決着、魔法は天然に敗れる件
アサヒの堕天疾風斬をいなした俺だが、【ディストーション】の余波で姿勢制御に戸惑った。
幸いアサヒの追撃は無かった。恐らく一撃必殺のカウンター技故に連続攻撃の型ではないのであろう。
「流石に連携攻撃は考えていなかったのか?」
「1度見れば対策を練る奴も出てくるが、基本的にこの剣を見た時には決着しているからな」
「対策する奴が現れても、お前が個人技最強と言われるのであれば、当然その欠点を補う技があると判断すれば間違いないな」
「流石だな…その通りだ。戦闘中の冷静な分析といい明らかに戦い慣れているな……それでこそ、このデュエルにも意味があると言うものだ」
アサヒは自分の剣技について言い当てられた事を喜んでいる様だ。戦闘狂と言う訳では無さそうだが、本質の分かる相手と戦い、自分の技に更に磨きをかけたいのだろうか?
そもそも風の秘剣とか言われたら、他もあるだろうと考えるのが普通ではないか?
しかし、【マインド・トレース】で読み取るに恐らく本気で俺が看破したのは技量であると思っている様だ。技術だけでなく、天然の笑いにも長けた男、それが氷川アサヒと言える。
「ユーゴ、お前の本当の力を見せてみろ」
「手加減などしていないさ」
カウンターを恐れる俺に対して、機体を寄せるアサヒ。
対する俺は威力の期待出来ないレーザーガンの収束性を低下させ、拡散する様に放つ。これが紅い閃光の謂われと思うと残念極まりない。
だが……
「やるな、確かに回避は難しいか」
「え?」
地味にヒットをしている。アサヒは単純にそれを全て避けようとして一部を被弾したようだ。【イーグルアイ】での予想を裏切られた。
最小限の回避に拘るが故の被弾とも言えるが威力に乏しいレーザーガンを更に拡散させた為、ダメージが取れる訳もない。
何かあるのかとも考えたが、どうやら純粋に試した様だ。だがこの好機を逃す訳にはいかない。
「チャンスは逃さない」
俺はマシンキャノンと拡散レーザーガンをばら撒き、アサヒの姿勢を崩そうとする。
しかし、アサヒは既にレーザーソードを懐に収め再び居合の構えに入っている。
「避けれないなら迎撃するまでだ。飛翔せよ、空の秘剣、堕天旋風斬」
斬撃モーション時に出力を調整した飛ぶ斬撃である。マシンキャノンを弾き、拡散レーザーの方向を逸らしながら斬撃が俺に迫る。
と言うか魔法もビックリなレベルの詠唱である。この文言を唱えてから打ち出すこの秘剣はどれだけ展開を先読みしたら出せるのだろうか?初見で無ければフェイント以外に使い道の無い無駄である。
俺は飛ぶ斬撃を加速式レーザーソードで弾く。その隙にアサヒ機は俺の目前に迫っていた。
「甘いな、堕天真空斬」
真空斬は、高速で接近しすれ違いざまに連続剣技で切り抜ける技である。
だが俺も先程飛ぶ斬撃を弾いた加速式レーザーソードに小細工をしていた。アサヒの旋風斬を模して加速式レーザーソードの出力を調整し飛ばすことはできなかったが、残る斬撃を形成していた。
アサヒはその性質に感づき、急ブレーキをかけて間合いを取る。
「なんだと、あの一瞬でモノにしたのか?」
「飛ぶ斬撃と要領は同じだが完全再現には至らないがこう言う使い道もある」
「考えたな」
「模倣ではあるが、著作権は特に問題ないな?」
「残った斬撃がまるで三日月だな……そうだ堕天月光斬と名付けるか」
「……」
言葉を失う俺。本気で考えているようだ。しかしその余裕から見ても、アサヒは明らかにデュエル慣れしている。連撃、カウンターなどを実戦で実行出来る技術は学生のレベルでは無い。
連携を駆使した場合、学園のカリキュラムに従った通常の生徒では手も足も出ないだろう。【イーグルアイ】を用いてやっと対処出来るレベルだ。
つまり彼の技を先読みしなくては対処出来ない。単機で張り付かれたらまず終わりと捉えて良いだろう。
