魔法の力で学年ナンバーワンと張り合う件
やっと部屋の片付けが終わった。
ルームメイトのトーマは清潔感に溢れていた為、俺の荷物が目立っていたが、トーマの協力を得て無事、部屋は片付いた。
「ユーゴ、明日は氷川くんとデュエルするんだよね」
「個人技最強と言われるアサヒと戦えるのは大変貴重な機会だな」
「何故受けたの?君たちは同じグループでしょ?」
奴も俺と同じく型通りの動きをしないタイプだ、事前にある程度把握しておく事で、連携に反映できる。
「こちらの動きを見てもらう事で信頼を得て演習の成功に近づけたいと思っている」
「そんな事をしなくても君の評価は絶対的なモノになっている様に見えたよ」
「奴も言っていたが、見てみたいという事は自分で見ないと分からんと言うことだろう」
そして翌日の講義後、アサヒと俺のデュエルが執り行われる。所定の手続きは昼に済ませていたが、これ程早く許可が降りるのは不思議だ。演習機体の修理はどの様になされているのだろうか。
演習室に入ると周囲には凄まじい数の観戦者がいた。Aクラスだけでなく、Bクラスの生徒もいる様だ。中には教官も混ざっている。
周囲に圧倒されながら俺とトーマがスタンバイルームに入るとアサヒとアオイが待っていた。
「アサヒ、少し人が多過ぎないか」
「マイとゴウの仕業だ」
そう言ってアサヒは不思議なチラシを俺に手渡す。
学園史上最強対最強のデュエル。負け無しの堕天騎士、氷川アサヒ対チャレンジャー紅い閃光、天城ユーゴ……なんとも凄い見出しだった。
「アサヒの堕天騎士は置いておいて、俺の紅い閃光と言う二つ名は初めて聞いたぞ」
「村上くんが考えたみたいよ、ユーゴくんと戦った時の拡散するレーザーライフルの使い方を比喩したとか」
「たった1回のあれがか、やはりゴウも撃墜された事を気にしているのか……」
「余程印象に残ったみたいだね。これを機会にユーゴくんも何か赤い物でも身につけたら」
「俺の何処に赤の要素が有るのか……」
この世界のエースパイロットはパーソナルカラーを称するらしいが、そもそも学生のCクラスの分際である。それに俺は紅と言うよりは服装一つをとっても黒ばかりだ。魔術師的で落ち着く為、自然と黒ばかりを着ている。
「多分だけど、ここの卒業生で伝説のセンスティブ。蒼い雷と呼ばれた青島スミト大尉のオマージュかもね」
青島スミト、トーマの解説によれば高校在学中から即戦力で国防戦に参加し、圧倒的物量で攻めてくる他国軍との戦闘でトップスコアで勝利に貢献したスーパーエースらしい。
若しかすると彼も転移者かも知れない。いつか会っておく必要がありそうだ。
「蒼い雷に対して紅い閃光か、Cクラスが二つ名を名乗っていると言われたら良い笑いものだ……」
すごく手の込んだチラシを丸めると裏側に来場者全員にポップコーン無料配布と書いてある券を確認した。
「奴らの狙いは?」
「正直分からんがポップコーンとジュースを販売してひと儲けすると」
商売根性とでも言うのだろうか。
コストの低いポップコーンを無償提供し人を集め、塩分のお供として、飲み物で売上を伸ばすと言うのか、奴らは戦術ではなく商売に長けている様だ。予想するに塩味が濃い目とみた。
「早速興味深いイベントが起こっているようだな」
「はい。デュエルの申請は受けていましたが、まさかお祭り騒ぎにまで発展していたとは思いませんでした」
別室の教官室にて軍の士官達が俺達のデュエルフィールドをモニターしながら資料を見ている。そこにはアサヒと俺のパーソナルデータが映されている。今回のデュエルは軍の士官達も気になる様だ。
「中止させるのか?」
「本来であればCクラス虐めとも取れるので止めるべきなのですが、非常に注目のカードでありまして」
