト大尉の尽力で現在は我が軍の兵士として参加しているが何故その様な事が認められるのかは俺の知る所ではない。
「次の演習で貴方達の特別監督教官として同伴します」
すっかり混乱で忘れていたが、俺はこの演習に合流するべく暫定的にCクラスから飛び級でAクラスに体験編入をしている。
その件にまさか伝説センスティブが関与していたとは驚きである。
「だってさ、誰に聞いても早すぎるとか、無理とか言われるもんでさ、他の部隊に取られる前にスカウトしておこうと思ってね」
「大尉はいつもその様にして隊員をスカウトされているのですか?」
「いえ、スミト隊は、私ともう1人の2人だけです」
「たった3人?」
驚きを隠せない俺に対してアオイが説明を加える
「多分だけど、思念誘導兵器があれば3人で一大隊分の戦力になりますよね」
「そこはトップシークレットなんでコメントは差し控えさせて頂くよ。アオイちゃん」
「スミトさんはいつもそうやって自分に都合の良い事だけ話してはぐらかすんですから」
スミト大尉はどうやら四天王とは既にコンタクトを取っている様だ。成程、次の演習の組み合わせも何となく理解できた。俺達が戦場で即戦力であるかを試しているのだと。
そしてその後は大きなイベントも起こることも無く演習の日を迎えるのであった。
演習の内容は簡単だった。全部で6つの小隊を2グループに分けて、1つのビーコンを破壊されない様に守りながら戦う集団戦闘である。
しかしそのグループ分けが斬新であり、アオイが隊長を務める四天王プラス俺班対その他と言う形である。
更に初期配置は俺達のビーコンを囲む様に残りの5班が配置されており、俺達は1人につき5機の受け持ちとなる。
これは手の折れる配置である。逆にこちらはビーコンが何処に有るのかを知らされてはいない。
敵機が4人で俺達を一機抑えて、残り1人がビーコンを狙いに行けば簡単に達成出来るだろう。
「これはかなりの難易度だぜ」
「アオイがスナイパーをやめて前線に加わっても厳しいわね」
「俺自身も恐らく5人を同時に抑える事は難しいだろう」
ゴウ、マイ、アサヒがそれぞれに考えを言うがどうにもこいつらの頭は1対5しか想定していない様だった。
「ここは3対25を想定して行きましょうか」
「俺も同意見だ」
アオイの意見に俺も同意した。回避力、突撃力の高いマイとアサヒを先行させて敵陣に飛び込ませ、敵機ビーコンを狙う。残った俺達でその間ビーコンを守る作戦だ。
「アオイ……流石にそれは厳しくない」
「数的不利は変わらないのなら頭を取る事を狙った方がいいわ」
「恐らくだが、ビーコンを保有しているチームは全員は突っ込んで来ない。そして、それ以外が突っ込んで来るパターンがある」
「成程、機影が少ない所にマイかアサヒを突っ込ませれば速攻で終わるな」
「逆にどのグループも3人で仕掛けて2機ずつ残して来るのであれば15対3だ、これは持久戦になるが襲撃が重なる前に何機か落とせればどうにかなる」
「なんで?」
「突っ込んで来るバーストの数が減る事が予想される、全機バーストと言う思い切った展開をされると辛いが、手数の少ない機体で固まってくれたのであれば問題なく対処出来る」
「と言うか、それしか方法はないと思うんだ、ユーゴくんと村上くんと私でどうにか守り切りって、その間に氷川くんとマイちゃんに敵機ビーコンをお願いするそれしかない」
という訳で、機体をアサルトを俺とマイとアサヒがセレクトし、ゴウとアオイはバーストをセレクトした。
速攻を求められる2人には機動力が求められる。アサヒ得意のスラッシュでは、弾幕を前に突破できない可能性が出てしまう。
防衛の前衛を務める俺も機動力が必要で、2人はバーストの対レーザーフィールドで射撃からビーコンを守る。実弾とスパークのライフルは俺が対処する事とした。
演習が開始される。
「氷川アサヒ、第2班に向かって進行する」
「如月マイ、第5班に向かって進行します」
「了解、突撃に際して部隊と遭遇した場合牽制程度の戦闘で離脱して下さい」
「「了解」」
2人の声が同時に響いた。それと同時に俺は【フィールド・トレース】を発動した。