「実戦ではデュエル形式の技術など役に立たないと思っていたが、このレベルの技術ならアサヒをどこまで敵陣まで導けるかが勝利のカギとなりそうだな」
「俺の剣技は勝敗を決める剣技まで昇華させてある。だが、そこまで持ち込むのは1人では成しえない。俺は過去の経験からそれを学んだ」
「良い経験を詰んだな、ならば後はアサヒの信頼を勝ち取る事が出来れば演習は問題ないと言う事だな」
近寄り難い性格と勘違いされがちのアサヒだが、チーム、部隊などの集団戦闘の意義は十分に心得ているようだ。後は彼の前に立ち、道を開く前衛になれるかどうかを試されているのだろう。
「予想通り氷川アサヒが押しているな」
「はい。これで天城ユーゴにはデュエルでの勝ち目は無くなったかと思います」
「そうだな、負けるかどうかは分からないが」
「都合上決着が着くゲームですから」
「出来れば次は集団戦が見たいがね、氷川アサヒとて昨日の戦闘の様に天城ユーゴの後ろに優秀なスナイパーがいた場合にはカウンターも連撃も使えまい」
「優秀なセンスティブの氷川アサヒも感知範囲が狭い弱点を抱えていますからね」
「天城ユーゴがセンスティブであればそこに気づいたかもしれんが……気づいたとしても単騎デュエルではそれを生かす事も出来ないな」
士官達の言葉は届いていないが、俺はアサヒのセンスティブとしての感知範囲に対してそれに近い仮説を立てていた。
センスティブにもタイプがあり、アサヒ、マイ、ゴウの様なインファイトを好むセンスティブは、性格では積極的な面が強く、恐らく近くのモノを強く感じる特性がある。逆にアオイやトーマの様にアウトレンジを好むセンスティブは性格面では穏やかで広い範囲を捉える特性があると考えている。
アサヒを確実に仕留めるには知覚の苦手な範囲から攻める必要があるが、スラッシュスレイブにはその様な武装がない。俺がアサヒを撃墜するには、アサヒを超えるインファイトをする他無いと言うのが現状である。
【フレイムランサー】と言う、設置型の攻撃魔法等を足元に仕掛け、攻撃のタイミングで発動させれば簡単に串刺しに出来そうだが、目立ち過ぎる為、封印しておくとして。
「どうした?自分からは来ないのか?」
妄想を広げている所にアサヒは攻撃の手を緩めない。だがそれは単純に押し込まれているのではなく、アサヒも一撃を決める事が出来ていない事もこの状況を作っている。
「ゴウくん、アサヒくんが張り付いてからこんなに時間かかったのって初めてじゃない」
「あぁ、マイが粘った事もあったが、ここまで長い事かかったことは無いな」
「だとすると、アレで決めるのかも」
マイがアサヒに敗れた秘剣がある。それは超反応を持ってしても追いつかなったという事だ。
俺も単騎デュエルでマイにアサヒが勝っている事から疾風斬を超える返し技があると見ている。マイの反応を超えるにはカウンターしかない。
そのため……怖くて攻められないのだ。
「ならばこちらから行くぞ」
アサヒは右に構えたレーザーソードを両手持ちに切り替えると堕天旋風斬を繰り出した。
飛ぶ斬撃と共に突進するアサヒ、連続攻撃までは読めたが恐らく更に次がある。二刀流に持ち替えて敢えて突進する。
敢えて左手に構えた加速式レーザーソードで旋風斬の方を相殺した。
「さっきと同じか、だが今度は残る斬撃には臆さん、堕天真空……」
アサヒが真空斬を繰り出そうとしたタイミングで俺は機体を反転させながら右に構えたレーザーソードを投げつけた。
アサヒ機のメインカメラである顔面部に直撃し、一瞬の怯みを生んだ。
俺は機体を回転させた回転力も加えた加速式レーザーソードの一撃を狙う。
「馬鹿な、騎士が剣を自ら手放すなど」
「いや、俺は騎士ではない」
恐るべきレベルの天然である。いつの間にか俺にまで騎士たる心情を押し付けようとしている。
「そこだぁぁ」
「させるか、知りがたきこと闇の如く!堕天虚空斬」
またも長い詠唱が……カウンターの刹那のタイミングに時が止まっているのか?