アサヒの実績は既に軍も把握している所であるが、異例の体験編入の俺も報告対象となっている。そして昨日の戦闘データも解析し報告されている。
「天城ユーゴか、まさに天才と言うべきセンスだが……センスティブではないと」
「適正検査では不適合でした。思念操作兵器を扱う事は難しいかと思います。」
思念操作兵器、言わば遠隔ブレインフィールドバックシステムとも言え、精錬すると1人での複数機を操作を可能とする。優秀なセンスティブが1人で小隊を形成できる我が軍の極秘システムである。
「実に惜しい男だ、だが将来性はあるな」
「指示通り、Aクラスに編入させましたが実力のある生徒は既に評価している様です」
「今日勝てば概ね上の理解は得られそうか」
「問題なく、ただ、昨日のデータでも十分かと思いますので勝敗はオマケ程度の認識でおります」
「何故だ?」
「恐らく天城ユーゴは今日は勝てないでしょう」
「本気は出さないと?」
「いえ、本気だと思いますが、アサヒの技を引き出す為にあえて同じ土俵に上がるでしょう」
質問を受ける尉官は、俺の事を何処まで知っているのかは定かでは無いが、勝ちに拘っていない所まで把握している様だ。
「それでは本気で勝ちを取りに行った場合なら中尉はどちらが勝つと思う」
「両者とも異質な戦闘スタイルの為、判断が難しい所ですが、両者が本気で戦ったとしても単機デュエルでしたら氷川アサヒが勝つと思います」
「確かに氷川アサヒの剣技は敵機に張り付く事が出来れば軍でも即戦力クラスだな」
軍人としての知識や経験は現役の軍人の方が優れているのは事実だが、機動兵器の操縦に限っていえばブレインフィードバックシステムへの適応の都合もあり、丁度俺達位の年齢の方が勝るっている場合もある。
軍の人間としては、最前線の戦力となるならば学生であっても起用したい程に人材が不足しているのが現状だ。
「では質問を変えよう、自分の部下に引き入れるとしたらどちらかな」
「天城ユーゴでしょう」
「即答だな」
「周りを活かせる天城ユーゴと周りに活かされる氷川アサヒではそう言う結果になるかと」
「中尉も昨日のデュエルの映像を入念に見たようだな」
「昨日は現場で観戦しておりました。その上で断言します……」
多くの生徒や教官、軍の士官まで注目している。
アピールのチャンスと見るか、流石に目立ちすぎと考えるか。
このままアサヒに勝てた場合には、エンジュニアの道が途絶えるのではないか?
そんな胸騒ぎを他所に機体の準備は終わる。
「大丈夫かな?」
「トーマが心配してどうする」
「だって、流石の君も氷川くんには勝てるかどうか」
「必ず勝つ必要はないと思うのだが」
「だけどデュエルだし」
「この際だから言っておくと、トーマは勝ち負けを意識し過ぎだ、スナイパーは確かに敵を仕留める役割が多いかも知れないが、戦果は必ずしも敵を倒して勝つ事ではない」
「僕はあまり勝ちには……」
「その通りだ、お前は勝ちに拘ってはいない、しかし、勝ってしまった場合の事を気にし過ぎている」
「……」
「勝つではなく、守る為に負けない事も重要だ、そして今は勝つことが全てではない、学内ナンバー1を相手に生き残るだけでも戦果なのだからな」
「すごい思考だね。僕の迷いを払拭してくれそうな一言だ。守る為に負けないか、すごくしっくりくるよ」
「お前が俺の心を読めるように、俺にもお前の迷いがみえた」
「今から頑張る友を応援に来て、まさか励まされるとはね」
「大事なルームメイトだ、気にするな」
トーマのよく使う言葉だが、大体のケースで自分のよく放つ言葉は言ってもらいたい言葉である事が多い。
彼を刺激する方法としては間違ってはいないだろう。
トーマに見送られ、射出ゲートに機体をスタンバイ状態にする。