以前と違い【フィールド・トレース】単体なら目の発光現象は抑えられていた。
拡大された視野から5つの方向から迫る敵機の数を割り出す。どうやら各方面3機ずつ攻めて来る様だ。
俺は3、4、6班の中で1番早く到達しそうな4班を先にマークした。
「ゴウ、アオイ、3と6班の方向に威嚇射撃を1分後に頼む」
「俺は3分だけ前に出て4班の足を止める」
「ユーゴくんは流石の知覚範囲ね。了解私は3班を村上くんは6班を狙います。威嚇射撃後はフィールドを展開してフォメーションを維持」
「了解、頼んだぜユーゴ」
「出来るだけやってみる」
俺は早速4班に迎って前に出る
「こちらアサヒ、2班方面にて敵機を確認そのまま突撃する」
「了解、敵機は均等に攻めてきている様なので数を減らせたらお願いします」
「了解」
「こちらマイ。こちらも敵機確認。迂回しつつ側面から当たり足を止めます」
「了解、少しでも止めれたらそのまま敵陣へお願い」
「任せて」
突撃した2人は直ぐにも敵機と遭遇した様だ。
全体の来る数が少なかった場合はアサヒとマイに遭遇予定の敵機と交戦して貰う手筈となっていた。
「こちらユーゴ、4班前衛を捕捉。数3、3機共にバーストだ」
「これは良くない方のシナリオだね」
「少しでもダメージを取って防衛ラインに戻る」
そう言って俺はバーストに迫る。足の遅いバーストが1番前に出ていた部隊となると相手が統率されて動いているか、何かの誘いに乗せられた可能性が考えられる。
だが、好都合である。
ミサイルポッドを展開した隙を逃さずレーザーライフルを射撃して誘爆を狙うと肩ごと吹き飛ばす事が出来た。
「バーストは展開されると相手をしづらいが、形のできる前なら」
バランスを崩したバーストに張りつき四肢を切り落とす。
「こちらユーゴ、一機撃墜」
遭遇してから数秒での撃墜。その隙に他の2機が俺を通過していた。
狙いがハッキリしないがバーストの重量で高機動のアサルトに背を向けるとは何かの策か無能か。
直ぐに追撃して両機の片足を狙う
「流石に速いな、もう少し引きつけろ」
「ダメだ、速すぎる!奴の機体は通常の3ば……」
どこかの世界では通例の言葉を言いかけた様だがその様な時間を与えるつもりは無い。俺はもう1機を出力最大のレーザーソードで胴体を切り捨てた。
俺は空間魔法【ディストーション】の応用である【コンプレッション】を発動した。空間のあらゆる物体に作用して、魔法力による足場を形成する。
その足場を蹴り飛ばし続ける事でジャンプを繰り返す。地面による摩擦がない為、フィールドを走行する重量の重いバーストには対処の難しい速度で移動できる。
「馬鹿な」
「バーストで前に出たかったら防御フィールドを使えるようにホイール最大出力のダッシュは控えるんだな」
残る一機もレーザーソード最大出力で胴体を切り、戦闘不能に追い込んだ。
ゴウ達の威嚇射撃を確認してから1分。戻れば丁度3分で戻れるだろう。
「こちらユーゴ、残り2機も撃墜、防衛ラインに復帰する」
「了解、こちらも敵機を確認30秒程で交戦に入ります」
「了解した。30秒で戻る」
「こちらマイ、一機撃墜して敵機後続機と接触、ビーコン確認出来ず」
「了解、マイちゃんはそのまま振り切れそうなら6班拠点に向かって下さい」
「了解」
「こちらアサヒ、敵機3機撃墜」
「氷川くん、少しやり過ぎです。2班の拠点に急いで下さい」
「了解」
アサヒの判断は間違いとは言い難い、倒せるのなら倒して置いた方が防衛は簡単になる。
今回は勝ちを急いでいるが、敵に位置のバレているビーコンを守る戦いだ。実際5部隊から3機ずつ攻めて来ていたので15機のうち、俺とマイとアサヒで7体を撃墜できた。
残る第1波8体となればと防衛ラインの負担は大幅に軽減された。
守りを確実にする為の好判断ともとれる。但し、報連相はしっかりとしよう。
開幕好調にペースを掴み、衝突目前の防衛ラインに間に合った俺。
ここからが防衛戦の本番である。
機体があんまり登場するとややこしい気もしますが、読み手の方の脳内補完でイメージを補って頂ければと思います。( ̄▽ ̄;)