カウンターの中でも後の先を取る真空斬と違い、胴体に一撃必殺ではなく、ワンテンポ速く切りかかり、攻撃してくる腕から切り落としていくカウンター技である。
発生が速く、真空斬を知っている相手には効果的な技であった。
アサヒは虚空斬で俺の機体の左手首部を切り落とし、レーザーソードごとたたき落とすと残った手足を連続剣のカウンターを狙う。
だが、そこまで【イーグルアイ】で読めていた為、右手に収束率を上げたレーザーガンを構えていた。連撃を繰り出される前に胴体に連射するつもりだったが……
アサヒ機が倒れ込み回避される。
【イーグルアイ】の予測を超えた動きだった。この世界に来てから予測をここまで上回られたのは初めての経験だった。
足元を切り裂かれ、ダウンした所にレーザーソードを突き付けられた。
「なるほど、そう言う事か」
何となく状況を理解すると、俺はシステムの降参を選び敗北した。機体はオートで回収されてそれぞれのスタンバイルームに戻された。
「流石に氷川が勝ったか」
「映画の戦闘の様だったな」
「実践で役立つかまでは分からないけど氷川の戦いは何時見てもカッコイイよな」
「あの挑戦者も初見でアサヒの技をかなり引き出してたよな」
ギャラリーも戦前の予想通りのアサヒの技術に加え、2日続けての俺の戦いについても評価を与えてくれた。
機体を降りるとトーマが駆け寄ってきた。
「流石だねユーゴ、最後の連撃合戦は惜しかったけど氷川くん相手に善戦以上の素晴らしい戦いだったよ」
「正直な所勝てると思ったのだが、流石は堕天騎士と言った所だな最終的にはお手上げだった」
着替えを済ませ、成績を確認する。デュエルでは機体を破損させると修理コストとして、成績が引かれるのだが、今回の成績の表記がおかしく俺は失点どころか、何故かプラスとなっていた。
「これはどう言う事だ?」
「単純に機体破損、敗北によるマイナス点を戦績点が上回ったのかな?」
詳細は分からないまま、一先ずマイナスにならなかった事に安堵した。ここで成績が引かれると一ヶ月後にBクラスにも上がれなくなってしまう可能性がある。どうにかやられるにしても程々の成績で収める必要がある。
そして更衣室を出ると、アサヒとアオイが待っていた。
「正直に言うと」
アサヒが口を開くが俺はそれを制した。
「どうあれ、堕天騎士は流石の強さだな、運良く防げたモノもあったが、基本的に一瞬でやられる要素ばかりだった」
「運は俺の方も大きかった」
最後のアサヒ機の倒れ込みは、ギプスでグルグル巻の足が引っかかり、ブレーキを予想に反して踏んでしまい倒れ込んだのだ。
そこから持ち前のセンスと反応で持ち直し、トドメに至ったという訳である。
別に俺はそれに対して何かを言うつもりは無い。
寧ろ勉強になった。運動は必ずしも予測通りに繰り出されるものだけではない。【マインド・トレース】も絶対ではないと言う事を実戦の前に知れたのは大きい。もう少し上位の魔法もあるが、持続時間の心配がある為まだ用いていないが【イーグルアイ】を持続できる時間からそろそろ解放できるかも知れない。
「流石に苦戦したようだな」
聞き慣れぬ声がしたので振り返るとそこには軍服の士官が立っていた。
階級を表す肩の印を見る限り、男の方は大尉で、女の方が中尉の様だ。
「俺は青島スミト大尉だ、初めましてだな天城ユーゴくん」
なんと言うことだ。早速ターゲットが目の前にいるではないか。
周囲が敬礼をしているので俺も敬礼をするが、果たして学生の身分で敬礼をするのが正しいのかどうか。
この目の前に現れたターゲットはこちらが関心を持っている以上に既に俺に関心を持っているような気がした。
奴も異世界からの転移者か?
次回、いよいよ物語のポイントにたどり着きます。全世界の魔法の力とこの世界にも接点があった。そんなお話を展開して行くつもりです。こんな駄文にも評価やブックマークを頂けている様で大変光栄です。励みになります。本当にありがとうございます。