今回は射出前にカウントが始まり、カウントゼロで機体は射出されスタートとなった。スタートの仕方はランダムであり、このスタート方式の場合、出た瞬間から敵に狙撃される可能性もあるが戦場ではいつ狙われるかなど分かったものでは無い為、良いシステムだと思う。
開幕前から【イーグルアイ】を発動させ、アサヒの動きを感知する。
俺が機体をスレイブに変え、装備をスラッシュにした事で、スラッシュスレイブ同士の戦いとなった。
お互いが開幕前から一撃必殺を狙い、加速式レーザーソードで打ち合う。
「意外だったな、てっきりアサルトスレイブを選ぶかと思ったが」
「データは見せて貰った、単機で戦うには、ソードがパワー負けした場合の勝算は無いと見た」
「そう言えば俺の戦いを見せていなかったな、今日のデュエルはフェアではないか」
「問題は無い、データを踏まえ、俺も機体を変更した」
加速式レーザーソードは、刀身を固定するフィールド粒子に加速度を加えて貫通力を増している。そのため、通常のレーザーソードで受ければソードごと真っ二つにされる恐れがある。
アサヒと打ち合うにはスラッシュスレイブを選択する他なかったのだ。
「ユーゴの奴はアホか?」
完全に商人と化したゴウがコメントするがお祭りスタイルでは説得力がない。
その横で売店を片付けながらマイも答える。
「確かにアサヒくん相手にスラッシュスレイブで挑むなんて」
「アサルトで間合を取りながら詰めさせない事がアサヒに対する勝機だろうが、ユーゴの読みと技量があればアサルトでピッタリの相性の筈なのに」
「多分だけど、ユーゴくんはアサヒくんの戦い見た事ないから選択を誤ったのかも」
「そうか、あの技はデータには残らないか(ネタ的には凄く記憶に残るのだが)」
「知らないのか、それともあえてなのか、私達相手にあれだけ冷静に戦ったのだから、きっと何かある」
ゴウ達の言う通り、スラッシュスレイブの射撃兵装は頭部と肩部の固定式実弾のマシンガンと携行型のレーザーライフルを短く取り回しを良くしたレーザーガンである為、張り付くまではダメージを取れる武装はない。
レーザーシールドを装備できるアサルトであれば、幾分か有利に立ち回れる。
「だが、それではデュエルを受けた意味が無い」
俺は左に構えた加速式レーザーソードで突き技を放つ。
今回はアサヒの剣技を見る為にデュエルを受けた、剣の間合いでやり合わなくてはそれを披露して貰う事は出来ない。
学園で唯一の連続剣技使い。そのルーツはこの世界外のものかも知れない。その想いがアサヒに対する俺の関心である。
「安易だな、風の秘剣、堕天疾風斬」
居合の様な構えから高速の剣技が左切り上げの太刀筋で俺の機体の胴体部を狙う。
【イーグルアイ】は迷いのない選択をするアサヒの思考を捉えており、ギリギリのタイミングで右手のソードを展開し太刀筋を逸らしつつ、【ディストーション】を併用して空間を歪ませて自分の機体を弾き飛ばして回避した。
「初見で疾風斬を回避するとはな」
「その手の攻撃が来るんじゃないかと誘っての攻撃だったからな、正直決めるつもりの一撃ならやられていた」
想像を超える速さであった。攻撃は読めても速さまでのイメージが甘かった。魔術師の戦闘と違い実際機械が振るう剣はイメージ精錬されるとタイミング以外は簡略化されて読みづらい事が分かった。これは良い教訓と覚えておこう。
さて、堕天騎士は本物の強さを持っている。今の俺の技量で何処までやれるのか……思う存分試して見よう。
1番描きたかった対決を早期に書いてしまいました。VSアサヒは次回が決着です。これからどんな展開にして行くか悩ましい所ですが魔法の力で無双する件は魔法で直接倒す描写は控えたいと思っております。空間の酸素を無くてパイロットをワンキルするなどはありませんので悪しからず。